第五十九話 餞別

 それから、数時間経っての午前10時頃、東京都庁の知事室にて、知事とアーサーラウンズのワンとツーがいた。


「援助して欲しいだと?」

「そうだ。奴らは、まだ掴めていないが『新薬実験部』を発見される可能性がある! それに、千楽町と円海街に分かれて調べている! おまけに、繋がりを証明する証拠を入手したら、どうする!? 田中のところは全て消したが、奴らは頭の良い連中だ! 隙を突かれたら」

「だから何だ?」


 ツーは、知事の無関心な態度にため息を吐き、ワンに続けてこういった。


「貴方との繋がりが見えてしまうのです。仮に僕らと彼女らの悪事を暴いたとしましょう。もし、不審なところや可能性があるのを悟られたら、さらに、虱潰しに調べ、口座などの記録で貴方がスポンサーである証拠が発見される。そうなれば」

「俺は、スポンサーになったが、になってない」

「「は?」」

「お前らは、何か勘違いしてるな? どうして俺が、お前らのスポンサーになったか? それは、金塊を出してくるだからさ」

「なんだと!?」


 すると、知事は立ち上がり威圧感を出しながら、2人に接近し言った。


「この社会は、「人は平等」や「お互い助け合おう」などふざけた事を言う輩が沢山いる。だが、実際どうだ? 職場では、同じ状態、状況、ミスで先輩の時は助けて、後輩の自分には助けて貰えない。また、ある時は、老人にぶつかったにも関係なく、「邪魔だ! クソ婆」とか言われる。この2つは矛盾してないか?」

「それは、確かに」

「今の俺の発言もそう。世の中、嘘と矛盾などにまみれた世界なんだよ。俺もお前らも、この世界の住人。結局、テレビとかで発言とかしている人間どもは、好感度などという報酬目当てに仮面を被り言ってるだけだ。そうと思わんか?」

「はい」


 威圧にビビッている2人に、知事はある書類を渡した。


「口座解約!?」

「そうだ。もう潮時だから、最後の送金をして口座を解約し、記録も消去した」

「待ってくれ! そうなれば、研究資金が無くなる!」

「俺からの送金なくても、彼女らのシノギとかで十分やっていけるだろう?

 おまけに、『研究体R01』がやられたそうじゃないか? もう、これで見込みが無いと判断した。それと、最後の送金はもう返さなくて良い」

「頼む! 今からでもまた口座を!」


 その時!知事が机を強く蹴る!


「聞こえなかったか? それに、分かってるか? 解約するということは、お前らとの契約を解消するという意味だ。お前らの薬での将来性、実用性が無いと考えての決断だ。例え、その可能性が出ても、どうせ失敗するのが目に見えている。奴らが、調べてもボロは出ない。今日のこの日から俺は無関係になるのだ」

「なんて、卑怯な」

「卑怯か……まぁ、そうなるな。これで、話は終わりだ。今後、一切の接触をしないし、関与しない。もう、下がれ」

「行きましょう」


 ツーは、キレ気味のワンをなだめつつ、退出した。


「え? 彼が解消したの?」

「そうです! 奴が見込みが無いと勝手に!」


 騎士庁に帰る道中の車内にて、ワンが聖女マリアに電話で知事への不満を言っていた。


「それは、予想しなかったわ。まさか、あんなことをするなんて」

「それに、奴は我々の情報を知っています! もし、シュテル達と接触したら流す危険性があるのでね。面倒になる前に、始末したほうが良いと思います」

「それは、君がやってくれる?」

「無理です! 何せ、今の時期は忙しいうえに表に出ているのでね。もし、始末すれば、余計な疑い出る! 始末の件は、貴方のほうでやってもらいます」

「だからね? 今でなくても良いじゃない? いつでも始末出来るし、我々の恐ろしさも知ってるはず。始末するのは、その後でも良いのでは?」

「だから! 俺は、嫌な予感がするから、電話を掛けています! もし、今こうしているうちにも、奴が警察に情報を提供する段階に進んでいるかもしれないのでね!」

「そう」

「もし繋がりがバレたら、貴方の組織全体と共に責任を負ってもらいます。そうなりたくなければ、始末を今すぐお願いします! 後からでは遅いんだ!」


 ワンは、電話を乱暴に切った。


「有馬さん、大丈夫ですか?」

「大丈夫に見えるか? ドライバー? 奴は、俺の言いたい事が分かってない! まるで、他人事みたいに! それで、『研究体B02』は?」

「安心してください。その個体は、1時間前に確保しました。投与したあと、シュテルとマイケルと戦わせる予定です。あと、円海街にて『研究体G03』の個体も」

「そうか」

「大丈夫ですかね?」

「心配するな、神崎。さすがに、奴らも死ぬだろう。前回と同じようにいくはず無いさ」


 その時、ツーの電話が鳴る。


「もしもし、僕だ。……何!?」

「どうした?」

「社長と森本が、昨日の午後に逮捕された!」

「なんだと!? なぜ、その時に言わない!」

「それが、分からないとかどうかで。幸い、マスコミには一切漏れていません」


 ワンは、座席を強く叩き、ドライバーに命令を出す。


「おい! 今すぐ『新薬実験部』と上層部に至急連絡して確認し、対応を取るよう命令しろ! 俺は、すぐに聖女マリアに電話をする!」

「分かりました」


 同時刻、知事室では…


「始末だとよ? 聞いたか?」

「えぇ、まさか始末するとは。盗聴器仕掛けて正解でしたね」


 知事と部下が車の下に仕掛けた盗聴器で盗み聞きしていた。

 どうやら、知事室にいる間、部下が車の下に盗聴器を仕掛けていたようだ。


「彼女は、始末するでしょうか?」

「さぁな? 始末するなら、全力で対応するだけだ。まぁ、俺らとは関係ないことだ。あとは、偽札などを作ればいいだけだ」

「そうですね」

「それに、彼らにはになりそうだからな」

「シュテル達ですか?」

「そうだ。でも、その時では無い。それに持ち掛けるには、奴らの組織を消してもらう必要があるからな。その間は、何も手を出すな」

「分かりました」

「その後は、が動き出すかもしれないけどな」





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