第三十九話 『ゼウス』

シュテルと谷村は監視者についていった。

「向こうにいるのか?」

「はい! あちらの倉庫に、ぐ!」

「ターゲットダウン。その周辺を捜索する」

 監視者の心臓を撃ち抜いたのはテロ対策機動特殊隊の隊員だ。

「急くぞ」

「あぁ」


 物陰に隠れながら進み、谷村の監視者が言っていたカリーヌたちの潜伏している倉庫へたどり着いた。

 シュテルは、そのドアを叩いた

「カリーヌ、僕だ! 開けてくれ!」


 倉庫の扉はひっそりと開き、そこからカリーヌが大粒の涙を流しながら、シュテルに抱きつく。

「シュテル、無事で良かった!」

「カリーヌ。君も無事で良かったよ。警察には見つからなかったか?」

「うん。何とかね」

「カリーヌ。君を絶対に守るから」

「ラブラブのとこ悪いが、早く隠れるぞ」

「「ごめん」」


 シュテル、カリーヌ、谷村は、倉庫の中へ入り内側からロックを掛ける。中では、マイケルと茶髪の女性とエリーが豊川と増田に寄り添っていた。


「マイケル。どうした? 何で彼女2人が?」

「シュテルさん。二人の脚が負傷していまして」

「負傷だと?」

「そうだよ。マイケルとエリーを足止めしている時に、突然警察がなだれ込んできた。俺と豊川は拳銃で撃たれてな。マイケルと谷村に肩を貸してもらい何とかここに逃げたのさ」

「ホンマに俺らは情けないわぁ」

「何言っているのよ。階級なんて関係ない。人は助け合うこそ生きてなんぼでしょ?」

「サリー、ありがとう!」

「ほんま、あんたらは、ええ人や!」 


 豊川と増田は感涙にむせぶ。その時、シュテルのスマホから着信音が鳴る。


「おい、電話か?」

「そうだよ、谷村。志村かも知れない」


 スマホ画面を見てみると非通知。出ようか迷ったが、このままでは警官たちに気付かれるので電話に出ることに。


「誰だ?」

〈シュテル様。警察に迷惑かけながら遊び相手にして、でもしてるのかな〉

 電話の相手は、森本だった。


「何の用だ?」

〈そんなに、怖い声で言わないで下さいよ〉

「笑ってないで、用件を言え!」

〈すみませんね。実は、貴方様と谷村様に用がありましてね〉

「谷村君にも用だと?」

 谷村の顔を見ると怪訝そうな顔をしていた。

〈共通エリアの東側にある五階建てのホテルの『ゼウス』に来て下さい。そこでが〉

「はぁ?」

〈では、お待ちしてます〉

 一方的に電話を切られたシュテルは、谷村たちに森本の言葉を伝える。すると、カリーヌが止めに入る。


「罠よ! 無視して『アルティメットアーサーハウス』に戻ろう」

「彼は『〉と言っていた。もし、警察を待機させているなら、見られては不都合な物を持ってくるか?」

「確かにそうね」

「敵がわざわざ待っているんだ。これは、情報を聞きだすチャンスとも言える。こっち側にすれば、好都合だ」

「俺も、話からすると罠というのも分かっている。頼むから、行かせてくれ」


 シュテルと谷村の言葉に頷いた。


「マイケル。豊川と増田を拠点に運んでくれ。豊川を君とカリーヌ。増田をサリーとエリーが運んで欲しい」

「分かりました」

「行くぞシュテル」


 シュテルと谷村は二人をマイケル達に任せ、見つからないように、目的地へ向かう。


 『倉庫港』を脱出した後、ヘリの監視と警察の捜索は厳しくなっていた。視界に入らないよう進んでいく。

「止まれ、シュテル」

「あぁ」

 共通エリアに入り店の壁から警察の様子を見る谷村とシュテル。目的地へ着くには表に出なければならないが、警官たちが探し回っていた。


「どうする?」

「僕の『アーサーの眼』を使うしかないな」

「ほー? 見せてくれ」

 シュテルは一呼吸して瞳が青く光りだす。

眠りの操作スリープオブコントロール


 警官は頭を下げ、ゆっくりとあげると、瞳が青くなっていた。その後、どこかへと行った。


「ほぅー、何処かへやったんだシュテル」

「草むらのほうへ移動してもらった。これで安心していける」

「ヘリがここに来る前にとっとと向かうぞ」


 十分後、到着した二人はホテルへと入る。そこには、客とスタッフは一人たりともいなかった。代わりに森本の取り巻きと思われる平民ペーパーの生徒がだらしない態度でたむろしていた。

「おい、てめぇ。森本は?」

「最上階の大宴会場にいます」

「そうか。では、案内してくれるかい?」

「お待ちください。実は、森本さんのが危害を加える可能性があります」

「だから、『やっぱりやめろ』と?」


 シュテルの言葉に生徒は悪意のある笑みを浮かべた。


「別に止めはしません。もし、行くのであれば構いません」

「何を言ってるんだ? お前」

「引き返すなら今です。どうなされますか?」

「つべこべ言わずに案内しろ」

「分かりました。こちらへ」


 二人を案内した後、生徒は礼をしてドアを閉めた。

 華々しい財界や社交界などの交流にふさわしい内装の大宴会場にて、森本はステージ上に座っていた。


「お待ちしていました。お二方」










 

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