第二十八話 取引の摘発

 足音が大きくなり、シュテル達の部屋の前を通ると鳴り止んだ。ノックをする音が聞こえてきた。


 シュテルは、紙で「音を立てるな。僕がインターホンの画面を見てくる」と書いて、カリーヌたちに見せる。

 彼女らの首を縦に振るのを確認。慎重に音を立てないよう、インターホンの画面を起動すると……


(ん? 上流階級ゴールドランクの生徒達か?)


 そこに映っていたのは、男八人の上流階級ゴールドランクの生徒だった。

 警戒を解く合図を彼女たちに出すと、ドアを開ける。


「シュテル様! どうも!」

 中央にいた生徒が笑顔で挨拶をした。


「どうしたんだい? 別にわざわざ挨拶しなくても」

「いえいえ、創設者の曾孫である貴方に挨拶しなくては! 人としての基本ですから!」

(人としての基本ね……だろ)


 上の者に気に入れられようと、媚びた挨拶をする彼らに呆れかえった。カリーヌたちもそうに違いない。


「挨拶だけなら、ドアを閉めるよ?」

 中央にいた生徒はドアを閉められる前に手で止める。

「ちょ、ちょっと待ってください! 実はですね、どうしても知らせなければならないことがありまして」

「それは、どういったものだい?」

「はい、我々の監視者からの情報です。零時に平民ペーパーの連中が、地下倉庫にて我々の銃、剣などを何者かと取引するらしいです」

「でも、ホテルの関係者が使うのでは?」

「スタッフの会話から今日は在庫整理のため、全ての備品は別の場所に移動しているため、鍵は掛けていないらしいです」

平民ペーパーの生徒がそこで取引をするのかい?」

「はい。そこで、貴方達と我々だけで取り押さえたいのです。ご協力頂けませんか?」

(シュテル・アルフォードという看板を利用して、目立ちたいだけじゃないのか?)

 上流階級ゴールドランクの彼らからの要望にカリーヌたちに目を向ける。


「私たちは大丈夫よ。シュテル」

「だそうだ。まぁ、それが本当なら大変だ。喜んで協力するよ」

「ありがとうございます! それでは」

「で? 人数は、何人だい?」

「はい?」

 中央にいた生徒は、シュテルから質問されるのが予想外だったのか、キョトンとした表情を浮かべた。

「普通なら、人数とか構造などを仲間に知らせなければならない。だが、君達はが無かった。……何か都合の悪いことでもあるのかい?」

「い、いいいいや! 滅相もありません! 忘れていました!」

 

 彼は人数や構造などについてシュテルたちに伝えると、挨拶してドアを閉めた。


「シュテル」

「どうした? エリー?」

「彼は『平民ペーパーが武器を取引』って言ったけど、買うほどの資金はあるのかな? どうも、腑に落ちないのよ」

「確かにそうね」


 シュテルが、一つの推測を出す。


「森本じゃないか? 志村が『聖女の騎士団と森本家は、五十年の付き合い』って言ってただろ?」

「うん」

「武器を買ったり平民ペーパーを雇ったりする金もあるはずだ」

「それに、彼女らと不定期に会合していた。もしかしたら、その打ち合わせを何回もしながら、計画を練っていたじゃないかしら?」

「とにかく、彼らが指定した時間に向かおう。タイミングを見極め次第、平民ペーパーの彼らを拘束するぞ」

「分かったわ」

「はい」

「了解でーす!」

 指定した時間まで、武器や道具などの準備とコンディションの調整を行う。



 

 午後十一時五十分。気配を消して地下A倉庫へと着いた。そこに上流階級ゴールドランクの彼らが隠れて待機していた。ここには、A倉庫とB倉庫がある。


「皆様、こっちです」

 中央にいた生徒は小声でシュテルたちを呼んだ。

「どうだ? 状況は?」

「この壁の小さな穴を見てください、シュテル様。隣のB倉庫の様子が見えます」


 覗き込むと、十人の平民ペーパーの生徒、赤スーツ姿の五人の美女と緑スーツ姿の五人の美女が待機していた。中央には長いテーブルがある。


「彼らは、ここで取引をするのかい?」

「はい。誰かを待ってるようですが」

「何か会話しそうだな?」

「聞いてみましょう」

 彼らの会話に耳を傾ける。


 

