第五章  奇跡と仮面

第三十一話 ロンギヌス

 射撃特別訓練合宿が終わった四日後の休日。シュテルたちは、財閥階級プラチナランク生活地域の近くにある歩道にいた。


「シュテルさん、『マルクス』を調べるのですか?」

「そうだ。なにか、手掛かりがあると思ってね」

「でも、どうしてそこへ? 会合だけなら何も残ってないはずですが?」

 シュテルは胸ポケットから五枚の写真を取り出し三人に見せる。


「斎藤が殺される六ヶ月前に、ポケットにある隠しカメラで撮ったものだ。見てみろ。店長である彼はサファイアから資料を受け取ると、奥にある休憩室に入っただろ?」

「資料を奪うということ?」

「そうだ。彼女らの目的が判明し、前進すると思ってね」

「でも、大丈夫なの? 今は営業してないけど、店員が準備するためにいるかもしれないよ?」

「大丈夫さ。志村からの情報で旅行中だから、数日は帰ってこない」

「大チャンスだね」

「よし、行ってみようよ」

 シュテルたちは、長距離移動魔術でバー『マルクス』へ向かう。


 目的地に着くと、カリーヌたちは裏口を探し始める。だが、シュテルだけは軽井沢ロイヤルホテルの地下倉庫で起きた出来事がどうして気になって動けなかった。

〈アァ! サイコウダワ! キモチイイ!〉

〈シアワセネ!〉

(あのピンク色の液体、それと彼らの反応……あれは、一体?)

 頭をフル回転させていると、後ろから声が聞こえる。振り返ると、向かい側の歩道に赤のジャージを着た男と青のジャージを着た男が歩いていた。

「あの柴崎の奴は腹立つわ! 龍神会の三次団体の分際で直系になってから、いい気になりがって!」

「ホンマですわ! 力持てば、あんなに人が変わるんですね」

(龍神会の構成員か? アーサーから出ていってもらいたいけど、余計なトラブルは起こしたくない。無視しよう)

 引き続き、考え事に集中する。



「会長は、何であんな野郎を直系にしたんですかね? 平凡の稼ぎしかできひんくせに、納得できんすわ」

「同感だ。瀬山会長は『儂を殺そうする裏切者の幹部から守ってくれた』と言ってらしいぞ」

「その幹部って直系田中組組長の田中政司はんでしたな」

「あぁ、田中の親分は、組の事務所で刃物で自分の首の動脈を傷つけ、オマケに頭をぶち抜いていたからな」

「とても忠誠心のあるお人やのに、裏切りとは……俺らに、とっては考えられへんですわ」

「あぁ、せやな……ただ」

 何か知っててそうな口ぶりを見せる青ジャージの男の言葉に、何故だか分からないが思わず耳を澄ます。


「龍神会の中では、「あれは、他殺じゃないか?」と噂が立ってるや」

「え? なんでですの?」

「自殺の仕方や。自殺するなら頭をぶち抜くか、首の動脈を切るで十分なはずや。それを両方をやるのはおかしくないか?」

「確かに! 片方をやれば、即死ですね!」

「やろ? 『』ということや」

「なるほど、でも誰がやったんですかね?」

(極道の争いか、全く……反社会の人間は、困ったもんだ)


 醜い殺し合いの話に二の句が継げない。


「ところで柴崎は、シノギで何をしておるんですか?」

「あいつは、『水谷製薬』との新薬開発や」

「『水谷製薬』? あぁ! 最近、記者会見でSMAという脊髄がおかしくなるの難病を直す新薬『ロンギヌス』を発表していましたね?」

(『ロンギヌス』?)

「あいつ、新薬の実験体を裏から提供して謝礼を受け取っているらしい」

「それはまずいじゃないやないですか?」

「あぁ。もしこんなことが、バレたら逮捕だけで済まされん」

(これは、とんでもない噂を聞いてしまったな)

「ちょっと、君だけ探さないのはひどいよ!」

 

 カリーヌは頬を膨らませながら、怒っていた。

「ご、ごめん! 裏口は見つかったかい?」

「はい。こちらに来てください」

 シュテルは裏口を発見したカリーヌらのもとへ向かう。








 







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