第八章・そして、始まるタクティクス ~ La・WOOL side③ ~

 「いや、わかっとったけれどもね?」


 「…………」


 どうにか錯乱状態から抜け出したアンナによる承認を受け、ゼノ君とココがラ・ウール防衛組として正式に組み込まれた。


 その配置はもちろん理にかなったものであり、とても妥当であるとアンナも納得してくれた。


 けれど、俺が意外だったのはゼノ君の態度。


 この後にみんなより先んじて行う斥候や開戦時のラ・ウールの守護任務。


 頬っぺたについたご飯粒やケチャップを拭ってやったり、なるべく普通の生活をできるように変装させたりと、子煩悩具合が目立つ彼のことだから、そんな危険な場所からココを遠ざけようとするんだと思っていた。


 しかし、ゼノ君はどこにでも付いていくと言ったココの発言を快諾。


 それどころか、むしろ付いて来てくれる方が有難いとでもいうくらいの感じだった。


 「いや、ホントじゃよ?いやいや、マジマジ。マジマンジにわかってたから。マスターにそんな甲斐性があるわけがないことは最初からわかってたからね?」


 「……へぇ……」


 ゼノ君とココ。


 やっぱりこの二人の関係性がイマイチよくわからない。


 ベッタリしてそうで、実はそれぞれに結構、単独行動をしているし。


 あっさりとしてそうで、互いのことを常に想っているという親愛を感じたりもする。


 二人が並び立つ様子を眺めるとして。


 大半の人は、兄と妹とか父と娘とかその辺りを連想するんだと思う。


 さすがに恋仲にあるとまで考えるのは穿ちすぎている気がするし、やっぱり男女間の情よりも肉親的な情に近いものを交わし合っているんだろう。


 一見しても二見してみても、それは変わらない。


 「あれじゃよ、あれ。うん、あれな?ちょっとな?お主らの力量をな?これから壮絶な戦いに身を投じなければならないお主らをこう、な?我があんな感じで試してみたんじゃよ」


 「……ふーん……」


 ただ、ふとした時。


 何気ない日常の一コマの中で彼らの姿が目に入った時。


 どことなく、兄妹とか親子という関係だけではくくれない、不思議な絆みたいなものを俺は感じることがある。


 初めて彼と出会った廃聖堂でのゼノ君の振る舞い。


 幾つかの言動と、俺とアンナの魔力を食べて豹変したココの雰囲気。


 舞踏会で酒を酌み交わした時にゼノ君が零した言葉。


 デレク・カッサンドラが襲撃してきた時にさえずっと感じられなかったココの気配。


 それらの随所に込められていたのは親愛や愛情よりも、もっと絶対的な何か。


 ゼノ君に任せておけば万事大丈夫というのは信頼なんだろう。

  ココなら放っておいてもまったく問題はないというのは信用なんだろう。


 たけど、俺にはその信頼や信用を額面通りには受け取れない。


 正確には、その信頼と信用を乗せるための土台というか、もっと揺るがぬ何かが、二人を強く結びつけているんだろうと考えている。


 「あ、そうじゃ、あれじゃあれ。試練じゃ。うん、試練。≪断罪の巫女≫ならぬ≪創世の魔女≫からのこれはありがた~き試練なのじゃ。あーゆー敵からの精神攻撃に耐えられるかの試練なんじゃよ、うん」


 「……ほぉ……」


 アルルとアンナの姉妹のように仲の良い主従関係とは違う。


 俺とリリーのような一蓮托生の眷属関係ともまた違う。


 そう、例えるなら女王の圧倒的威光の前に恭しく跪いた忠実なる騎士……。


 ゼノ君のガラの悪さとココの幼く奔放な姿のせいでわかり辛いのだけれど。


 そこに決して覆すことのできない明確にして明瞭な上下関係が存在し、意識的にでも無意識的にでも、二人はその関係に縛られているのではないかと思っているのだ。


 ……まぁ、だからと言ってそれがどうしたとも思う。


 二人の仲が良いことには間違いはないし、ゼノ君が普段からココのことを気にかけて押しつけがましくない程度にさり気のない世話を焼いたりしているのは紛れもない愛情なのだ。


