第三十五話 瀬山からの依頼

「龍神会会長……瀬山正雄」

「そや。ニュースぐらい見とるやろ? 三日前にうちの若いのが薬の件で逮捕されたニュースを」

「えぇ。というか、極道は危険な代物を商売するんでしょ?」

「おもろいことを言うわぁ!」

 瀬山は高笑いをした。


 シュテルは、どうして志村が龍神会の会長と一緒にいるか聞くことに。


「志村、何故龍神会の会長と一緒にいるんだ? そもそも、会長の用件は何だ?」

「『聖女の騎士団』に返しをしたいということで知り合いの俺に相談してきたのだよ」

「知り合い?」

「合宿の時に軽井沢の裏カジノで会っただろ? 実は、龍神会のシノギでな。俺がオーナーを務めているのさ。毎月の売り上げの二割を上納金として払う条件に三割をもらっている」

「それは、良かったですね。いいですが」

(汚職管理長め)

「……さて、会長の用件だったな」

「志村、用件は、儂が直々に話す」

 瀬山は、真剣な表情になって口を開く。


「用件はな、直系組長の田中と中華チェーンの社長である橋本の死の真相解明と直系組長の柴崎の企みを潰して欲しいんや」

「それが彼女らとどういった関係があるの?」

「若頭の組の調査で二人の死と柴崎が関係していると分かったんや」

「詳しく説明してくれ」

「志村」

「はい、五代目。まずは、二人の死について説明しなくてはならない」


 志村は、鞄から二人の死の関する資料をテーブルの上に置いた。


「一人目は田中政司。直系田中組の組長でな、二カ月前の夜、千楽町の南東にあるソルト通りにある事務所の組長室で自殺しているのを若頭が発見した」

「自殺ですか」

「死因は、ナイフに首の動脈を切りつけ、銃で頭をぶち抜いたことによる即死。警察は目撃者も居らず、今のところは自殺の線で捜査をしている」

「この事件が柴崎にどう関係してるの?」

「それはな、柴崎はを開発中の企業との闇深い関係を持っていると田中が察知したんや」

?」

「……『ロンギヌス』や」

「『ロンギヌス』?」


 カリーヌたちは頭を傾げる。だが、シュテルは、バー『マルクス』の近くにいた龍神会構成員の話を思い出す。


「確か、『水谷製薬』が脊髄の病気を治す薬になるかもしれない薬だね? 柴崎が密かに実験体を提供しているとか」

「ほー! よぅ知っているな」

「調べていくうちに『聖女の騎士団』との関係があると知ったのね?」

「シュテルが持ってきた資料に書かれているの為に作られているというのを掴んでいたに違いない」

「超人を作り上げ、戦争でボロ儲けするためね」

「そうや。表向きは『難病である脊髄性筋萎縮症を治療できる』だがな」

(難病を患っている人たちが知ったら、怒髪天を衝くだろうな)


 カリーヌは『水谷製薬』について瀬山に聞いた。


「『水谷製薬』と『聖女の騎士団』はどういった繋がりなの?」

「『水谷製薬』はな、水谷浩一が三十年前に創業した会社。せやけど、本当は『聖女の騎士団』が指揮して作り上げたフロント企業であるというのが、五年前から分かったんや」

「フロント企業!?」

「もともと水谷家は組織の枝として仕える家系だった。しかし、努力を重ねた結果なのか、忠誠心と功績を認められ、組織の計画に携わる幹部六人の一つ下である準幹部に昇格。一家の大黒柱である水谷浩一はフロント企業の『水谷製薬』の社長としてお金持ちになれたらしい」

「そうなの。で? 田中は、どうやって柴崎と彼女たちの関係を掴めたの?」

「それはな、柴崎の急なや」


 瀬山は、柴崎の経歴を話す。


「儂の会に入ったのは七年前や。田中組の傘下である月村組若衆として活動していたらしくてな。六年前までな」

「六年前まで?」

「月村組組長が謎の死を遂げてな。何故か若頭たちは奴を組長にして柴崎組に変えてんや」

「どうしてなんだ?」

「理由を教えてくれへんのや。何で月村組組長が死んだかも不明。組長になってからは急成長。田中組を超える上納金を稼ぎ出して五年前に直系へと昇格や」

(月村組長の死。『聖女の騎士団』と関係があるのか分からないが)


 柴﨑が組に入ってから一年で急死して組長とは不自然にもほどがある。


「たった二年で直系に? 不審に思わなかったのですか?」

「そらぁ、不審に思った。だがな、当時は関西のヤクザ束ねる組織、阿修羅会との抗争があってな。大きな戦力を増やすために昇格せざるを得なかったんや。もちろん、直系組長達からの抗議あったで」

