第三十二話 調査

 狭い通路を通って、カリーヌたちの待つ裏口に着いた。近くには、酒の空瓶の入ったプラスティックケースが三段に重ねられて置かれている。

「見て、シュテル。扉が開けっぱなしだよ」

「さて、行きますか。出来るだけ、早く調べて終わりましょう」

 シュテルたちは店内へ侵入する。

 

 内装は、いかにも大人という雰囲気を漂わせていた。未成年には分からない世界観を放つ。

「休憩室は灰色の扉だね」

「そうだ、カリーヌ。あそこを調べて、資料を見つけよう」

 シュテルはドアノブに手をかける。


「なんで、ほったらしなの?」

「ん? どうしましたか?」

 エリーが見つけたのはカウンター席の内側の床に散らかっているキャンティとラムの瓶の破片だった。

「旅行の後で掃除すれば良いと思ったんだろう。気にすることはないよ」

「先にお掃除する考えは無いのかしら?」

「どうなんですかね? とにかく、入ってみましょう」


 休憩室に入ると、テレビ、机と長いソファー二つ、給水器と従業員のロッカーが置かれていた。奥には資料が保管されているであろう金庫があった。

「金庫はあそこか」

「待って。その前にカーテンを閉めよう。外の歩道から通行人に見られたら、厄介ごとになるから。」

「あぁ、頼む。エリー」


 エリーはカーテンを閉めた。目撃されるリスクを無くすと、四人は金庫の前に立つ。


「期待のある物があれば良いが」

「絶対に何かあるはずです。信じましょう」

「ご丁寧に七桁のダイアル式だよ。一桁で良いのに」」

「七桁か……七桁の通りは百万通り以上ある。でも、全部を入力するほどの時間は無い。カリーヌ」

「うん、任せてシュテル」

 カリーヌは金庫のボタンの位置の高さにしゃがむ。


「『眼』を使う時が来たわね。……記憶の痕跡メモリーログ


 彼女の瞳が赤く光り出した。十秒ぐらい見続けると、光は消えた。


「見えたわ。『19680715』よ」

「『19680715』だな。分かった」

 数字をダイアル式に入れると、ロックが解除される。中を開けると資料の束が入っていた。


「見た感じは、A4サイズの三十枚か」

「とにかく、見てみましょう」


 四人は、資料の内容を見る。


「『マリアヴィーナス』? 薬のようだね」

「奴らは、薬でボロ儲けしようとしているの?」

「えーと。「この薬は、新たなる時代を対応するために、対象を超人化させる目的で研究、製作している」?」

「え!? つまり、奴らは戦争ビジネス目的で金儲けしようとしているの?」

「なんて、最低な奴らなの!? 人を超人兵士というを作るわけ!?」


 戦争で金儲けするために、をするための薬の完成が目的だと知り怒りを露わにした。カリーヌ、マイケル、エリーも同じ気持ちだろう。


「他には何か書いてはないか? マイケル」

「はい。『投与すると遺伝子が急速に活性化。筋肉、細胞などが強化され、超人の域に達する。男性は五十パーセントの確率で染色体に変化を起こし女性化する』と書いてあります」

「男性が投与されば二分の一の確率で女になるということ?」

「ちょっと、待って。地下倉庫の時に上流ゴールドの彼らが目をピンク色に光らして女になったのは!?」

「あぁ! あの薬の実験体にされたということだ」


 『聖女の騎士団』は、人の道徳を踏みにじる最低の組織だと確信した。次のページには二百人以上の実験体のデータが記載されていた。


(あいつら、これだけの人を犠牲にして!)

「皆さん、そろそろ引き上げませんか? 資料以外で手掛かりになりそうなものはありませんし」

「そうだな」

「でも、資料はどうするの?」

「そのまま持っていくと怪しまれる。複製魔術を使おう。手伝ってくれるかい?」

 手分けして資料をコピーし終えると、原本を金庫に戻した。


 店の外に出ると、薫風くんぷうを感じた。

「この資料をどうするのですか? シュテルさん?」

「あぁ、志村とで待ち合わせしている。そこで、資料を渡す」

「そ待ち合わせはどこなの?」

「こっちだ。ついてきて」


 









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