第5話
「おい、ガンボ……こいつはどういうことだって聞いてんだよ!」
パルレカルムの外れにある薄暗い森の中、ガンボは腕を縛られたまま、拳で何度も殴られていた。
「だ、だから……俺にもよく、わからねぇんだよ! その手紙を、お頭に渡せって言われただけで……」
「そういうことじゃねぇ!! ここに書かれてる〝お前の失敗で計画が狂った〟って話だよ! どんなヘマやらかしたんだ、ああ!!」
「だから、俺にもわからねえんだって!!」
「それなら私が説明しますよ、ジスタンダさん」
急に聞こえた声に、ガンボとジスタンダ、そして盗賊団の全員が視線を向けた。
「何だ、てめえは。どっから来やがった!」
「私の名前はウィルキス。ベルトール様の秘書をしています。ここには彼に案内してもらいました」
ウィルキスはガンボを指差す。それを見てジスタンダは怒りを露わにした。怯えながら、ガンボは首を横に振る。
「ち、違う! 違うんだよ! 俺は何も教えちゃいない! 本当だって!」
ドゴオゥ!!
ジスタンダの拳が、ガンボの顔面を直撃する。口から血を撒き散らし、二本の歯まで飛んでいった。
「尾けられてきたんだよ、てめぇは! そのくらい気づかなかったのか、ボケがぁ!」
ジスタンダは怒鳴りつけるが、ガンボにはもう聞こえていない。気を失った彼から目を離し、ジスタンダはウィルキスに目を向ける」
「ウィル……何つった? まあいいか――ガンボを通じて連絡する約束だろう? そうしてくれと言ったのはアンタらだろうに」
「ウィルキス――です。そうも言っていられなくなりました。非常にマズイ状況ですよ。ヘタをすれば我々もあなたたちも、全てがお終いになります」
ウィルキスの話を聞き、ジスタンダは大笑いを始める。それを見て、盗賊たち全員が笑い出した。ウィルキスは小さく舌打ちをする。
「ウィルミスさんよォ。誰に向かって物言ってんだい? 俺たちが終わるだって。馬鹿言うんじゃねぇよ! てめえのとこの腑抜け領主が死んだって、俺たちにゃ関係ねぇ。そんときゃ、こっちで勝手にやらせてもらうだけだぜ!! そうだろ、お前たち!」
盗賊たちからは、「そうだそうだ」という賛同の声が上がる。ウィルキスの額には次第に青筋が立ち始める。だがそれでも、何とか冷静を保ちつつ、ハッキリとした言葉で言う。
「〈帝国騎士団〉が動くとしても?」
この一言に、盗賊たち――そしてジスタンダの表情が固まる。
帝国騎士団――それは皇帝が直接統制する戦力であり、帝国内最強と謳われる。数こそ他の領主が抱えるものより少ないが、一度動けば常勝不敗。バストラード帝国の領土と治安を守る力の一つである。
「何でこんな片田舎で、帝国騎士団の話が出るんだぁ? デマカセ言うんじゃねぇぞ! ウィンキーさんよぉ」
「デマカセなら――どれだけ気が楽なことか! 説明してもわからないでしょうが、そういう権限を持った人間が、パルレカルムに訪れているのです」
「なら、どうしてソイツをさっさと始末しねぇんだ? そうすりゃ、全部お終いだろうが?」
ウィルキスはニヤリと笑う。なぜなら、ジスタンダが口にした案こそ、彼が実行しようとしていることだからだ。
「そう、それです。それをお願いしに来たのですよ、あなた方に」
「はぁぁ? 何で俺たちがそんなことをしなきゃあならないんだ? てめぇらのケツは自分で拭きやがれ!」
「その言葉、そのままお返ししましょう。あなたの部下――ガンボのせいで穏やかに済ますことができなくなったのですから。仲間のケツくらい拭いて差し上げてください、頭領殿?」
ウィルキスの言葉に、苦々しげな表情を浮かべる。そして、ガンボのほうを向くと、気を失った彼をもう一度殴った。
「計画についてはこちらから連絡します。それまでは大人しくしていてください。それと、私の名前はウィルキス――です。二度と間違えるなよ、コソ泥風情が!」
そう言い残して、ウィルキスは立ち去っていく。ジスタンダは彼の背中を見送りながら、部下の持っていた酒をぶん盗って飲み干す。ちょうどそのとき、ガンボは意識を取り戻し顔を上げた――が、ジスタンダは空になったカップをぶつけ、彼の意識を再び奪ってしまった。
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