第六十一話 失踪

 黒服から渡された資料を懐に入れた後、松岡組事務所に戻った。

 2人は、松岡の部屋に入って報告した。


「どうでしたか? 田中の事務所は?」

「残念だけど、何も無かったよ」

「そうですか。残念です」

「で? 松岡さんのほうは?」

「えぇ。今、志村から連絡が来て森本と『水谷製薬』の社長を逮捕したそうです」

「えぇ!? 森本と社長が?」

「えぇ。奴らは、総理と薬の取引をしたそうです。恐らく、あの薬かと」

「今すぐに、CSMOシスモ本部に行けるか?」


 松岡は、シュテルの問いに首を横に振ってこう言った。


「恐らく無理だと思います。あの組織は、関係者以外立ち入り禁止ですので、いくらシュテル様とマイケル様でも無理だと思います」

「そうか」


 この組織は、秘密を何より重視する組織、いくら志村の知り合いとは言え、部外者である2人が内部を言わない保証が無い。

 

 その時、シュテルのスマホから電話が鳴る。


「シュテルだ」

「シュテル! 聖也を見なかったか?」

「いや、見てないが?」

「聖也が忘れ物したから、自宅に届けに来たのだが、ボディーガードが、「帰って来てない」って言うんだ!」

「何!?」

「今、家族と千楽町内を探しているのだが、すまんが協力してくれないか?」

「もちろん! 探すよ!」


 シュテルは、電話を切った。


「どうしてですか?」

「聖也が行方不明らしい」

「なんですって!?」

「今、家族と探しに行っているみたい。彼を探そう!」

「そうですね!」

 シュテルとマイケルは、聖也を探しに向かった。

 

 まず心眼通りの近くにある千楽クイーン通り、大正通り、テンプル通り、千楽シルバー通りを捜索した。


「すみません。この人を見かけてませんか?」

「すまんけど見てないな」

「この人を見かけませんでしたか?」

「分からないね」


 シュテルとマイケルは、このエリアの住人に尋ねてみるが、目撃情報は得られなかった。

 次に、千楽メイン通り、スター通り、千楽中央通り、千楽ブロンズ通りを探すことにした。


「次はここですね」

「この辺りは人気があるから目撃されやすいからな。探すぞ」

 

 目撃情報を僅かでもいいから手に入れようとする2人は、店の店員や住人達に聞き込みをする。だが、彼を目撃した姿は誰一人も居なかった。

 しかし、トリニティタワーの東に位置するクロス通りで目撃証言を得られた!


「あぁ、それなら目撃したよ」

「どこに行ったのですか?」

「確か黄色の髪をした美人に抱えられて北方面に行ったのを見ているよ。それにしても、酔いつぶれて抱えられるのは、情けないね」

「シュテルさん」

「あぁ!」

 2人は、千楽北大通りが怪しいと踏んで急いで向かう。あそこは裏カジノなどが多い通りの為、もしかしたら地下で監禁されているかもしれない。

 その通りに向かおうとしたその時!シュテルから非通知の電話が鳴る。


「もしもし」

「シュテル。聖也を探しているの?」

「その声はシトリン!」


 電話の相手は、幹部のシトリンだった。

 

「聖也をどこやった!? 今すぐ返せ!」

「そんなに焦ることは無いわ。それに話したいことがあってね」

だと?」

「とりあえず、裏千楽北大通りにある商業施設『千楽ヒルズ』の最上階で待ってるわ。じゃあね!」

「おい! 話が唐突過ぎるぞ! おい! ……切られたな」

「シュテルさん。彼女はなんと?」

「『千楽ヒルズ』の最上階で待ってるらしい。とりあえずそこに行ってみよう」


 2人は、『千楽ヒルズ』の最上階へ向かうことに。


「ここだな」

「! 居ましたよ! 彼女と聖也さんが」


 そこには椅子に座って寝ている聖也とシトリンがいた。


「待ってたわ。建設途中の施設に来るなんて流石ね」

「まあな。人目に付くかと思ったが、今回は誰も居ないから運が良かったよ」

「そう」

「で? があると聞いたが?」

「それは……彼を逃がして欲しいの」

「逃がして欲しい……だと?」


 あまりの唐突さに呆然する2人。


「彼はとある大企業の次男坊でね。後継者である長男の保険として生かされてきたの。ある日、長男と両親らが不正行為をしているのを見てしまってね。始末のターゲットになった」

「……なんとなく分かるが要するに身代わりのとして生かされた彼が見てはいけないもの見てしまったから口封じに殺そうとしているということか?」

「そう言うこと。クラブのオーナーは知らないけどね」

「それに僕らも伝えたいことがあるからね」

「?」


 シュテルはシトリンに田中の組事務所で出た資料をシトリンに渡した。するとそれを読んでるうちにシトリンの表情が徐々に怒りの表情に変わる。


「あの野郎! 全部嘘だったのね!」

「ここに書かれた資料では志村も関わっているらしいね。あの2人とは話したのか?」

「えぇ。横浜でエメラルドと話した記憶があるわ。あの薬は偽物!」

「教えてくれ。『六真町』で何があった?」

「それは私が話します」

「サファイア!」


 突然、物陰からサファイアが現れた。


「今から50年前。私達は、この町で有名な富豪の家系である『六真家』の者でした。だがある日事件が起きました。私達のボスが金欲しさに襲撃したのです。あの女は部下を率いて放火したのです」

「私達も応戦したけど、敗れてね。瀕死の私達をあの女は言ったの。「『生命の泉』を探すのを手伝えば生まれ変わらせる」と。それから、私達はそれを協力する為に活動してきた。復讐の機会を狙う為に」

「そうか。で? 瀬山と志村が接触してきたのは?」

「20年前よ。ちなみに、騎士庁が接触してきたのは5年前よ」

「奴らは……己の私欲の為に!」


 シュテルは、怒りがこみ上げ拳を強く握った。


「シトリン。ボスの正体を教えてください。それとも」

「ボスの正体は……羽川恵子よ! の正体は、貴方方とカリーヌとエリーのそっくりの姿をした連中よ!」

「何だって!? どうして僕らの姿とそっくりなんだ?」

「理由は分かりません。偶然としか言いようがありません。世間には自分と似た人間が3人いると聞いたことがあります」

「そんな……それにボスの正体が僕らの担任の先生なんて」


 シュテルとマイケルは、呆然していた。あの先生がボスなんて……でもどうして僕らの前にずっと現れたんだ?

 そう考えていたその時!


「なんや裏切るんか? サファイア?」

「柴﨑」


 そこに現れたのは龍神会直系の柴﨑組組長の柴﨑だった。


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