花森翠と姉語り

「他の人に私のことを話す時、しょうちゃんは私のことを『設定上の姉』って言うわよね? あれ、私的にはなんだかなぁって思うのよね!」


 通い慣れた喫茶店で弟モデルとしてスケッチに協力していた俺に、我が設定上の姉である花森翠はなもりみどりさんが、鉛筆を持つ手を止めてそんなことを言った。


「『設定上の』という一言はいらないんじゃないかしら?」

「だって、本当の姉弟ではないじゃないですか。変に誤解されても困りますし」

「いいじゃないの! 私がいかに翔ちゃんの本当のお姉ちゃんになりたいと思っているか、分かる!? 頭の中を覗かせてあげたいくらいよ!?」


 自分の頭を開くような動作をしながら、「こう、パカって! パカって!」とジェスチャーをするミド姉。その仕草がなんだか子供っぽくて可愛らしい。


「そもそも、『本当のお姉ちゃん』と『設定上のお姉ちゃん』の違いなんていうのは、血縁ばかりに限った話ではないのよ!」


 と、いきなり席を立ってグッと拳を胸の前で握る動作をするミド姉。なんだか変なスイッチが入ったみたいで、姉に対する自身の見解を語り始めた。


「血が繋がっているかどうか。確かにこれは重要な問題ではあるよ? けど、それだけが必ずしもお姉ちゃんをお姉ちゃんたらしめる要素になるとは言えないと思うの。お姉ちゃんという存在は年下の弟という存在をどうしようもなく弟として愛する人なら誰でもなり得るの」


 そういえば、今日は読んでいる新しいラノベの発売日だっけ?


「漫画で出てくるような、幼馴染のお姉ちゃんがそのいい例よね。彼女は血の繋がりというものはないけれど、本物のお姉ちゃんよりお姉ちゃんらしさがある。それはなぜか!? それは、弟のことが可愛いという気を持ち、弟と接しているからに他ならない!」


 あとで買いに行かないとな。確かTUT○YAのポイントが貯まってたはず。


「時には甘やかし、時には頼られることに生きがいを感じ、弟をからかう時はその反応を見て癒される。それに至上の喜びを感じる歳上女性は血の繋がりに関係なくみんなお姉ちゃんなの! だから、私のこともこれからは普通に『お姉ちゃん』と呼んでちょうだい!」


 語りがひと段落したが、俺は変わらず目の前に置かれたケーキにフォークを伸ばし、口に運ぶ。話し終えたミド姉は、満足気な様子で最後の確認を行う。


「分かった、翔ちゃん!?」

「すみません、聞いてませんでした」

「そんな!?」


 姉の思い、弟に届かず。それでも姉はへこたれず、しばらくすると楽しそうにスケッチをしていた。


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