正直になることもいいことです
❄❄❄
「ありがとう」
一言私がそう言うとフォイ――癒しの精霊――はふわりと微笑んだ。いいえ、と彼は言うと家の何処かへ行った。
私は白髪の少女へ向き直ると、体の表面に付いた水を飛ばした。次いで、茜色の髪の少年と茶髪の少年。
彼らは驚いたように――実際驚いたのだろう――服の裾をつまんだり叩いたり、髪の毛を手で梳いて目を丸くしていた。
「なにこれ、すっげぇー……」
ナチュラルに驚いていたのは明るい茶髪の少年だった。ちなみに茜色の髪の少年は未だ気絶しているので、私が抱えていた。
ついて来い、と半ば強制的に二人を連れて家の中まで入る。
ぽい、と寝台へ三人とも放り投げると、ぎゃあぎゃあ喚きながら二人とも転がった。
「傷は癒えても体力はまだ回復していないだろう。さっさと今日は寝ろ」
といってもとうに【睡魔】を召還しているが。おかげですぐにぐっすりと子供たちは眠っている。上々だ。
対価の魔力を支払って【睡魔】に礼を述べるとあの紫色の雲のような塊から歯を見せてケタケタ笑いながら消えていった。何かいいことがあったのかもしれない。
「マリスさん、あの方々をなぜ連れていらしたのですか?彼らは不本意そうでしたし……」
『精霊』から人の器に乗り換えたフォイがそろりと近づいてきた。微笑をたたえながらも隠すつもりもないとでも言うようにありありと好奇心が見て取れた。
「彼らには適正があったからな」
「何、御冗談を仰っていらっしゃるのです? 今までたとえ適正があろうと知らぬフリをしていらしたでしょう」
適正とは人間であるにもかかわらず魔力を持ち、魔女を倒すことが出来る存在だ。
「……」
フォイの微笑が更に引くつもりもないという意思表示に見えた。そんなにもここに得体のしれないもたちを勝手に連れ込み、世話をさせられたのが気に食わなかったのか。
というよりも、彼の場合は聖女のような心を持っているからな。もしかしたら心配しているのかもしれない。彼らのことも、私のことも。
嘆息するとともに、私はそれほどの時間も経たずに白状した。
「助けて、と言われたからだ。後は私の気まぐれだ」
驚いて目を見張るフォイ。思った通りの反応に特に返す言葉はない。
「まるで、僕をおそばに置いてくださるとおっしゃったときの様ですね」
「そうか?」
「ええ」
そう言ったフォイは外の水場へ目をやった。懐かしそうに細められた目にもはや私の姿は映っていない。
玄関へ向かおうとするとはっと気付いたフォイが振り返る。
「どちらへ?」
「人間は食べないと死ぬだろう。何か獲ってくる」
「それなら、僕が――」
「君には彼らを看ていてほしい。君にしかできない仕事だから」
それを聞くとフォイは微笑んで綺麗な礼をした。かしこまりました。と、上機嫌に。
「じゃあ行ってくる」
「いってらっしゃいませ」
そういえば今日はディアを見ていない。どこに行ったんだろうか。
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