「で? それから、どうなったの?」

「柴崎組はますます急成長して二年前になると、若頭も一目置く存在になった。田中は、秘密があるって調べていくうちに自殺に見せかけられて殺されたと考えとる」

「両方を使って自殺するのは不自然だね?」

 明確の答えに瀬山は首を縦に振った。どうやら、正解のようだ。


「でも、田中は、どうやって関係を掴んだのかしら?」

「さぁな? とにかく、田中の死の真相を掴んで欲しい。絶対に彼女たちと関係しているのは確かや」

「そうだな」

「次は橋本の件や。志村」


 志村は、橋本の事件について伝える。 


「橋本卓志、六十才。西日本に展開する中華チェーン〈橋本中華〉の社長だ。今年の四月二日の午後七時四十分頃、アフターしていたキャバ嬢と男性客がゴールド通りの裏路地で口を開けまま、何者かに殴られて死んでいる橋本を発見した」

「警察の見解では、儂ら龍神会によるものと睨んでおる。とんだ濡れ衣や」

「彼の行動について何か分かっていることは?」

「分かっていることは、橋本が午後三時にホストクラブ『パラダイス』に入ったことだけだ。ホストによれば、『何を言っているのか分からないが、スーツ姿の五人の女性に怒鳴りつけていた』らしい」

(おそらく、『聖女の騎士団』の幹部であるサファイアたちに違いないな)

、警察は、その目撃証言しか得られていない」


 シュテルは、という言葉に眉をピクッと動かす。


「志村、「」とは何だ? 何かありそうだな?」

「あぁ、我々だけ得た情報があってな」

 志村は詳細を語りだした。

 ホストクラブを出た橋本は千楽町の中心である千楽メイン大通りの入口にて『白フードの女』と口論している姿を周辺の店員、住人に目撃されているらしい。

 何かを言った後、事件現場方面へ逃走する彼女を追いかける様子を最後に目撃証言は無かった。

「儂と志村は『白フードの女』に殺されたと考えておる」

「それに、組織の聖女マリアの可能性もある」

「「「「聖女マリア!?」」」」


 シュテルたちはボスの名前を聞かされ、驚いた。


聖女マリアとは、どんな姿をしているんだい?」

「あぁ、サファイアたちと森本しか姿を現さないらしい。構成員の間では『実は、とっくに死んでいる』とか『架空の存在であり、代わりばんこで演じてる』などといった憶測が流れているらしい」

「二人の死と『白フードの女』の正体、柴崎との関係。これらを調べてほしいんや。出来るな? こちらもやれる範囲でなんとかするわ」

「もちろんだ」

「ありがとうな。それはそうと、シュテル」


 シュテルに不思議そうな表情で尋ねる。


「あんた、一階で誰と電話したんや」

 藪から棒の質問に目を見開いて動揺した。

「驚くのも当たり前か。実はな、メイドは『アーサータワー』の四十五階以下を極秘の監視している部屋があってな。あんたが話しているのを見たんや」

「驚いたな。監視カメラがあるとは。実は」

 電話の内容を話すと瀬山の表情が更に真剣な表情になる。


「シュテル、行くんやったら気をつけたほうがええ」

「どうしてですか? 瀬山会長」

「犯罪組織同士が取引している噂がある、通称『闇の市場』と呼ばれている程の危険な所らしい」


 アーサーに危険な場所があるという事実に肝を潰した。カリーヌ、マイケル、エリーの顔を見ると、自分と同じだったようだ。


「そうなると、念の為に準備した方が良さそうだな」

「そうしたほうがええ。薄氷を踏むからな」

『『アルティメットアーサーハウス』にある設備で鍛えてこい。それから休憩してから行けば良い」

「鍛えるところがあるの!?」

「あぁ。悪いが、俺と五代目は忙しいからな。先に失礼するよ。キャサリンが案内してくれるから」

「汚職と汚い仕事かしら?」

「そうよね。下衆同士の」

「おい! カリーヌ、エリー!」

 罵倒じみた発言をした二人を叱った。

「挑発されているのは慣れとるから大丈や。ほな、失礼するわ」


 志村はバー『マルクス』で入手した資料を手に取り、瀬山と部屋を退出した。それと同時にメイド長のキャサリンが入った。


「それでは、案内致します」

「あぁ、よろしく頼む」


 この後、シュテルたちは『アルティメットアーサーハウス』とは何か、知ることになる。



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