 別に二人にとって互いがどんな存在であるのかなんてどうでもいい。


 人と人との繋がり方なんて千差万別、十人十色。


 『いろいろあって、みんないい』という誰かの格言だか詩の一節だかみんなの歌のワンフレーズだかの通り。


 人同士の関係性とはいろいろだ。


 いろんな関係があって、みんないいのだ。


 ……そう、だからたとえば……。


 「じゃからなんにもないからな?ホント、マジデジマ、な~んにもないからな?」


 「……な~んにも?(笑)」


 こうやって、黒衣の幼女と眼鏡の才女の。


 「そうじゃそうじゃ。な~んにもじゃ。……真顔で迫られてからのシンプルかつ熱烈な愛の告白を受けて、自ら取ってつけたようなロリババアキャラなど一瞬で瓦解して素の表情を晒してしまうほどに本気でドキドキキュンキュンしてしまったわけではなく、あまつさえあの短い時間で二人お揃いの黒髪黒眼がそっくり遺伝した可愛らしい女の子と凛々しい男の子との幸せな四人家族の団欒風景を想像しつつ、下の子が大学を卒業して上京することになりちょっと寂しいけれど新婚以来の夫婦二人暮らしになったことに実は内心で喜んでいる自分に気づき『ああ、母である前にアタシも一人の女だったのね』と頬を染めつつエステの予約をしたりこっそり通販でセクシーなランジェリーを買ったりしたりと準備を整え迎えた二度目の初夜からの朝チュンにまで妄想が発展したなんてことは、ありえるはずがなかろうに」


 「……ふっ(嘲笑)……」


 「も~なんじゃ!なんで鼻で笑うんじゃ!めちゃ感じ悪ぅ!!」


 柄にもなくワチャワチャしている伝説の大魔女と。


 出会った頃を彷彿とさせる冷徹かつサディスティックな感じに微笑むラ・ウールの軍師の。


 こんな対立構造もまた、きっと。


 『いろいろあって、みんないい』んだろうな……。


 「よかったですねぇ、髪も瞳もお揃いで。私みたいな金とのまだらじゃないから、お子様方はさぞや綺麗な黒髪をお持ちになって生まれることでございましょうでございます」


 「感じ悪ぅ!!」


 「…………」


 そんなこんなや、すったもんだはあったけれど。


 会議はつつがなく終わり、準備はすべて整った。


 さぁ、それでは……。


         タクティクスをはじめよう




【王女奪還組】

 ◎タチガミ・イチジ 

 

 

 

 「(キュキュキュ)……以上っと」


 「いやいやいやいやいや!!」


 ホワイトボードに残された最後の空白を俺の名前で埋めると同時。


 リリーと何やら悶着していたアンナが苛烈にして神速の横やりを入れてきた。


 「何勝手に名前書いてるんですかまだまだなんやかんやとすったもんだの最中だというのに何つつがなく会議が終わったことにしようとしているんですか準備全然整ってないじゃないですか何格好いい感じに締めようとしているんですかっ!!」


