1-6 ヴィ―リビアの国の水の王女 熱砂の王国での第一歩を踏み出す
★☆★
広大な宮殿は、三つの区画で成り立っている。中央にラヴィアン王の宮殿、右に第一王子ルシュディの宮殿、左にラティークの宮殿がある。
働く〝ニンフ〟の数も相当だ。担当と係を持ち、忙しく動き回っている。
「たしか、こっちにゴミ捨て場があるそうで……スゴイ規模ですわね」
「そうね~。どうやって探そうかな。広すぎるね」
人は動くが、石はうんともすんとも言わない。代わりに置き場所の見当はつく。
宝石庫か、それとも先祖代々の廟に祭られたか。アイラは眉を寄せて唸った。動かない宝石の探索は難しい。後にしよう。
「ラティークの第二宮殿にはヴィーリビアの女性は一人もいなかったの。とすれば、王サマの宮殿か、第一宮殿になるよね」
「王樣の宮殿にまで忍び込むつもりですか! ……あ、ここですね。よいしょ」
サシャーは見えた土山の手前で手車を倒し、また余った土を載せた。文句を言わずに汚れ仕事をこなしてはいるが、サシャーも、ヴィーリビアではそこそこの巫女。
済まない気持ちになって、アイラはせこせこ動く、サシャーの背中に手を乗せた。
「付き合わせて、ごめんね。一緒に探してくれる?」
「任せてくださいまし! あたし、こういう動物のお世話、結構好きみたいですよ」
サシャーはぼよんとした胸を叩いた。
「第一宮殿には、強い女の人ばかりが犇めいていて。あたし、ルシュディさまのハレムに呼ばれなくてほっとしました。背が小さいから、王子の好みには遠いんですって」
「ハレム、ハレム、ハレム! あぁ、その言葉、聞きたくない」
「姫様……まさか、既に」言いつつ目が期待に染まっている。「ラティークはバカ王子だと分かっただけ。収穫ナシよ」告げて、アイラは爪先を打ちつけた。
「なぁにが、僕の魔法にかかった、よ! ふざけるんじゃない」
つい先ほどの話が、今度は苛々と寂しさを連れてきた。あくび王子。熱射病で喘いでいた。金色に透けて綺麗だった……ちょっと見惚れた。
泥だらけのサシャーの顔にアイラは首を振った。
――さっさと皆と親友を探し、秘宝を取り返してこんな場所、とっとと出て行ってやる。
「サシャー。魔法なんか、蹴散らして、目的を達成して、ヴィーリビアに帰るよ」
サシャーは不思議そうにアイラを見やった。
(別に魔法なんか、いらなかったんだよ。ちょっと、かっこいい、と思ったんだけどな。本当にバカ王子! 一生精霊と、仲良く遊んでいればいいんだわ!)
本心を見抜かれそうで、アイラはサシャーから、視線を逸らせた。
子供の精霊を従えたラティークを思うと、どうにもこうにも、やるせない。だが、今日からはラティークの側でニンフとして過ごす。覚悟を決めなければ。
(目的は、果たすわ。あたしはヴィーリビアの王女だもの)
アイラは強い視線で砂漠を見詰めた。砂が大きく巻き上がって、夜空へと吸い込まれていく。どこまでも続きそうな砂漠の向こうの祖国を思った。
枯れた大地には水の気配はない。それでも、この砂一握りにでも、命は宿っている。
「あたしは、第二王子を探るわ。サシャーは、第一王子をお願い。気をつけてね」
小さな巫女に別れを告げ、アイラはラヴィアンでの一歩を踏み出した。
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