招かれざる客人

❄❄❄


 数日が過ぎた。

 あの後普通に家へと戻って、心配したとフォイとディアに泣きつかれた。あの魔女たちの光を二人とも見たらしい。


「……マリスさんのことだから大丈夫だとは思っておりました。しかし子供を三人も連れているのですよ? 少しは自重してください。世間一般では早々に倒せる代物ではありませんから、常識というものを考えてですね……」


「イリヤ、スレイ、レヴィル! お前らさっさと行くぞ!」


 フォイのお説教を遮って三人を呼ぶ。


「マリス様……フォイを怒らせると面倒なので聞いてあげてくれ」


「……ディアさん? 何か仰いましたか?」


 フォイが黒い笑顔でディアを見る目が怖い。そのまま圧死しそうなディアだが、面白いので放置しておこう。


「いいえ……」


「? ディアさん、どうかしましたか?」


 真っ先に着いたらしいスレイが訝しげな視線をディアに送る。そして私へと説明を求めようと視線を送る。

 とりあえずディアを助けるか。


「フォイ、ディア、男同士の友情ということで仲良くしろよ?」


 それを聞いた二人は同時に私へと振り向き――


「「もとはといえばあなた(あんた)が原因でしょう(だろ)!!」」


 見事に意気投合した二人の反応によしよしと思いながら周りを見る。

 そこの茂みからこちらの様子をうかがっているらしいが、一向に姿を見せない。どうしたんだろうと足元にあった石を投げてみる。


「ぎゃ!?」


 声からしてレヴィルが一人。そして背後から迫る気配。

 ぎりぎりまで引き付け、そして――


「甘い」


「……!?」


 振り返った流れそのままに自分の足がイリヤの脇腹を捉え、横に蹴り飛ばした。


「なぜこんなことに……」


 呆れたように呟くディアを横目にごろごろ転がったイリヤの腕をつかんで宙ぶらりんにさせると、すかさずフォイが治療する。


「遊びだろう。私と戦いたいと言ったことでどちらが強いかという話になり、遊びと称して私に攻撃をしかけたのだろう」


「な……、まさかマリスさん聞いていたんですか……?」


 恥ずかしそうに顔を真っ赤にするイリヤ。まあ最初から計画を知られていたら意味がないからな。


「当たっていたのか……」


 呆れたと言うと、二人は縮こまって謝った。

 そのとき――


「フォイさん」


 突然スレイがやけに通る声で呼んだ。なぜか真剣に。


「あなたは――男性、なのですか?」


「ええ、そうですよ」


 アッサリと答えたフォイに唖然として固まるスレイ、レヴィル、イリヤの三人。

 気持ちはわからなくはない。丸みを帯びた輪郭におっとりとした目元。青い髪は縦に巻かれ、フリル付きの薄紅色の衣服に同じ色のかわいらしいデザインの日傘をさす姿はどこかの令嬢かと思わせるだろう。ちなみに衣類等はすべてフォイの手作りだ。


「フォイは特に女ものの服を作るのが趣味で、昔から女より美少女な顔立ちだったものだから、作った服を着ても違和感がなかったそうだ。そしてある日父親に服作りを禁止され、想いが募り暴走した結果女装にはまったそうだ」


「それでどうしてマリスさんと?」


「ここでお会いしたのですよ。自由に服を作って着ていい代わりに力を貸すようにと」


 どこか懐かしむようにフォイが微笑む。

 ディアが何かに反応したかのようにぱっと外へ顔をむけた。


「誰かお客様がいらしたみたいだ」


「ディア」


「わかっている」


 ディアは頷いただけで門まで歩いて行く。


「どういうことですか、マリスさん」


 イリヤが分からないというふうに首を傾げる。スレイもレヴィルも。


「私が客人の対応をするといろいろまずいからな。大抵はディアにまかせている。どうしてもという時にだけ私が出るかもしれない」


「かもしれないって……」


 そこで、外に馬のいななきが聞こえた。

 ずいぶんと物騒な客人が来たものだ。





  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る