 「おお……」


 そのグイグイくるツッコミ、なんだか久しぶりだなぁ。


 「姫様の捕らえられている場所だってあなたまだわからないでしょう!?」


 「いや、なんかアンナ立て込んでたし、後から聞こうかなと……」


 「そもそも立て込ませたのは誰ですか誰っ!?」


 「あ、はい……俺です……」


 「しかも、なんですかコレ!!」


 ビシッとアンナが指さしたのはホワイトボードに書かれた俺の名前。


 「姫様を救出するメンバー、これではあなた一人ですけどいいんですか!?」


 「ん?別にいいかなって」


 「いいわけないでしょ!!」


 「はい……ごめんなさい……」


 「けぷん、けぷん……あーあー、まぁまぁ落ち着くのじゃ、地味子よ」


 いつもの調子を取り戻したリリーが、間に入って取り持ってくれる。


 「マスターの軽いジョークじゃろうに」


 「ですがね?さすがに……」


 「いや?割と本気だったんだけれども」


 「本気?……ああ、うん、無感情だけれどなんて真っすぐな瞳……これは本気じゃな」


 「だろ?」


 「正しくは本気で正気ではない目、といった感じか」


 「正気でもあるってば。……ほら、ちゃんと見て(壁をドン!)」


 「いや突然の壁ドンで迫られてもじゃなぁ……」


 「……ちゃんと、俺の目を見て……」


 「いや、じゃからな?そんな……そん……な……」


 「……(ジィィィ)……」


 「そんな……な?見つめられて……も……」


 「……(ジィィィィィ)……」


 「……(ボッ!!)……」


 「わかった、リリー?」


 「……うん、わかった……」


 「はいはいはいはい!!そういうのもうい・い・で・す・か・ら!!」


 見つめ合う俺とリリーの間に割り込んで強引に引き離しにかかるアンナ。


 そして、その細腕からは想像もつかない力強さもそのままに、彼女はボードに書かれた俺の名前を手早く消してしまう。


 「そうやって有耶無耶にしたところで何も解決していませんからね?」


 「でも、実際、こっちに回す戦力って他に残ってないだろ?」


 「ですから、その辺りの調整をこれからですねぇ……」


 「俺はやるよ(壁をドン!!)」


 「ちょ、な、なんですか……わ、私までそんな風に懐柔しようと……」


 「……俺が救ってやるよ、君の大事な人を(ジィィ)」


 「わ、わかってます。あなたの意気込みはもうわかっていますから……そ、そんな……見つめないで……」


 「……なぁ、頼むよアンナ(顎をクイッ)」


 「ひゃぁん!!」


 「……やらせてくれよ(耳元でボソッ)」


 「ひゃぁぁぁんん!!」


 「……俺に……全部を委ねてくれないか(髪をサラサラッ)」


 「……は……い……わかりました……(ヘナヘナヘナ)」


 「ありがとうな(頭ポンポン)」


 「うにゅゅぅぅぅぅぅぅ……」


 「……テロリストよりも何よりも、あの人が一番危険でゲスいっすよね……」


 「ココもぉ!ココもドンドンとかポンポンされたぁぁい!!」


 「近づくんじゃねぇ、ココ。アレは女の敵だ」


 「やはりやりおるなぁ!!タチガミ殿!!」


 「イっくん……超カッコイイ……(ボッ)」


 「イチジさん……(ボッ)」


 さて、これもまた昔とった杵柄。


  ―― いい、イっくん?これは女の子が不機嫌な時にするとたちまち従順なネンネちゃんに変わるという究極奥義だからちゃんと覚えておくんだよ。あ、ちなみにお姉ちゃん以外には効果はないからね。ここね?ここすっごく大事だから。絶対に絶対に使ったらダメなんだよ。だから基本的には封印だからね、ふーいん ――


 と、姉から封印指定を受けていた究極奥義を仕方なく解禁。


 効果はないと言われていたけれど、どうやら年を重ねたことで俺なりに技を昇華できるまでに至ったらしく、結果、なんやかんやとすったもんだが一応の落ち着きを見せ、ようやく最後の作戦会議が再開される。




 「え~それでは、残りの作戦。姫様の奪還に関する話し合いです」


 「そうじゃな。姫様の奪還に関する話し合いをしなくてはならんのじゃ、うん」


 「この空気の中、まともに会議続けようとするとか本当にあんたらタフだな」


 「リリーたん……いや、わかってた。わかってはいたっすけどなんか悲しい……」


 「いつか、マジで刺されろな、あんた?」


 「……いいよ。無事に戦争が終わったらいくらでも刺されよう」


 「あんたも相当だな、おい……」


 「と、とりあえず、姫様が幽閉されている場所についてですが……」


 「旧ガストレア公爵領の城塞跡であったか?」


 「どの辺り?」


 「この地図で言えば……ここであるな。帝都ラクロナの北方。そうだな、ちょうど三十年ほど前になるのか。突如、独立宣言を出した当時の領主・ガストレア公爵が此度の戦のように帝国と争い、一時は優勢かと思われたが、結局は本腰を入れて潰しにかかった帝国に敗北したという曰く付きな土地である」


