招かれざる客人:其の弐――ディア

❄❄❄


 それでも風の精霊が善意で会話を聞きとらせてくれるので、丸聞こえだが。


「我らは騎士団の者だ。この屋敷の主殿に面会を願いたい」


 傲慢ともとれる態度でディアに話しかけるが、ディアはいつも通り対応する。


「どういったご用件でしょう?」


「先日の件について聞きたいことがある」


「何のことでしょう?」


「ふん、あくまでシラを切るということか……」


「内容を教えて下さらなければわかりません」


「埒があかないようだな!」


「困ります。そこから先、こちら側は我が主の領域。命の保証はできません」


「貴様、騎士である我を愚弄するというのか!」


「めっそうもございません」


「公爵様から許可は出ている!」



 何だか面倒なことになったらしい。まあいい。境界線を越えれば防犯装置が動くのだから。


「どうかなさいましたか?」


 心配そうに尋ねて来たフォイだが、私が首を振って立ちあがると、すっ、と周りの温度が下がった。


「……不届きものめ」


 フォイがぼそりと低音ボイスで呟いたので、早く行ったほうがいいと思った。

 フォイの仲間の精霊たちに客人が八つ裂きにされないうちに。


❄❄❄


 境界線。門の外と内を隔てる、マリス様が精霊と共に作った防犯装置。しかし実は精霊が他者に危害を加えられないようにするための結界の一種であり、マリス様を好いて集まった精霊たちによる外との一線でもある。

 よって招かれざる客はその危険性から命の保証はできない。迷い込む程度なら弾かれるが、主に危害を加えようとなると殺される。


「繰り返します。そこを超えたら命の保証は出来かねます」


「ふん、そんなもので俺を脅せるとでも思うか、若造が!」


「ええ」


 先走った中年の騎士四人が境界を越える。すると、すっぱり四つの首が飛んだ。ぼとぼと体も落ちて、乗せる人間がいなくなった馬は混乱した。そして人の姿を模した精霊たちが小さく笑いながら馬の上に降り立つ。

 精霊が見える人間は少ないが、ここでははっきりと見える。精霊自ら姿を現しているからだ。


「な……!?」


 先ほどから威勢よく吠えている騎士も、後ろに居る騎士も皆戦慄していた。


「申し上げたでしょう。命の保証はないと」


 小刀に手をかけた瞬間、凛とした声が響いた。


「そこまでだ」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る