「聞いたわよ? 今日は、訓練が駄目になったようね?」

「あぁ。上流ゴールド以上の奴ら、猿みたいに騒いだらしいぜ? いい気味だ」

「猿で思い出したけど、あのシジイは始末だまらしたのか?」

「えぇ、ルビー様たちの手によって。何とか『』を漏らさずに済んだわ」

「えぇ、千楽町のホストクラブ『パラダイス』に駆けつけて、あの方たちに尋問してきたからね。橋本卓志は、しつこいわ!」


 シュテルは、マイケルにその人物について尋ねてみる。


「橋本卓志って誰だ?」

「西日本に展開する中華チェーン、橋本中華の社長です。御年六十で、視察の時には、蹴ったり、殴ったりするで有名なのですよ」

「それは、私も聞いたことはあるわ。人格否定の言葉を何回も浴びせることで有名らしいわ」

「そして、その社長がスーツ姿のグループに殺され、『』を漏らさずにいけた……奴らは、何のことを言ってるのだ?」

「誰が来ます」


 金髪の上流ゴールドの生徒の言葉で静かにすると、入口と思われる扉から二人の女が入って来た。


(ルビー! エメラルド!)

 そこに入って来たのは、聖女の騎士団の幹部のルビーとエメラルドだ。

 

 エメラルドは、平民ペーパーの生徒を笑顔で見る。それに対してルビーは、睨んでいた。


「あんたら、尾行されてはないわね?」

「もちろん、ルビー様。今頃、奴らは夢の中か楽しくお茶会してるよ。それに、備品がどうたらこうたらで鍵を掛けてないから、今日は好都合だ」

「そう」

「で? あれは? エメラルド様」

「大丈夫だよ。用意したから。あんたたち」


 エメラルドとルビーの部下が、アタッシュケースをテーブルの上に置きオープンする。その中身は、武器だ。

 

「ほー! これは! これは! デザートイーグルじゃねぇか! 中々、凄いですな!」

「あんたらが扱いやすいように改造してあるわ。補充の弾丸は、部下に言えば、調達してくれるわ」

「ありがとうございます」


「行きますよ! 皆様!」

 上流ゴールドの生徒の合図で、他の生徒と共に突入する!


「貴様ら! 平民ペーパー! 何を取引してるんだ!?」

「ちょっと! これは、どういうこと?」

「る、ルビー様! そんなことが起きるなんて、思っていなかったので!」

「それで済むと思っているのかぁぁぁ!」

 ルビーの怒号に平民階級ペーパーランクの生徒は悲鳴を上げた。

「ルビー! エメラルド! 貴方達が、まさかここに来るとは!」

「マイケルじゃない!? よくも、アメジストをやったわね!」

「マイケル様!? どういうことですか?」

「前に、アメジストという女から襲撃を受けてね。とにかく、話は後です」

 シュテルとマイケルの姿を確認したルビーとエメラルドは、それぞれ短剣と長剣で構える。


「ようやく会えたわね! 今日はアメジストの分を返せないと思っていたけど、返せそうね!」

「それに、彼女がいるみたいね? カリーヌとエリーかな?」

「さすが、耳に届いているのね。だって、カリーヌ」

「『返せそう』って、あんたらが、こんなことをしているからでしょ?」

「副学園長の生意気小娘がぁ! あんたらと上流ゴールドの奴らまとめて殺してやる!」

「君達も、手伝って!」


 エメラルドの指示で部下と平民ペーパーの生徒も武器を構える。


「シュテル様! 援護します!」

「あぁ、頼む!」

「しくじらないでね!」

「はい! みんな! 行くぞ!」


 味方の上流ゴールドの生徒達も武器を構える。


「聞きたいことが山ほどあるからな! 話してもらう!」

 力を込めて武器を構え、気迫に満ちたオーラを出して戦闘態勢に入る。

「アッハハハ! アメジストの時はボロボロだった癖に、よく言えるわねぇ!? その余裕、ズタズタにしてあげるわぁ! 上流ゴールドもろとも屍になれぇ! シュテル・アルフォードォォ!」












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