春祭り
❄❄❄
そしてまた数日が過ぎ、春祭り当日。あれほどはしゃがれる姿を見たら今更断りづらい。参加するだけなら、と思ったが、日に日に面倒だと思えてくるのだから不思議。
そしてもう当日だからと覚悟を決めよう。
「ほぅ、マリスさま!お綺麗です……! スレイさんもとってもかわいいです! ふふ、やっぱり素材がいいと引き立ちますねー」
「ありがとうございます、フォイさん」
スレイは嬉しそうに頬を緩ませ衣装を鏡越しに見る。白髪紫紺の瞳を持つ彼女に合うように白いドレスに装飾は紫。透明感のある容姿にフォイが本気で仕立てたのでまさに幻想的である。
イリヤもレヴィルも正装だ。フォイの努力により二人も中々美少年へと変貌していた。もとがいいから磨きがいがあるとフォイの変なスイッチが入っていた。
全員、採寸はしていない。しかしバストもウェストも程よいサイズで作られている。この家の全員の服や装飾はすべてフォイの手作り(呉服店より質が良いから)なのだが、目算でサイズを当てるフォイはもはや熟練した職人だ。
日が暮れ、村の広場と呼ばれる場所へと移動した私たちは、好奇の視線にさらされていた。フォイもディアもいるが、今日は器に入っていないから、三人にすら見えていない。
広場には屋台が並び、子供ら三人は嬉々として並びはしゃいでいた。小遣いを握らせているから大丈夫だろう。フォイとディアに三人の世話を頼み、一人で隅の方で一息ついていた。
やはり注目されるのは慣れていない。
ふと気が付くと、音楽が流れだしていた。数人の男がこちらに向かって歩いてきているのが見える。近くにいるのは誰もいないから確実に私を踊りに誘おうとしているのがわかった。
もう帰りたい。
そのときだ。目が吸い寄せられるように一点を見つけた。壁際に腕を組んで立っている細身の男は私と目が合うと驚いたかのような表情をしていた。
魔力の気配はするのに、人の気配がしない。その理由は多分、隠密系のスキルで隠れていたんだと思う。
背格好からして同年代の男に近づいて、近くに落ち着いた。不思議なことに、魔力だけではない気配にも懐かしいとまで感じた。
「隣、失礼」
「お嬢さん、凄く注目されていますね」
「あぁ、そのスキル私にも使えるか?」
「え……」
「【隠密】のスキル」
「あー……、どうぞ」
「ありがとう」
自分自身に特に何も変わったと思うことはなかった。しかし私を見ていた数人はきょろきょろとあたりを探している。突然消えたように見えるからだ。
「良く見破れましたね」
「魔力の気配がダダ漏れだったからな。人の気配はないのになぜだろうと思っただけだ。スキルの精度が高い分、違和感がすごいんだ。それに……」
「それに?」
「懐かしいと感じたからかな」
会ったこともないのにな、と笑うと栗色の髪の男は鳶色の目を見開いた。
「お嬢さん、名前を聞いてもいいですかい?」
軽薄な雰囲気を保ちつつ、男は僅かに真剣な響きを持った疑問を投げかけた。
「君は?」
「俺はソラ」
「マリスだ」
「よろしくな」
「よろしく」
ソラは無邪気に笑った。悪人面なのに人畜無害だと思えてしまうくらいの笑顔だった。
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