一人の子ども――スレイ視点
❄❄❄――スレイ視点
「ここは……?」
「見ればわかるだろう、私の家だ」
「いえ……?この水は一体……?」
「ため池だ」
私は不良共に連れ去られた赤毛の仲間を追っていた。そうして追った先になぜか黒髪の美女がいた。纏う空気も常人とどこか違う、凛とした人だった。
その人に連れられた、庭と思われるところはちょっとしたため池どころではなく、もはや森だ。水の中から木が生えているし、水中に草も生えている。この怪しい女の人曰く、水草というみたい。
吊り橋のような簡素な造りの橋を渡ると、突然開けた視界に飛び込んできたのは確かに家だった。
半端ないインパクトを持つ庭にしては家がこじんまりして見える。白い壁に黒い瓦屋根という、一般的を超えてむしろ古い造りの家に驚いたのはわたしだけではないみたいだった。
目を見開いてきょろきょろまわりを見ている隣に立つ明るい茶髪の仲間をみて、こっそり溜息をついた。すこしは警戒してくれればいいのに。
『ふふ、マリスさん、この子たちは何でしょう?お客さんでしょうか?』
ふわりと降り立った明らかに精霊だと見て取れる、青髪の少女が女の人に話しかける。年は女の人と近そうだ。マリスというのか、と思うと同時に、精霊と繋がりのある人間と無暗に敵対しなかった自分自身の判断にほっとした。
「丁度よかった。この三人を治療してやってくれ。特にこの子供は重症だから、コレ優先で」
『了解いたしました』
「任せた」
にこにこと優しそうに微笑む精霊は凛とした女の人とはなんだか対照的な印象を持った。
まぶしすぎるほどの美貌と惹きつけられる所作の女の人。
対して精霊の同じくらいの年の少女はかわいらしい外見と相まって女性らしい綺麗な所作で、やんごとなきお家の御令嬢かと思うほど。
くるりと振り向いた精霊は『ついてきてください』とおっとりした話し方でわたしたちを案内した。
『それにしても臭いますね……うーん、任せたって仰っていましたし、まあいいでしょう』
そう精霊が言った途端、わたしたち三人の体がふわりと浮いた。そのまま移動させられると、湯気が立ちのぼる風呂と思われる場所へと連れられた。そして――
「ぎゃぁあ!?」
「ひゃぁ!?」
「……」
お湯に放り込まれた。全身が痛い。切り傷はともかく痣までチリチリとした痛みに苛まれる。
というか服着たまま水に投げ入れるあたり頭がおかしいとしか思えない。とにかく上に昇らないと、と思ったら息が続かず、思いっきり水を飲んだ――わけではなく、頭をすっぽり包むように泡が作られていることに気が付いた。
(何なの……これ……)
一応呼吸はできるらしい。
『わぁ、ごめんなさい……あたり前ですが、痛いですよね』
申し訳なさそうに眉尻を下げて降り立った精霊は赤毛と明るい茶髪の男の子をわたしの近くまで移動させた。多分息ができるように泡を作ったのもこのひと。
「…………くぅ……」
腕や足にちりちりとした痛みには波がある。拍動になぞらえるように痛みはするのだが、また別に大きな波がある。
隣にいる二人を見ても同じように顔をしかめていた。特に、赤毛の仲間は痛みがすごそうだった。それはそうだ。あれだけ不良たちに暴力を受けたのだから。骨が折れているかもしれない。だったら、私よりずっと苦しい。
「なにこれ」
『治療です』
「痛がっているでしょう!」
『当然でしょう? 自然治癒の速度を上げただけですから』
ふふん、と得意げに小さく胸を張った精霊だが、普通に治癒魔術を使えばいい話ではないのか。疑問符を浮かべると、私の様子に気が付いたらしい。
『あの、できる限り自分の力で治したほうがいのですよ? それに治す時に嫌な思いしておけば二度と怪我しようなんて思わないでしょう? それにあなた方は傷だらけすぎます。それくらい我慢してください』
精霊はわざとらしく溜息をつくが、その目は優しい。
「終わったみたいだな、さっさと上がってこい」
やけにくぐもった凛とした声が上から聞こえた。次いで、体が引き上げられた。
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