第五十四話 千楽公園

 スター通りから、北方向へと進み、千楽町の北西の端っこ、北斗通りに着いた。

 そして、シュテルとマイケルの目の前に千楽公園が姿を現す。公園の中央には、噴水があり、その周りには、段ボールの家が沢山あり、ジャージ姿、短パンにポロシャツ姿、下着姿、ましては、半裸姿の若い女性が住んでいた。


「なんだ、彼女らは?」

「羞恥心が無いのですか!?」

「とにかく、中に入るぞ。なにか分かるはずだ」


 シュテルとマイケルは、公園の中に入っていった。


 公園の中に入っていくと、家の中で、将棋、囲碁、花札などしている姿や、仰向けで寝ている姿、座り込んで酒を飲んでる姿が目に見えた。

 そんな公園の中を歩く2人の姿を彼女らは、目を輝かせていた。


「あの2人、イケメンだわ!」

「あの体、触りたいわ!」

「今晩、一緒に寝てくれないかな?」


 2人は、視線を気にせず、知ってそうな姿を探していると、一人の半裸の女性が話しかけてくる。


「あんた達、何か用?」

「! そうだ。ある2つの事件について知りたくてな。ところで、貴方は?」

「私? 私は、リーダーの京子。よろしくね!」

「そ、そうですか」

「で? 2つの事件とは?」

「『聖女の騎士団』の件で、龍神会の田中と中華チェーンの社長の橋本について知りたいのだが」

「あーあ。分かった。じゃ、私の家について来て」


 京子は、2人を自分の家に案内した。


「どうぞ」

「失礼するぞ」

「少し大きいんですね」


 京子の家の中は、どこから拾ってきたのか分からないが、それなりの高級感がある家具が置かれていた。早速、座り込んで京子に尋ねる。


「で? どちらから先に知りたい?」

「そうだな、橋本の件からだ」

「橋本の件ね。事件詳細は、新聞を見れば分かるけど、ゴールド通りで、何者かに殴られて死亡している姿が発見され、犯人は分かってないけど、正直なところを言うとね、犯人は聖女マリアよ」

「やはりか」

「でも、どうして断言できるのですか?」

「実はね、私達は、千楽町のカメラを全てハッキング出来る能力があってね、そこで、この町を監視し、客の情報を提供してるの。もちろんイケメン限定だけど?」


 そいうと、机の下からパソコンを取り出し起動した。すると、20分割の映像が映し出され、自動で映像が切り替わる。京子は、橋本が殺害された映像を2人に見せた。

 聖女マリアを追い詰めた橋本が、何か怒鳴り散らして言っており、それに対して、彼女が何かを言うと、橋本が激怒して殴り掛かろうとするが反撃に合い、パンチやキックを何発も食らい、怯えて命乞いするが、とどめの一発で息を途絶える姿が映っていた。


「なんと惨い死に方ですね」

「やはり、あの2人の仮説は正しいかったということか」

「しかし、関係ない企業の社長が何故?」

「それの理由を話すと、奴の会社の経営の話に戻るけどね」


 京子は、映像を一時停止し、理由を話した。


「奴の経営については、分かるよね?」

「ああ」

「奴の経営の影響で、悪い噂を流す社員が現れてね。店舗に来る客が少なくなって来たのさ。経営を何とかもっているけど、ライバル企業に先を越されてしまったのよ」

「ライバル企業?」

「ええ、奴の正反対の経営で、橋本の会社からその会社に転職する人達が来てね。おかげで、売り上げは、5000億で、株価では、上位に組み込むほどにね。橋本は、なんとか妨害して売り上げを下げようとして、スパイを送り込んだの。その企業というのは、『水谷食品』」

「「!」」

「そう、『水谷製薬』の姉妹企業さ。本当なら、その理由だけなんだけど、製薬実験の資料を見つけたらしくてね」

「『ロンギヌス』か」

「そう、あの企業は、新薬実験の資金源などを調達するだけのよ。それを知った橋本は、好機を見なし、どうやって調べたか分からないけど、彼女らとの存在にたどり着いたのさ。そして、問い詰めた挙句殺されたんだ」

「なるほど」

「あくまで、可能性だけどね?」

「さて、次の話だが」


 シュテルは、田中について尋ねる。


「田中の件を知りたい。奴の利き手が反対とかで、他殺らしいが、どうなんだ?」

「他殺のは、正しいけど、犯人に関しては、分かってないけど」

「ん? どうかしたのですか?」


 すると、京子は、田中組事務所があるソルト通り付近の映像を見せる。


「これも、殺される日の周辺の映像だけどね、聖女マリアと歩く2人の男の姿が見えるけど、びっくりしたわ」

「! この人らは!」

「合宿の時、教えてもらったアーサーラウンズの2人じゃないですか!」


 そこに映っていたのは、彼女と歩くラウンズワンとラウンズツーの姿だった。


「なんで、彼らが?」

「分からない。ただ、騎士庁には黒い噂があってね」

「噂?」

「実は、騎士庁と『聖女の騎士団』が繋がっていて、その騎士庁本部で、『新薬実験部』という部屋で人体実験をしているらしいのよ」

「何処にあるんだ?」

「さあ? それは、分からないけど。田中は、それを掴めたらしい。警察は、その事件現場で調べたけど、田中のパソコンとUSBメモリーだけ消えていたのよ」

「消えていた!?」

「恐らく、それを示すデータがあったのだろうと思うよ。恐らくね」


 その時、シュテルのスマホに着信が鳴る。


「もしもし。……何!? ……分かった! すぐ行く‼」

「どうしたのです?」

「セレン達が何者かに襲われて、大けがを負ったらしい」

「なんですって!?」

「今、千楽医学病院で治療を受けているらしい。京子、すまんが失礼するよ」

「うん。分かった」


 シュテルとマイケルは、千楽公園を出て、北斗通りから、東に向かう。


 千楽町の北側の大通り、千楽北大通りでタクシー乗り場へ向かっていると、燕尾服を着た謎の若い男女集団が立ち塞がる。


「なんだ、君らは?」


 シュテルの問いに反応せず、どんどんと2人に詰め寄る。2人は、武器を構える。


「どういうつもりか分からないけど、邪魔するなら、無理やりでも行かせてもらうよ! 行くぞ!」

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