 「独立……なるほど、革命を掲げるあいつらにはおあつらえ向きな根城だ」


 「しかし、今では人が踏み入ることのできない死の大地。本拠地にするには不向きなようにも思えるのだがな」


 「死の大地?」


 「はい。元々が相当な武闘派であったガストレア公爵領はまさに領地が丸ごと一つの要塞となっています。特に本陣の置かれたガストレア城は六つの角からなるいわゆる稜堡式りょうほしき城郭で、当時、非常に攻略の難しいものだったそうです」


 「稜堡式りょうほしき……確か星形の堀と壁で囲った築城方式だったかな」


 「さすが、タチガミ殿。こういった知識の造詣も深いようであるな」


 「だけど、なんで死の大地?」


 「はい。ただでさえ固い守りをほこる城塞でしたが、戦いの後半、籠城を決め込んで根競べに入ってからはまさに鉄壁。武力制圧は滞り、兵糧攻めをしようにも資源もある程度あり、食物なども囲った自陣の中で賄えるだけの手法を確立していたがために効果なし。そのまま行けばガストレアの勝利、というところまで追いつめられた帝国は、当時の技術の粋を集めた決戦魔術兵器・『ネメシス』を投入。一夜にしてガストレア公爵の領土は、文字通り灰塵と帰しました。……そして三十年という歳月が過ぎた今でも、そこには草花の一本も生えることのない不毛の大地が広がるばかりなのです」


 「ネメシスとは……随分と皮肉が利いとるのぉ」


 「知ってるの、リリー?」


 「マスターのいた≪現世界あらよ≫に伝わるギリシャ神話の中に『ネメシス』という女神が登場するんじゃよ」


 「あ、僕知ってるっす。神に盾突く傲慢な人間に神罰を下す復讐の女神っすよね?」


 「読書オタクは伊達じゃないのぉ。なんかキモイけど」


 「なんで!?」


 「ここは≪現人あらびと≫の想いの結晶たる魔素がカオスっとる世界じゃ。伝承の形は違えども、時たまこんな風にストレートであちらと意味も語感も一致するワードも出てくる」


 「ナップルやバナナッツみたいなのばかりじゃないんだね」


 「しかし、神を自称して罰を下すとはのぉ。どちらが傲慢なのやら」


 「『ネメシス』の威力は絶大でした。辺りの木々という木々を燃やし、水という水を蒸発させ、建物も人も何もかもを跡形もなく消し飛ばしてしまいました。さきほど述べたガストレア城も、美しい六芒星の形の堀だけを残し、今はほとんど更地状態になっているそうです」


 「そして、ただ燃やしたり壊したりするだけならよかったのだが、その後が問題だったのだ」


 「死の大地……考えられるのは環境の汚染とかだろうか?……自然の回復力を妨げるようなレベルでの」


 「もしかしたら、タチガミさん?……核兵器っすかね?」


 「やっぱり、君もそう連想するか」


 「核兵器……というのはよくわかりませんが、はい、汚染というのは正解ですね。ガストレア公爵領のすべてとその周辺には……生物の生存機能に支障をきたすほど極めて高濃度の魔素が充満しているのです」


 「なるほどのぉ……この世界の住人が生きていくには必要不可欠な魔素ではあるが、それも行き過ぎれば猛毒となるからの。ほれ、マスターも心当たりあるじゃろ?お主が生身のまま濃密な魔素の充満する≪ゲート≫を通った時、体調が悪くなったはずじゃが」


