E-1 これは醒めない夢
☆★☆
庭園に辿り着いた。アリザムとラティークがアイラのために、作ってくれた噴水だ。
第二宮殿の噴水は以前は金だったが、アリザムの判断で、品ある白銀に染まっていた。噴水の前に腰をかけ、片足を曲げてラティークはアイラを見、眼を三日月にした。
「綺麗だ。良く似合ってる」
「ねえ、戴冠式始まっちゃうよ」
皆が式の準備と次期王樣を探して騒いでいる声が響いている。
腕を緩めて、視線を交わすと、また頬を鎖骨にひっつけた。何度も強く抱き締め合っては、すぐに顔が見たくなって、腕を解く。ラティークはアイラの腰骨を押さえ、しっかりと支えたまま、何度も唇を寄せた。
眼元、おでこ、頬、唇の端、指先、また頬、時にはついばみ、軽く滑らせ。
(何だろう、くすぐったいだけじゃない)
「ぅみゃっ」
(やだ、なに、この変な声)アイラは口元を押さえたが、ラティークはニヤリとした。
「何か、鳴いたな」
「……あたしじゃ、ないですよ」
「ふうん。じゃあ続行しようか」
「だめ、変な気分になっちゃう。体がむずむずするの。うふ、くすぐったい」
ラティークは「変な気分か」と繰り返し、嬉しそうにニヤニヤした。今まで見たどんな笑顔より、嬉しそうで、何よりラティークらしい、悪戯な笑顔だ。
(――もう。くすぐったいのに、なんか、ドキドキときゅんきゅんが一緒に来る……)
頬を熱くして、ラティークの髪に手を突っ込んだ。アイラの緩まった唇と、焦らしていたラティークの少し開いた唇が、ようやく重なる。影がひとつになる。
(これは醒めない夢だね……)
噴水が愛の形を噴き上げた。覗き見していた水の精霊がくすっと笑った。
☆★☆
ラティークはその後、恭しく、戴冠を受けた。新しい次期王の姿に、民衆は沸き立った。民衆を呼び戻すためにも、次期王子の戴冠は必要だった。
「立派な姿だ」長く逢えなかった父親と、ラティークが並ぶ図はくすぐったい。
ラティークは瞳を潤ませて、腰に下げているランプに手を当てた。
「皆、聞いてくれ! 我が王族は、長い間、様々な道具に精霊を閉じ込め、闇の王の元で使役させていた。僕は精霊たちと約束した。必ず、この輪廻を断ち切ると。闇は消えた! ここにはいない、ルシュディ王子の偉業を湛えよ!」
アイラの手を握りしめて、ラティークはそっと金の眼を閉じ、ゆっくりと開けた。
「次期王の、私の最初の仕事だ。アル・ラティーク・ラヴィアンが命ずる。風の精霊! ここへ降り立て!」
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