21話目
マリスは内心首を傾げた。私が何時何処でどのように騎士になりたいだのと言ったのか。ありがた迷惑って知らないのか。
文化が違うのだろうか。いや、千年前の皇帝と同じ色彩の皇帝だからそれはないと思う。確実に子孫だ。金髪にアイスブルーの瞳。現皇帝はどちらもくすんでいる。威厳? 何それ、どこにあるんだ? という感じだ。
「許可? ふざけたことを言うものだな、小娘」
「なっ……!」
はっきりきっぱり断ると、皇帝の片方の眉がつりあがった。他の貴族たちもざわざわと騒がしくなる。
「どういうつもりかね?」
「戦争利用されると分かっていて正直迷惑極まりない報奨とやらをもらう意味はない」
「貴様、態度がなっておらんぞ」
后が不満げに言い放つと傍にいた騎士数人がマリスを取り押さえに回る。
私は、魔女。
魔石によって動かされているこの世界。その魔石自身でもある。ひょんなことから魔石から分裂したけど、魔石も体の一部だ。魔力もそう。今やこの世界を形作るのに欠かせない。
大気に充満する魔力は空気のように動く。そして魔力の原型であるマリスはそれを扱える。つまり私は騎士の持っていた槍をことごとく曲げることができる。手で触れずに。
驚愕の空気に包まれる王の間。怪訝な顔つきでマリスを見る者、忌む視線、不愉快を隠しもしない視線。羨望。それぞれだ。
ただざわめくだけの空間に、ふわりと降り立った一柱の神がいた。神と言っても、それは最上級の精霊と何らかわらない。
だから、実力のある魔法騎士以外に見える者はいないのだ。
『いいのかしら。マリス? 貴女は魔女を殲滅するのが目的でしょう? 今の隣国は魔女が治めているみたいよ』
碧い双眸を細めて妖艶さを醸し出すフィーアに頷くと彼女は私の後ろへ回った。
それを聞いたマリスはほくそ笑んだ。千年前の皇帝――初代皇帝との約束は違うかも知れないが、私としてはその前提条件を整える必要があるのだ。
「……そうか」
突然醸し出す空気が変貌したマリスに、周りの人間は驚いた。しかし、王の間を警備する魔法騎士はまた違う意味を持つ顔をしていた。
「気が変わった。その報奨とやらをもらうことにする」
「……そうか」
皇帝は顔を顰めながらも頷いた。マリスのあまりの無礼ぶりもさることながら、堂々としたといえば聞こえはいい態度に感心していた。大抵は媚びへつらう者ばかり相手にしていたからかもしれないが。
「それで? 私はこれからどうすればいいんだ?」
「宮廷騎士団への配属、二週間の見習い期間を終えたのち、階級が与えられることになっている」
「ふぅん、まあ、いい」
何かわからないことがあればそこら辺の騎士を捕まえて聞けばいいだろうと考え、マリスは頷いた。
そしてぐるりと王の間を見渡し、貴族たちの顔を一瞥する。
「話は以上か?」
誰もが沈黙を守るので、マリスはそれを是と取った。
「では、失礼する」
艶やかな黒髪をなびかせ、マリスは王の間を去った。
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