 「ああ、あれか。アルルが魔力でバリアを張ってくれたけれど、しばらく気を失ってたんだよな。魔素酔い、とかアルルは言ってたかな」


 「なんだかんだで天才様のアヤツの術を持ってしてもそんな状態じゃ。草花にしろ魔獣・魔物にしろ人間にしろ、そんな環境でまともに生活をおくること……ただ生命を維持することですら困難じゃろうて」


 「なんでそんな異次元級の魔素がその土地に?」


 「……正直なところ、原因は詳しくわかっていないのです。ガストレア領が木っ端みじんとなった、それをもたらしたのが『ネメシス』という兵器だった、やはり帝国の勝利は揺るがなかった……というところまでしか発表はされていません。兵器の詳細についてはラクロナ帝国が軍事機密として一切の公開をしなかったので」


 「各国は当然それぞれに間者を放って探りを入れた。なにせ実際に領土一つを簡単に吹き飛ばしせしめた兵器であるからな。そんな危険物をよくわからないままに自国へ使われてはたまったものではない。まだ保有しているのか、その数はいくつか、量産は可能なのか、そしてあわよくばその製造方法を盗んでこちらも対抗してやろうとかいう目論みのためであるな。もちろん、ラ・ウールも例外ではない」


 「ますます核じみてきたな……」


 「……本当にどこの世界でも同じようなことしてるっすね。終わりのない抑止力合戦とかイタチごっことか」


 「どこの世界でも同じ人の営みがあるということじゃよ」


 「……それでも結局、どこの国も『ネメシス』については何も有力な情報を得ることができなかったわけだが」


 「そして、偶然とういわけではありませんが、今回の戦争とガストレア領の悲劇はあながち無関係ではないのです」


 「どういうことだろう?」


 「団長も述べた通り、帝国は『ネメシス』やガストレアとの争いについて異常ともいえるほど徹底的に秘密主義を貫きます。それは原則として平等同等をうたっている『ラクロナ大陸諸王国機構』における臨時会議の場に先代の皇帝陛下が直々に召喚されても変わりませんでした。どれだけ各国が批判に非難、疑問を浴びせかけたとしても陛下はノラリクラリと躱すばかりで一向に要領を得ず、回答は有耶無耶なまま。あえて答えらしい答えを出したことといえば、武力による脅しや機構からの脱盟を匂わせた国々に対して、それらをさらに上回るだけの武力……ようするに『ネメシス』の使用をチラつかせたのです」


 「本末転倒というか……」


 「横暴、粗暴、そして乱暴じゃな」


 「暴君三原則っすね」


 「その先代皇帝は本気で言ってたんだろうか?」


 「はい。どうやら本気も本気。元より苛烈な性格の持ち主だったようで、数百年に及ぶ平和な歴史を覆し、また大陸全土を巻き込んだ戦乱の世にでも突入していこうとするばかりの勢いだったそうです。……そして、それを未然に防いだのが、当時まだ皇太子であった若き日の現皇帝陛下。騒乱鎮圧のため皇太子殿下を筆頭にラクロナ内部で皇帝陛下を退位させる動きが強まり、結果としてその運動は成就して現政権が確立されていった次第です」


 「トンチキな父を持ってボンボンも大変じゃったのぉ。……おかげで若くしてラクロナ大陸の覇王たる座を得られたわけじゃけれども、な」


 「なんだか含みがあるね、リリー?」


 「……いやいや、気にするでない。ひねくれ者ゆえ、すぐに陰謀論とか世界を陰で牛耳る組織とかを邪推してしまうクセがあるだけじゃ」


 「ああ、中二なリリーたんも素敵っす!」 


 「ウザい、キモい、そしてクサい」


 「非モテ三重苦!!」


 「……それで、アンナ。この戦争との繋がりって?」


 「皇帝陛下の退位で騒動は落ち着いたかに見えましたが、その時の出来事は確かなシコリを残してしまいます。たとえば何も解決はしていない超兵器の謎、滅ぼされたガストレア公爵領と縁深かった者たちのやり場のない恨み、中立であるはずの『ラクロナ大陸諸王国機構』の不甲斐ない在り方、自らで均衡を崩してしまったラクロナ帝国への不信感などでしょうか。……そして、この頃からなのです。『革命の七人』のように、帝国の体制へと反発する者が表立って現れはじめたのは」


