第五十二話 パラダイス
千楽町に着いたシュテル達は、地下駐車場で、車を降りた。
「到着しました。ここからは、徒歩で行きます。外に出れば、千楽町ですが、柴﨑組の連中が、歩いております。見つからずに行きましょう」
松岡と組員についていき、心眼通りの松岡組の事務所を目指す。外へ出ると、そこは別世界だった。半裸でうろつく女性、ホームレスの連中、サラリーマンの乱れた姿、海外組織らしい人達。そして、ゴミがこれでもかというレベルに散乱している電柱付近。いかに治安が悪いのが分かる。
「何? ここは?」
「醜すぎるにも程がある」
「これは、教育委員会も絶対禁止と言いますね」
「できるだけ、目を合わせないようにしましょう」
「皆様、こいつらは、単に楽しんでる人たちです。治安が悪いといえ、礼儀のある奴らです、ご安心を」
歩いて4分。『松岡ビル』に到着し、最上階へと入る。
最上階に入り、荷物を置いた後、シュテルとマイケルは、松岡組員にスター通りにある生前の橋本が怒鳴った『パラダイス』へ案内される。
店内の様子は、煌びやかなテーブルやソファー、ワインなどがあり、一流のホストクラブだが、何か違うものをシュテルとマイケルは感じとる。
「あれ? 松岡組の山田さん! こんにちわ」
「杉下、相変わらず繁盛してるな、オーナーの腕があるな」
「ありがとうございます! あれ? このプリンスなお二人さんは?」
「すまんな、一定期間の契約キャストとしてやりたいという、シュテル・アルフォードとマイケル・ルインだ」
「おい!」
シュテルとマイケルは、組員の腕を引っ張り、小声で言う。
「なんで、本名を言うんだ!? 柴﨑の連中に知られたらどうするんだ!」
「そうですよ! 困りますよ!」
「心配しなくて大丈夫ですよ。ここは、財閥の御曹司達だけですから、貴方の学園の生徒じゃないですよ」
「どういうことですか?」
「杉下、このホストクラブのシステムを説明してやれ」
「かしこまりました」
杉下は、2人を休憩室を案内し椅子に座らせ、このホストクラブのシステムを説明する。
「では、このホストクラブのシステムを説明します。まず、売り上げ競争に関するシステムですが、存在しません」
「存在しないだと?」
「ここのキャストは、全員財閥の御曹司で、究極の美男というしか居ません、ですので、一人あたり月に300万の売り上げを出してるので、必要無いのです。お2人さんについては、松岡さんから」
「なるほどね、それなら問題ないな。それに、知っているとはな」
次に、営業時間と就業時間、そして仕事内容について説明した。
「営業時間は、夜6時から午前4時まで。就業時間は、開店前の30分前から、閉店までとなります。仕事内容ですが、接客し、シュテル様とマイケル様の甘い顔と声と肉体で、メロメロにさせてください」
「つまり、僕らは女性客を誘惑するのですね」
「そうですね。どうです? 楽な仕事でしょ?」
「ま、僕たちは500人でも余裕で行けるさ」
「否定しないのですね」
シュテルとマイケルは、自信と余裕の笑みを浮かべたが、シュテルが、ある疑問をぶつける。
「杉下オーナー、なぜホスト全員、僕らのような者達ばかりなんだ? 別に、そうである必要も」
「解放と勉強の為ですよ」
「どういう事ですか?」
「力を持つ者は、思いのままに経営できたり、好きな酒、食い物などが手に入ります。だが、その反面、代償と責任を背負うことになるリスクもある」
「「……」」
2人の表情を見て、理解できてると思いさらに説明する。
「一言ミスれば、辞任、追放。選択を誤れば、没落、倒産、破滅。隙をつかれば、社会的の死。暴力を振れば、権力の失墜。そういうのを最近の金持ち連中は、分かってない。だから、新聞に載るような、失態を犯し、消えていくのです。権力者は、常に選択を見極める必要があるのです。そうでしょ? シュテル君」
「確かにな」
「悪事や裏取引などしたいのであればすればいい。ですか、やる際にはタイミング、いくつかの選択から、正しい選択をするのを忘れないことです。俺は、一切の関知しませんが」
「それよりも貴方のホストについてのこだわりの選択が、間違っていなければ良いのだが」
「ははは! 面白いこと言いますね! シュテル君。確かに、俺も言える立場じゃ無いですね」
杉下は、腕を伸ばしてから続けてこう言った。
「今、在籍している彼らも、有名な企業の御曹司でしてね。後継者としてのプレッシャーとストレスを抱えています。それによる失敗をさせない為に、後継者という鎖を開放し、ホストとしてのありのままの自分をさらけ出し、個性と人間性の成長、そして客の人生を垣間見ることで、選択の仕方、タイミング、社会の本質と醜さを学んでいくのです」
「彼らは、親に入れさせられたのですか?」
「いえ、自らの意志です。独自のルートで、この仕事を見つけ出し、応募したそうです。俺は、それぞれの両親と彼らと話し合って、快く快諾してくれました。しかし、このホストは、詳しい仕事内容の関係で、最大8人まで受け付けないことにしてます。現時点では、あなた方を含めて6人です」
「その詳しい仕事内容次第では、断るぞ」
「もちろんです。カリーヌさん達は、阿修羅会の本拠地に向かってるのでしょ? それに、このパラダイスに来た目的も」
「何故、知ってる!?」
シュテルとマイケルの驚きの表情を見て、杉下は笑みを浮かべて言った。
「最近、松岡さんの組の動きが怪しくてね、気になったので、千楽クイーン通りの有名な探偵さんに依頼してたんです。そしたら、君らを調べている寛二君達の存在と君らの正体、彼女らの関与している事件が分かったのです。安心してください。チクりなんてしません」
「……それなら、話が早い。では、橋本がここに来た様子を話してもらえるか?」
「すみませんね。その日は、私は身内の葬式で休みでしたので、わかりません。ですが、その日に出勤した聖也君なら、分かるかもしれません」
「今日は、出勤するのか?」
「会社の件もあって、この店に来るのは、予定なら5日後になるのことです。でも、そんなに焦らず、落ち着いてくださいね。もしかしたら、何か発見があるかもしれませんし」
「分かりました」
「では、今日の数時間後の5時半に来てくださいね。服などはこちらで用意します。ではまた」
シュテルとマイケルは、杉下に挨拶し、この店を出た。
店を出た後、シュテルとマイケルは、この時間をどうするか考えていた。
「どうしますか? シュテルさん」
「そうだな、ブラブラしたら、セレンとエレノアに悪いし、とりあえず松岡に電話するか」
シュテルは、松岡に電話を掛けた。
「松岡、数時間空きが出来てな、どうしたらいい? 柴﨑の連中に見られるとまずいし」
「そうですか、それなら北斗通りに向かってくれますか?」
「北斗通り?」
「スター通りから北にある通りです。そこには、私の傘下の組事務所などがあるのですが、千楽公園がありましてね、そこには、若い女性のホームレスの連中が住んでます。彼女らは、情報屋の役割がありますが、イケメンじゃないと教えてくれないでうすよ。もし、シュテル様とマイケル様なら、聞き出せるかもしれません」
「分かった。行ってみるよ」
シュテルは、電話を切った。
「北斗通りに向かうぞ。そこに若い女性ホームレスの集まりの千楽公園に行けば、情報を聞き出せるらしい」
「本当ですか!? 行きましょう」
シュテルとマイケルは北斗通りの千楽公園へと向かった。
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