第7話

 ラルミドは、食卓を前にしてイスに座っている。

 アリシアとの口論――いや、一方的になじられた後、彼は路地裏で小さくなっていた。それを果物屋の女主人に見つかり、家まで連れてこられたのだ。

「ほれ、あのとき約束したご飯だよ。どうせアンタのことだ、ロクなもん食ってないんだろう? たまにはしっかり食べないと、まだまだ育ち盛りなんだからね!」

 女主人は、ラルミドの前に大きなアップルパイとじゃが芋のスープを並べた。明らかに二人で食べる量ではない。

「ちょっと多く作り過ぎちまったけど……アンタなら食べれるよね、これくらい」

 ラルミドは女主人の言葉に反応を示さない。それを見て、彼女はラルミドの頭をくしゃくしゃと撫でる。

「なんだい? 辛気臭い顔して……アンタらしくもない! いつもは、あたしにだって食ってかかる癖に」

「なあ、俺は――間違ってるのかな? スラムの連中をどうにかしたいって……悪いことなのかな?」

 それは唐突すぎる問いだった。女主人――シーラは何の話かわからず、戸惑いを隠せない。だが、ラルミドは話を続ける。

「俺ァ、自分がチンケなコソ泥なのは知ってる。それが悪いことだってのも――けど、ひどい目に合ってる奴ら、何とかしたいって。そういう気持ちまで、悪いことなのか? 何でそれを、間違ってるなんて言われるんだ? シーラおばさんはどう思う?」

 普段は誰に対してもトゲトゲしい態度を見せるラルミド。それが今は、まるで母親に質問する子どものような目で、シーラに疑問をぶつけている。

 だが、言葉が足りないせいもあって、彼女には話の内容がうまく掴めない。だが……。

「あたしにゃ、アンタが何を言いたいのか、よくわからないけどね。アンタを間違ってるって言う奴がいるとしたら、きっと足りてないからだね――アンタがどんな奴かって部分がさ」

 そう言うと、シーラはラルミドの前に座る。アップルパイを切り分けながら、彼女は優しく言葉を続ける。

「だから、正しいってわかってもらうには、きちんと伝えなきゃいけない。アンタが間違ってないって、知ってもらわないと。大丈夫さ。少なくともあたしは、アンタが悪い男じゃないのはわかってるんだ。口は悪くても、心根は真っ直ぐだってね」

 シーラは切ったパイをさらに乗せると、ラルミドの前に置く。彼はしばらく考え混んでから、目の前のアップルパイを掴んで、思いきり口に頬張った。

「おやおや、そんなに慌てなくてもパイは逃げたりしないよ――全く!」

 シーラはラルミドに元気が戻ったと感じ、嬉しそうに笑ってみせた。

 ――そうだ、わからないっていうなら……。

 ――ベルトールが悪党だってことを、俺が証明してやる!

 ラルミドはシーラが用意したパイを、勢い任せに三人分ほど腹に詰め、しばらくその場から動けなくなってしまった。

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