辺境の森の中で

❄❄❄


 それからは「暫く自給自足だ」とマリスが宣言するとイリヤ、スレイ、レヴィルを率いて森へと入ったのだ。

 確かに、身を守る術がなければそもそも長生きできないだろう。仕事をするにしても、身を守れる術を知っていて使わないのと知らなくて使えないのは違うのだから。


「イリヤ、集中しないと怪我するよ~」


 そう言ってふわりと宙を舞い、木の枝から降りて勢いをつけながら猪の頸椎に踵落としをくらわせたスレイはにこにこと微笑んでいる。

 イリヤとレヴィルが罠を張り、追い詰め、とどめをスレイがさすという連携だ。


「よくやったな」


 一応褒めた。褒めないとこの三人はすごく拗ねる。正直面倒だ。褒め所が無い時は正直に駄目だしをするのは当然だが。

 この二十日間、彼らには自分を守る術や、森での獲物の狩りかたを叩き込んだ。独り立ちできるようにするため、けれど、自分がなぜそこまで彼らに入れ込んでいるのかよくわからなかった。

 そして、彼らについてもわかったことがある。


「とゆーか、俺らにばっかりやらせて、マリスはやらないわけ?」


 レヴィルはよく屁理屈を並べ立ててごねる。魔獣との戦闘や狩りとなると遠距離からの攻撃がうまい。剣と弓の使い分けができると踏んだ。


「ふふ、私も見てみたい!」


 スレイは実は普段はおっとりしているということ、戦闘や狩りなど何かある時には切り替えて最初に会ったときのようになる。オンオフの差が激しいが、三人の中で最もバランス良く実力がある。生い立ちは聞いていないが、貴族の令嬢であったということはわかる。没落したのだろうか。そこまではわからない。


「俺は……マリスさんと勝負してみたい」


 イリヤは表にでてどうこうするというのは苦手みたいだが、面倒見が良く、気づかれないように相手の意思を動かすことを無意識にやってのける。

 昨日もレヴィルと食べる部位を争奪していたが、見事口車に乗せられたレヴィルはかなり肉が固い部分を意気揚々と幸せそうに食べていた。本人が気づかないならそれでいい。多分。

 魔力の扱いに秀でていて、罠を張るだけでなく後衛として戦える。器用だからいろいろな立ち位置を状況によって使い分ける判断力も強い。


 ぶうぶう文句を言うレヴィルを黙らせ、洞窟まで猪を運ばせようとした時――


「…………っ!!」


 突然警戒した私をいぶかしがることは一瞬、合図を出すと【隠密】を使ってそれぞれ気配を消した。

 木の上の方へ上り、ぞろぞろと向かってくる大群ともとれる、妖しい光がこちらへ近づいてくるのを見て、息をのんだ。


「何だよ……あれ」


 レヴィルが呆気に取られて呟いた。


「魔女だ。国境だから、隣国から良く送り込まれてくるんだ」


「あれが、魔女……」


「いやだ、いや……怖い……」


 突然震えだしたイリヤの背をスレイがさすった。どうしたと声をかけてもうわのそらだ。


「前に、イリヤと仲良くしていた子が魔女に目の前で殺されたらしいです」


 そしてスレイは口を堅く閉ざして悔しそうな表情を浮かべた。


「気づいているかどうかは知らないが、君たちは龍属の鬼だ。身体能力の高さや魔力適応の高さもそのおかげだ。そして君たちは人間と違って魔女を倒せる。それだけだ」


 素早く地上へ目を走らせ、数を確認する。奴らは私たちに気づいていない。


「君たちはここで待機だ」


「俺も、連れて行ってくれ」


 顔を上げたイリヤの目に映っていたのは憎しみだった。倒せると聞いて、他の二人も動こうとしている。


「俺も――」


「聞こえなかったのか。足手まといだ。今回はここで待機。見学していろ」


 言うが早いか、魔法を使って剣を作る。淡く碧い光を放つ剣は魔女たちの頭上にズラリと並んだ。


「【剣樹】」


 ふっと消えたかと見紛うほどの速度で剣は魔女の分身を串刺しにしていった。

 細い鈍色の柱が何本も並び、その上を歩いて行くと本体を見つける。本体の魔女は白い仮面に鎧のようなものを纏い、マリスの数倍はある巨躯と長い手足の関節からは淡い光を放っていた。目も同じ色に光っている。

 心臓の位置に手を突っ込んで石を引っこ抜く。魔石を破壊すれば、本体も分身の魔女共々ただの魔力となって魔石へと向かうだろう。










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