第六十話 再び現れる黒服

 徐々に明るくなる千楽町は静寂でカラスが鳴いており、路上で寝ているホームレスが未だに寝ており、寝ぐせがついた住人らが開店準備をしていた。


 大正通りを通って、千楽メイン大道り、千楽中央通りへと歩き、心眼通りの松岡組事務所に到着した。


「シュテルさん、マイケルさん、お仕事お疲れ様です」


 若衆の1人が挨拶をする。


「あぁ、ありがとう。松岡は?」

「まだ、寝ております。昨日の幹部会で、妹さんも含めての報告で時間がだいぶかかりました」

「そうか。それと、解雇されたからな」

「解雇!? なんでですの?」

「仕事がハードで向いてないと思ってね。オーナーに相談したら、解雇という形になった。安心して、情報は入手したから」

「そうですか。親父に伝えておきますよ」

「その必要は無い」

「親父!」


 松岡が寝間着で現れ、2人に礼をした。


「さすがに無理がありますか」

「すまない。ホストが、こんなに重労働だと思わなかった」

「まぁ、どんな奴もシュテル様達と同じ考えを持っていますしね。それと、橋本が『パラダイス』に来た様子を教えて下さい」

「いいよ」


 シュテルは、松岡にだけ橋本の様子を伝えた。


「やはり、あの薬について探っていたのですね」

「それと、京子というホームレスから聞いた情報では、橋本はライバル企業に先を越されて、評判を落とす為にスパイを送り込んだらしい」

「それで、その薬の資料を発見して、資金源などの調達するダミー会社だと分かって、何かしらの方法で彼女らの存在に気付いたらしい」

「なるほど、だから『パラダイス』で問い詰めたらしいのですね。会長に報告しておきます」

「松岡、しばらく寝るよ。眠気が来て、疲れているんだ。それから、田中事務所に向かおうと思う」

「構いません。どうぞ、お休みになってください」


 シュテルとマイケルは、最上階に向かい休むことにした。


 部屋に入ると周りに人がいないのを確認した2人は、横になり体を休む。


「そうだ。カリーヌに連絡しないと」


 シュテルは、カリーヌに電話を掛けた。


「シュテル? どうしたの?」

「朝早く電話を掛けて悪いね。伝えたいことがあって、どこにいるんだい?」

「ホテルでエリーといるよ。これから、『橋本中華本社』に取材するところ。変装してね。で? 伝えたいことって?」

「実は、橋本に関する情報だけどね」


 シュテルは、橋本の行動と聖也の発言を伝えた。


「え? 真相を知って遊んでいるの!?」

「聖也によれば「ボスへの復讐の手伝いと学園都市の乗っ取り」と言っていた。おそらく、彼女らと瀬山らは、僕達を復讐と乗っ取りの計画から逸らす為の陽動の道具にされている可能性がある」

「もし本当なら……許せないわ!」

「とりあえず、僕の監視者チェックニストに調べさせている。この事は、僕とマイケルと君とエリーだけの秘密だ。理由は分かるな?」

「うん、気を付けてね」


 シュテルは、カリーヌとの電話を切った後、眠りについた。


 午前10時。目を覚ました後、シャワーを浴びて着替えて身なりを整え、ソルト通りの田中組事務所に向かった。


「ここが、田中の事務所」

「警察のテープが張られてますね。証拠になる物を見落としている可能性がありますね。警官はいないようですし、侵入しましょう」

「そうだな」


 シュテルとマイケルは、住人らに目撃されないように侵入した。


「この1階は、受付事務所と駐車場だけか」

「しかし、もぬけの殻みたいですし、なにかあればいいのですが」

「とりあえず、この階から探そう」

「そうですね」


 2人は、捜索を開始した。

 まず、1階のフロアを調べてみるが何もなかった。隙間など見てみるなどいろんな可能性で探してみるが見つからなので、2階へと登る。

 

 2階から4階までは、若衆らの事務所で2階から捜索する。しかし、エアコン、電灯、そして空の机、金庫だけだった。


「くそ。無いみたいだ。そっちは?」

「すみません。こっちも」

「京子の言葉がホントなら、騎士庁の有馬と神崎が隠蔽でもしたんだろう。残るは、最上階か」


 2人は、最上階にある組長室に向かった。


 田中が死んだ組長室に入った2人は、最後の望みを賭けて捜索する。

 田中の血痕が付いた椅子などを付近に調べてみる。机。絵画の裏側、棚の裏側など、何か残ってないか慎重に調べる。その時!


「シュテル様、マイケル様。熱心に調べてますね」

「「!」」


 扉の近くに突然現れたのは、なんと軽井沢で出会った黒服の男だった。


「久しぶりです」

「君は、確か」

「スキルメディカルを差し上げた者ですよ。その姿だと、だいぶ美しくなりましたね?」

「まぁね、ところで何の用だい?」

「気づいているでしょう? 龍神会長らの計画」

「あぁ、聖也の証言で可能性が浮上したけど、その言葉だと本当みたいだね」

「で? 何をお探しで?」

「証拠を探している。何か見落としがあるかもしれないからね。探しているんだ」

「まるで、刑事ですね」


 黒服の男は、少し笑った。


「丁度いい。聞きたいことがあるんだ。君は、『生命の泉』の関係者か?」

「そうです」

「では、どうして接触したんだ? 軽井沢で。 それに、『生命の泉』とは?」

「タイミングを計っていたのですよ。それに、奴らの計画と関係してますからね」

「どういうことだ?」


 黒服は、その理由を説明した。


 まず、『生命の泉』とは、紀元前100世紀にゼウスによって造られた神殿で、不老などしたりできる楽園の施設だった。

 だが、欲深い人類が現れて戦争が勃発し、互いに5億の死人が出てしまう。

 この有様に激怒したゼウスは、人類が『生命の泉』に近づかないよう施設を海に沈め、記憶を消したのだ。

 それから、黒服を始めとする部下達が、この施設を守るためにかなりの年月をかけて守っていた。


 時が経ち、偶然にも施設を発見した『四大騎士家』は、調べていくうちに表に出してはいけないと判明。

 黒服らは、こいつなら信頼できると思い、許容範囲で好きに使えるのを条件に、この存在を隠して守った。


 だが、ダイルの説明通りに、『聖女の騎士団』との争いが勃発し、知られるようになったのだ。


「そうだったのか。間違った連中から守るために」

「そうです。おそらく、幹部の彼女らは、自分らでは無理と思い、『生命の泉』と学園都市を取引材料として、龍神会の瀬山らに持ち掛けたのでしょう」

「つまり、利権と技術の為に乗ったのか」

「シュテルさん」


 シュテルは、瀬山らに裏切られた気持ちで、怒りがこみあげて拳を強く握った。


「シュテル様」

「なんだ?」

「彼女らと龍神会は、手を組んでいると考えているようですが、違いますよ」

「何!?」

「どういうことですか?」

「実は、龍神会は別の名前がありましてね。それが……裏切りの龍」

「裏切りの龍?」

「実は、過去に手を組んだ組織が沢山いましてね、その目的が達成した後に皆殺しなどをして、領土を広げていたのです。奴らは、自分第一に考えてますからね。恐らく、彼女らも同じ運命に会う可能性が」

「だとしたらマズイな!」

「とりあえず、資料を出しますので、彼女らと接触して説得してください」

「分かった。それに、資料を出すって?」


 その時、黒服の男が壁に拳で叩くと、中から金庫が出現し謎の魔術で解除し資料を取り出し、2人に渡した。


「なんだ! これは!?」

「これが! ……龍神会の!」


 そこに書かれていたのは、とんでもない内容だった。




 


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