岡村翔平と言葉の壁

 ある日、アルバイト先の先輩である陽ノ下緋陽里ひのもとひよりさんと同じ時間帯でシフトに入っていたときのことだ。


「マスターはいつ頃コーヒーの魅力に目覚めましたの?」

「うむ……」

「まぁ、そうなんですか」


 喫茶店のマスターと緋陽里さんが世間話に花を咲かせている。


「ん……?」

「わたくしですか? わたくしもコーヒーは好きですわよ」

「ほぉ……」

「ええ、父とマスターの影響は少なからずあるでしょうね。今では、毎朝一杯は飲むようになってしまいましたわ」

「……」


 緋陽里さんは普通に会話しているが、俺にはマスターの言葉が渋い一言にしか聞き取れない。会話の流れから、コーヒーを飲むようになったきっかけを話しているようだけど……。


「ここ以外の喫茶店にも行きますけど、ここのコーヒーが一番ですわ。胃袋ではありませんが、すっかり喉を掴まれてしまいました」

「ふっ……」

「そのこだわりのおかげでお客様が増えてきているのですからね。マスターも罪なお方ですこと」

「いや……」

「まぁ、マスターったらお上手ですわ」

「…………」


 す、すげぇ……。全然わかんねぇ……。

 いつかマスターの言葉が理解できる日は来るのだろうか?

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