春祭り当夜/再会
❄❄❄
それから暫く祭りの様子を眺めていた。村娘たちは気合の入ったドレスの裾を靡かせながらくるくる回っては相手と踊っている。
殆どの人が相手を見つけ、踊り、曲が変わると別の人と踊ったり、また同じ人と踊ったり、華やかで楽しそうな雰囲気に包まれる。
やはり酒が入ると騒がしさは一層増していた。
「お嬢さんも踊りません?」
「え?」
声のしたほうを向くと、ソラが悪戯っぽく笑っていた。
「君は踊りたくなくて隠れていたのではないのか?」
「んー、アタリ? お嬢さんが踊りたそうにしていたから、踊りたくなっちゃった」
「私は別に……」
「君は、って言っていたじゃないか。楽しめるのは思いっきり楽しまなきゃ、損するよ?」
「……」
なんだか最近似たようなことがあった気がする。
「で、行くの?どうするの?」
悪戯っぽく笑って崩れた悪人面がむかつく。差し出されたてのひらに手を重ねれば視界がぶれた。
気が付けばすでに輪の中で踊り始めていた。
「どう? 楽しいでしょ?」
満面の笑みでエスコートするソラの方が楽しそうだった。
結局、楽しくなって祭りが終わりに近づくまで踊り続けた。帰る頃には「体力馬鹿」などと口を揃えて言われた。なぜだ。
❄❄ソラ視点❄
――が消えて約三年。俺は主の命令もあるけれど、個人的にもあの人を探していた。『見つけてくれ』と言ったそうだ。
つまり、自分からは動けない状況になることを予想していた、ということになる。しかも俺と彼女は主程ではないけれどかなり仲が良かったから、というのもあった。
この辺境の村では数年前から“変わり者”がいるというのだ。大量の魔獣を質のいい状態でギルドへ持ち込み、更には女で、相当の美人であるという噂。珍しい色彩であることも噂になっている。
そこで俺は単独でこの村まで調査をしに来た。この時期を狙ってきたのはこの春祭りにはほぼ村人全員が参加し、隣村の村人が紛れ込むこともザラにあるというからだった。
それまでもある程度騒がしかったが、ざわ……と、動揺が広がった気配がした。何事かと多くの人が視線を向けるほうを見ると、俺は瞠目した。
「何だ、あの集団……」
「あの女の子かわいいー」
「絶世の美女……」
「ねぇ、あの男の子たちもかわいくない?」
漆黒の髪と同色の瞳、とがった耳、白磁のような肌。この世の者ではないような容姿と立ち居振る舞いの美しさも周りを惹きつける。
探し人は、そこにいた。
彼女の前にいる美少年二人と美少女一人。確かに整った容姿をしているが、彼らは……吸血鬼だ。
そして彼女である証拠、精霊のフォイとディアが後ろでふらふらついて歩いていた。二人は俺を見つけると瞠目して、ふいっと視線を外した。いや、ディアだけか。フォイは首をゆるゆると振ると、哀しそうに笑った。
何事か彼女が二人に言うと、二人は子供らについて行った。
音楽が流れだす。踊りに誘われては面倒なので、【隠密】を使った。魔術ではないから魔力を使わず、便利なのだ。
彼女は隅の方で何処からか調達してきたお酒をちびちび飲んでいた。暇潰しに何かないかと思案したかと思えば、踊っている村人たちを眺めていた。
そんな彼女に近づいて行く数人の男たちがいた。大方踊りの誘いをしようとしているのか、彼らの頬は紅潮し、緊張した面持ちで距離を詰めていた。
彼女はそんな彼らに気づいたのか、わからなくもないが俺から見て警戒心剥き出しで一瞥した。あの人は昔から基本無表情だけど、慣れると相当感情豊かなんだよなー、などと思い出に浸ったりする。
すると、はっきりと俺を見ながら彼女は近づいてきていた。
……え、俺、スキル使っているよね? 使ったよね? 何であの人ピンポイントで俺見ながら近づいてきているの!? 何で、はぁ!?
「魔力の気配がダダ漏れだったからな。人の気配はないのになぜだろうと思っただけだ。スキルの精度が高い分、違和感がすごいんだ。それに……」
なるほど、と思いながら俺は唖然としていた。まさか魔力の位置まで掴めるほどスキルを熟練した人間など、契約したもの同士ならともかく、俺は聞いたことが無い。
そもそも、彼女には固有スキルがなかったはず。ということはスキル無しの魔術師としての技量だけで掴んだのか。やはり彼女は只者じゃない。
「それに?」
「懐かしいと感じたからな」
ふわりと彼女は微笑んだ。
それを聞いて動揺したのが顔に出ていないか心配になってきた。今までの会話から俺のことを忘れている、記憶を失っていることはわかっている。
その後は話しているうちに昔の彼女と話している時のような話し方になってしまっていた。特に彼女は気にした感じではなかったが、久々に会ってどうやら自分で思っていたより嬉しかったのかもしれない。
踊りに誘って、最初は渋っていたけれど、だんだん楽しそうに笑う姿を見て、とても懐かしく、くすぐったくて嬉しかった。
あぁ、早く主に報せてあげよう。きっとみんなも泣いて喜ぶだろうから。
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