20話目
「お嬢さん、着いたみたいだぜ」
ソラがそう言って反射的に車窓から外を見た。確かに、白い城壁の向こう側にお城らしき建物が見える。私から見て後ろのそれほど遠くはない距離に、もう一つ城壁がある。
角度的にこれ以上見ることはできないが、お城は確か、敵に備えて何重も城壁を建て、入り組んだ造りにするのだと言う。
いつの間に、こんなところまで連れてこられるまでソラと話し込んでいたんだ。思わず眉間に皺を寄せた。まっとうにトンズラするなら門の位置くらい把握していて損はないのに。
「あれー? お嬢さん? もしもし? 聞いてる? 降りてくださいなー」
先に馬車を降りたソラが手招きする。そちら側の方が近道だと思ったので、降りようとしたときだ。
ソラが手を差し伸べた。
「つかまって?」
私はソラを無視して降りる。わざわざつかまる必要がないから。
「やっぱりお嬢は意地っ張りだなぁ……そこが素敵だけど」
「お前が褒めると気持ち悪いな」
「ひどっ、お嬢さん最近俺に対してひどくない? 毒舌全開にしないでよう」
「気持ち悪い」
王城に来るまでにすっかり日常と化しているこの光景だが、私としては傍迷惑極まりない。ヘラヘラ笑いながら人を陥れるあたり、たちが悪い。
懐かしいと思う、二年半前以前の記憶については、もしかしたらソラと知り合いだったかもと思ったりもしたが、どういう関係で、ソラについて私が知らなさすぎることが多いのだ。警戒するのも当然だ。
「あれが例の……」
案内の騎士について妙に幅の広い廊下を歩いているとき、ふとそんな会話が聞こえた。声の元を見ると、今歩いている建物の向かいに見える、三階の窓から廊下にそれなりな人数の騎士が群がっているのが見えた。
「それにしても身長たけぇな、ソラ様の頭のてっぺんが目の位置だ」
(……)
マリスの発育が悪いわけではない。人間の女性の平均身長の頭一つ分は高いだけ。体型は普通だし、魔女の特性として胸が小さい。いや、あまり気にしているわけではないが。
人間に比べて、正気の魔女は細くて身長が小さく、手足も割と短い。きっぱり言ってしまえば幼女体型。成人した後もずっとそのまま。魔女で男に生まれた場合、(魔法使いともよばれるが……)見た目は人間とさほど変わらない。
魔女としてみたらマリスの場合平均身長より頭三つ分は高く、魔女らしい見た目はしていない。
……生まれが特殊、というのもあるかもしれないけれど。
白を基調としたデザインで統一された城内綺麗に清掃されていて、汚れがない。壁に彫り込まれた凝った装飾なんてぶつかった拍子にポキッと折れそうだ。
しばらく歩き、騎士がひときわ大きな扉の前に立っていた。そこで案内の騎士は足を止めた。
重そうな扉を両側の騎士はゆっくりと開ける。
まず、視覚に入るのは最奥の正面に座る皇帝とその后。彼らに向かって真っすぐのびた道のわきに並ぶのは貴族。爵位はわからないが、かなりいる。
それらが一斉にマリスを見る。そして、息をのむ音がした。
そのとき、今見ている視界がぶれたように感じた。
ぐらりと体が傾いでしまいそうになるのを意地でも留めながら、体の中に感じる魔力の紐の一つ、自分の意図していないところにつながった紐を一本ぶった切る。
紐が繋がって魔法が発動してしまったのだ。今回は、感情を読む能力。大多数の感情を一気に読むとなると結構、しんどい。
魔女だとしても異常な魔力量を保持するにあたって不具合が起きている。魔力を操ることに長けていないのだ。細かい調節や、ふとしたタイミングで魔法が発動することがある。
今回のもそうだ。勝手に魔力の紐が繋がってできる。
「こちらへ来なさい」
高い声で命じる后は扇で口元を隠し、見下すような視線を向けてきた。
周りも多少耳障りにザワザワと話し始めるが、無視した。
「此度、お前が魔女の群れを殲滅したと聞いた。その報奨として宮廷騎士団への配属を許可しよう」
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