第2話
「いやぁ、本当にすまなかったね。まさか、こんな小さなお嬢さんが――失礼。女性が盗賊たちをとっ捕まえてたとは皆信じられなかったんだよ」
アリシアは、ポットからカップにお茶を注ぐ。一度香りを確かめてから、彼女はゆっくりとカップを口元へ。味わいに満足しながら、店主に向かって返事をする。
「お気になさらず。慣れていますから、誤解を受けるのは。むしろ、きちんと保安官に連絡していただいて、ありがとうございました」
カップを皿の上に置き、彼女は店主に頭を下げる。彼女の思いがけない行動に、店主は慌てて手を振った。
「いやいや、むしろこっちのほうが礼を言いたいよ。半年くらい前から、町の周りで強盗騒ぎが多くてねぇ。それなのに、何もしてくれないもんだから、ここの領主……」
店主は思わず口を塞いだ。言わないでいいことまで、言いそうになったからだ。店主は慌てた様子を見せたが、アリシアは気にする素振りを見せなかった。
もう一度カップを手に取り、残っていたお茶をゆっくりと飲み干す。
「そうでした。領主――この町を仕切っていらっしゃる方はどちらに? 一度顔をお見せしておかないといけませんでした」
「あ、ああ……領主様なら、店の前の大通りを真っ直ぐ進んだ先さ。一番大きな屋敷だから、すぐにわかるはずだ。でも用事って……すぐに行って会ってもらえるほど、領主様は暇じゃないと思うが……」
心配そうにする店主をよそに、アリシアは自分のティーセットを片づけ始める。
「問題ありませんわ。あちらが私に会わないというのは――あり得ませんから。ああ、そうでした。今晩はこちらにご厄介になろうと思っています。もしよろしければ、一部屋ご用意いただけませんか?」
「部屋なら空いてるから大丈夫だが……まあ、行ってみるだけ行ってみるといいさ。うまくいけば、会えるかもしれないしな」
「お願いついでにもう一つ。お手間でなければ、ティーセットの手入れを。もちろん、追加の料金はお支払いしますので」
「そのくらいはお安い御用さ。料金? いらないよ、そんなもん。嬢ちゃんが取り返してくれた指輪――ありゃあ女房が大事にしてたもんだからね。お礼代わりに、ピッカピカにしておくよ」
店主の好意に、アリシアは笑顔で深々とお辞儀をした。まるで貴族がするような丁寧なお辞儀を見て、店主は気恥ずかしさを感じてしまう。
頭を上げたアリシアは、カバンを持ち上げると宿の外へと歩いていった。
「ありゃあ、一体何者なんでしょうねぇ?」
小間使いの一人が、店主に向かって尋ねる。だが店主は頭を横に振るばかりだ。
「そんなもん、俺がわかるかよ。けれど只者じゃないのは確かだなぁ」
店主の言葉に同意して、小間使いの男は首を頷く。何もわからないなら、これ以上考えても仕方がない……そう思った男は、テーブルの上のティーセットを片づけようとして、ある異変に気づく。
「親父さん……このイスって何年前のものでしたっけ?」
「はあ? 馬鹿言うなよ。コイツは先月、カルマールのとこで作ってもらった新品だぞ」
「でも……なんか足が曲がってますよ? ほら、こんなに」
小間使いが言うとおり、そのイスの足は異様に曲がっていた。右側にだけ強烈な負荷がかかったように傾いたイス――それはアリシアが腰を下ろしていたものだった。
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