次の日の朝
その日の朝、青羽はいつもより早く起きた。緊張で目が覚めたのだ。女性経験はゼロではないが、女性と二人きりで食事に行くのは、かなり久しぶりのことだ。
もしかしたら口約束だけでリナは来ないかも知れない。いろんな考えが頭を過ぎる。
チェックアウトを済ますと、ロビーのソファーでリナを待った。
約束の時間の数分前にリナはロビーへ現われた。リナが来てくれたことに青羽は安堵した。
この日、リナはグレーのワンピースを着ていた。昼間と夜とでは女は魅せる顔を変える。改めてリナを見ると、その可愛いらしさに青羽の心は傾いた。
黒いスーツを着たマネージャーに案内されてレストランの席に着くと、リナが口を開いた。
「青羽さんってこういうお店によく行かれますか?」
本格的なフレンチは友人の結婚式以来だ。
「たっ、たまにしか来ないよ」
青羽は緊張していることを隠すようにリナへメニューを差し出した。
「コース料理のメインディッシュはいかが致しましょうか?」
マネージャーに促されて、
「アマダイのポワレと桜海老のビスクを下さい」
と青羽は言った。
青羽に続いてリナは少し考えてから、
「私は牛ロース肉とフォアグラのトリュフソースを下さい」
と言った。
「かしこまりました」
マネージャーは軽く礼をすると、メニューを片手に奥へと消えていった。
「青羽さんは魚料理が好きなんですね」
「昨日飲みすぎて二日酔いだから、脂っこい料理を避けたんだ」
「男の人って接待とか大変ですよね」
「そんなことはないよ。それよりも、リナちゃんは肉料理が好きなんだね?」
「私、魚が苦手なんです。小さい頃に魚の骨が喉に刺さったことがあって。でも、フォアグラとトリュフって私、初めて食べます」
嬉しそうにリナが言う。二人の間に笑顔が漏れた。
昨夜の話題を逸らすかのように、当たり障りのない会話をしながら、前菜からスープ、メインディッシュへと料理は進む。青羽は極めて紳士に振舞うが、その不慣れな感じがリナの笑いを誘う。リナが笑ってくれることで、青羽は何とも言えない高揚を感じた。
食後のコーヒーとデザートが済むと、二人はレストランを出た。
リナが頻りに感謝の言葉を口にする。青羽は小恥ずかしく感じた。
帰りの新幹線までにはまだかなり余裕があったが、あえて時間が無いように装い、青羽は小走りでロビーを出て駅へと向かった。
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