 「国単位ではともかく、個人レベルで反ラクロナ帝国を掲げた人たちが過激派組織を次々に形成していったってことか」


  「然り。しかも、それらに刺激されたのか山賊や海賊のような蛮行を働く荒くれ者たちが急激に増え始めたのもこの頃。戦争とまではいかない小競り合いが乱発したのである。……ちなみにデレク・カッサンドラが何のコネもない中流階級の出からラクロナ軍の第一中央近衛部隊隊長まで上り詰めることができたのも、入隊してからそのような蛮族どもを蹴散らしに蹴散らした功績が主だったりする」


 「それが今ではまったく真逆の立場ですからね。わからないものです」


 「……あー、話の腰を折ってわりーんだけど」


 「ゼノ君?」


 「いや、なかなか興味深いことを聞かせてもらったのはいーんだけど、ともかくその姫さんの捕まってる場所には、アジトにするような建物は無いし、そもそも誰もその土地には近づけねーってことでいいんだよな?」


 「え?あ、はい。そうですね」


 「なのにそんな場所を指定してきた。……この期に及んで敵さんが嘘つく理由はねーと思うんだけど、その辺の探りも必要なんじゃねーか、姉さん?」


 「はい。その真偽も調査しなければと諜報部の人間を既に旧ガストレア領に向かわせているところです」


 「今からじゃ間に合わねーだろ?距離的に」


 「……はい、正直に言いまして。あと三日ではどれだけ急いでも片道分の時間しかありません。なのでそちらは念話の出来る者を選りましたので、到着次第、通信をよこしてもらう手はずになっています」


