招かれざる客人:其の参
❄❄❄
不安定な橋を渡ったところに門がある。視界に映るため池の周りは今日も平穏かつ賑やかであるはずだ。しかし境界を踏み越えた者がいたのだろう。ちょろちょろ動きまわりながらここに棲む者たちは警戒していた。
数本の木が門から中が見えないように作られているので、門の入口付近は自然と生い茂り、特に暗い。
何やら騒がしいと思いつつ、歩を進める。
――遅かったか
地面に転がる四つの死体と首。出血量が多くなるほど綺麗な切り口に精霊がやったのだと私は悟った。
平静に客人相手に対応しているかと思いきや、まあ確かにしていたが、小刀に手をかけようとしたので声をかけた。
「そこまでだ」
怯えるほどまでいったほどではないが、ディアは悪戯を見つかったときみたいに一瞬うつむいた。
私が来なかったら面倒だと皆殺しにしていただろう。
「それで、完全武装した騎士様がこんな辺境のこんな辺鄙な屋敷へ何用でしょうか? さっさと用件を済ましていただかないとうちのペットが殺気立っているので命の保証は出来かねます」
早く追い払ってしまえ。こんな面倒なもの。そう思って喋ったら以外に圧がかかってしまったようだった。
「……誘拐されたエバ公爵家の御令嬢がこの家にいるとの情報が入った。家内を捜索させてもらう」
「証拠は?」
急に押し黙った。さっきまでの威勢はどうした。
証拠はないのだろう。何せ辺境伯お抱えの自称騎士団と領民の間では有名だ。領民は皆穏やかな気質だからこそ、この傲慢な自称騎士団こと辺境伯の私兵たちと軋轢を生まずに生活できるのだ。
目を付けられたら面倒なことになる。
そういえばよく言われていたな。魔獣引き取り所の受付嬢に。
「く……」
エバとはスレイの家名だろう。公爵令嬢とはまた面倒な。
「今日のところはお引き取り願おうか。お仲間の遺体が腐りきるまえに」
思い出したように四つの遺体を見る。忘れていたな。お前。
「ふ……」
「ふ?」
「不敬罪だ! 不敬罪として捕縛せよ!」
喚き散らしても誰も動こうとしない。当然だろう。目の前に死体が転がっていて、それはここを踏み越えたからだと理由がはっきりしていれば。
「騎士殿……」
「ひっ!!」
「私はエバ公爵とお会いできるのだろうか?」
それを聞いた騎士が何かろくでもないことを考えたようだ。できると答えてにやにやと笑い始めた。正直気持ち悪くて目に毒だ。
「……ふむ」
「いや、え、マリス様!? 何が“ふむ”だ! ろくでもないこと考えているだろ!?」
「いや? ちょっと行ってくる」
「はぁ!? ちょっとそこの八百屋へ、みたいな軽さで言うな! いいか、王都だぞ! 考えなおせ、今すぐに!」
焦って素が出たディアだが、それほど心配してくれていたということだろう。私なんかのために。そう思うと、なんだかくすぐったい感覚がした。
「何かあれば、いつでも行く」
不機嫌極まりなさそうだが、一応了承してくれたらしい。
「ああ……頼もしい限りだ。あいつらを頼む」
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