 「それにしたって、もう戦争は始まっちまってる。何かあっても、戦いながらじゃ、新しい対策を練っている余裕なんてねーだろ」


 「それは……」


 「もしかして、ゼノ君。そっちの斥候にも行こうとしてる?」


 「……まぁな」


 「無茶です!さすがのあなたでも、ラ・ウール全域とガストレア領までなんて……」


 「そりゃ、一日じゃな。……でも二日あればいける」


 「なっ!?」


 「ゼノ青年よ、貴殿の言うことであるから吾輩は一つも疑ってはいないが、実際、我らの諜報部の足ですら片道三日かかる距離であるぞ?」


 「だからそっちは足じゃねー。……羽を使わせてもらう」


 「羽?」


 「陸路じゃ時間的に無理、海路も地理的に無理、だったら残るは空路だけだ」


 「にょっほっほ……面白いではないか、猫耳よ?して、≪王を狩る者セリアンスロープ≫は本気を出せば耳や尻尾どころか翼まで生えてくるビックリ生物なんじゃろうか?」


 「……別に俺のじゃねー。コイツだよ、コイツ」


 「ZZZ……ZZZ……」


 「おら、起きろ(ペシペシ)」


 「ふにゃ!!」


 「……ったく小難しい話すればスグに眠っちまうんだから」


 「え?それじゃ、ココに羽生えるの?」


 「コイツでもそこまでは無理だ。単独で浮遊することぐらいならできるが」


 「そっちの情報の方も驚きだけれども。……浮くんだ、ココ」


 「なんだ?なんだゾ?ココはゼノ君とこいびとじゃないゾ、シャンディちゃん」


 「……なんて恐ろしい夢見てやがんだよ」


 「……きっと出刃包丁片手に問い詰められてたんじゃない?」


 「しかも夢ではなく、リアルにあった体験かもしれんぞ?」


 「……ココ」


 「なんだゾ、ゼノ君?」


 「今、アイツ呼べるか?」


 「ん?シャンディちゃん?」


 「いや、シャンディはもういいから……」


 「むしろ、呼んで欲しいな、シャンディちゃん」


 「うむ、一回どの程度のヤンデレか見てみたいのじゃ、シャンディちゃん」


 「きっと『前髪上げればものくそ可愛い系』っすよ、シャンディちゃん」


 「あーうっせぇ!!アイツだよアイツ!!あのバケドリだよ!!」


 「あ~ヤっちゃんだゾ?」


 「また新しい女」


 「また新しい女じゃ」


 「もう、ホント、うらやましいしかないっす……」


 「……不潔」


 「(無視)ちょいと力を貸してもらいてーんだけど」


 「う~ん、うん。たぶん、だいじょうぶだゾ」


 「なら、この後すぐに使うから頼むわ」


 「うん、わかったゾ」


 「……つーわけでだ。翼は確保した。ならとりあえず会議はお開きだろ?」


 「え、いや、しかし……」


 「先にそっちを優先してちゃっちゃと行ってくる。あんたはガストレアに向かってるお仲間に引き返せと念話入れて、その分の余剰をこっちの斥候に当てろ」


 「……わかりました。……ですが……」


 「何にしても、だ。他の二か所に比べてこっちは情報が少なすぎる。こんなんじゃ決められるもんも決められねーだろうに」


 「……ま、そうかな」


 「うむ、ゼノ青年の言も一理あるか」


 「それじゃ、猫耳よ。ちょいと一つ頼まれてくれるか?」


 「あん?」


 「ほれ、この小瓶を渡しておく。この中に汚染された空気を詰めてきてくれんか?なに、中心部にいけとは言わん。お主の野生の勘が知らせるほどよく危険そうなラインまでのもので十分じゃから」


 「……わかった」


 「……分析でもするつもりですか?」


 「そんな大層なもんではないがな。しかし、どの程度の汚染具合かあらかじめ知っておけば、かの地へと向かうマスターへ施す対策も十全にできるというもの」


 「向かうって……まだ決定ではありません」


 「いや、アンナ。俺がアルルの方に行くことは変わらないよ」


 「イチジさん……」


 「敵のアジトの有無も魔素の汚染も何もかも、俺にとってはあまり関係ない」


 「…………」


 「救いに行くって約束しちゃったからね。デレク・カッサンドラにも……そして……」


 「…………」


 「何より、アルルにもさ」


 「……バカ……」


 「……ごめんな……」




 そうして作戦会議は一時の中断。


 ゼノ君とココが飛び立つのを見送った後、メンバはー解散し、それぞれにやれることをやり、各々がまた眠たいのにあまり眠れぬ夜を過ごして朝を迎える。


 最後の会議で決まったことは何もないのだろう。


 せいぜい帝国を中心とした大陸政治のいささか仄暗い背景を知ったくらい。


 けれど、唯一、俺がやることだけは、最初から決まっている。


 きっとこれは、俺がきちんとケジメをつけなくちゃいけないことなのだから。




【王女奪還組】(仮)

 ◎タチガミ・イチジ 




 「キュエェェェェェェェェ!!」


 「…………」


 「キュエェェェェェェェェ!!」


 「こ、これが……ココさん?」


 「うん、ヤっちゃんだゾ!!」


 「ほぉ、ヤタノドリとは。……伝説級の魔獣を飼いならすか、狐よ……」


 「伝説級っすか……確かにデカくて……デカいっす」

 

 「うむむむ……戦士としての血が疼いて仕方がない……」

 

 「だ、ダメです団長!!どうどうどう……」


 「伝説級の脳筋を飼いならすか、地味子よ」


 「コイツの羽なら今夜中にでもガストレアに着ける」


 「おねがいするんだゾ、ヤっちゃん♪」


 「キュエェェェェェェェェ!!」


 「……のぉ、狐っ子?ちなみにこのヤっちゃんはメスかのぉ?」


 「うん、そうだゾ。ココとおんなじ女の子だゾ」


 「やっぱ女だ」


 「やっぱ女じゃ」


 「やるではないか!!」


 「……ホント、不潔です……」


 「……それでもうらやましいと思ってしまう自分が惨めっす!!」


 「てめぇら、マジでぶっ殺す!!そこになおれやゴラぁぁ!!」


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