第二十七話 スキルメディカルとシュテルたちの進化
午後三時。裏カジノで遊んでいたシュテルたちは満足すると、ギャンブルをやめた。結果は、所持金が三倍に増えた。
「志村さん、ありがとうございます。楽しめました」
「それは良かった」
「また、機会があれば行こうね? シュテル!」
「そうだな」
カリーヌはシュテルの左腕に笑顔で抱きついた。彼もそんな彼女の頭を優しく撫でて幸せな表情をしていた。
「それじゃ、僕達はこれで失礼するよ。何か分かったら連絡してね」
「もちろんだ」
「それでは、失礼します」
志村に別れの挨拶をした彼らはカジノから出た。
ホテルへ帰ろうとすると、黒服の男に呼び止められる。
「何よ、あんた? 言っとくけど、イカサマしてないわよ?」
「それは、分かってます」
「じゃ、何よ?」
「皆様に、おいしい話があります」
「どうせ、詐欺だろう?」
「いえいえ、そんなつもりはありません。皆様を進化させようと思っているのです」
シュテル達は、進化という言葉にハテナマークが浮かんだ。
「進化? どういうことですか?」
「皆様を進化させ、最強の騎士にしたいのです。上手くいけばアーサーラウンズより五倍以上にね」
「アーサーラウンズよりも!?」
「強くなる!?」
黒服の言葉に目を丸くした。だが、シュテルは違った。
「信用できないな」
「はい?」
「そんな上手い話があるのか? まさか、彼女たちの手先じゃないのかい?」
「はっ! 確かにそうね。君が敵なら、私たちは容赦しないよ」
「ハハハ。そうですか、『信用できない』と言いたいのですね。では、こうしましょう。私が同行するなら、文句はありませんね」
子ども扱いをするような発言にシュテルは癇に障るが我慢した。
「いいだろう。来てくれるかい」
シュテルたちは黒服を連れて部屋に帰ると、言葉通りテーブルの上に説明書が置かれていた。
「シュテル様、代表してお読みください」
「『部屋のクローゼットに、スキルメディカルが置かれています』マイケル、クローゼットを」
「分かりました」
「貴方、スキルメディカルとはなんだい?」
「簡単に言うと、能力を得られる魔法薬です。詳しい作り方はお教えすることはできませんが」
「シュテルさん、ありましたよ」
マイケルが、それぞれサファイア、ルビー、エメラルド、シトリン製の四つの小さな宝箱を発見した。どうやら、スキルメディカルのようだ。
「マイケル、テーブルの上に置いてくれ」
シュテルが説明書の続きを読む。箱を開けるには、心臓に埋め込まれた聖石をそれにかざす必要があるそうだ。
「とにかく、開けてみよう。本当に大丈夫か?」
「つべこべ言わずに開けたらどうですか? シュテル様」
「くっ!」
シュテルはサファイア、カリーヌはルビー、マイケルはエメラルド、エリーはシトリンの箱に聖石をかざしてみる。すると箱が光り出し、ロックが外れて開いた。
中を見てみると、それぞれのトレードカラーの液体が入った二つの注射器があった。左の注射器には『体力アップ』、右の注射器には『アーサーの眼』のラベルが貼られていた。
「僕が代表して、『体力アップ』を打ってみるよ」
「シュ、シュテル、大丈夫なの?」
「大丈夫さ。君の死ぬ姿を見たくない。もし、死んだら彼を制裁してくれ」
「うん、分かった」
「上半身裸になったほうがよろしいですよ。効果を実感できるので。それとも、怖いのですか?」
「あんたねぇ! 彼に対して舐めた言い方しないで!」
シュテルは上半身裸になると、『体力アップ』の注射器を持った。マイケルとエリーは逃げられないように、黒服を拘束する。
「では、一、二、三!」
「ぐ、あぁぁぁ!」
彼の全身の筋肉は美しく発達。腹筋はさらに割れ、よりくっきりと見えるようになる。
「嘘……でしょ!?」
「なんという美しさ!」
「素晴らしいとしか言えないよ」
カリーヌたちはワンランク上の美貌を手に入れたシュテルを見て、唖然していた。
彼は近くにある全身鏡で確認すると、自分の姿に肝を潰した。
「これで、信じていただけましたか?」
「……あぁ、ありがとう」
本当だと確信すると、黒服を離したカリーヌとエリーは上半身ブラジャーだけになり、マイケルはシュテルと同じく上半身裸になった。自分たちの左腕に投与すると、全身に来る快楽を味わう。
「う、うわー!」
「あぁー-!」
「最高ね!」
マイケルはシュテルと同じように美しい体へと変わった。カリーヌとエリーのお腹の括れはさらに美しくなる。女性らしい腹筋が浮き出て、胸が大きくなる。
「すごいわ! こんなグラマラスな体になるなんて!」
「私たち、モテるじゃない?」
「なんだか、自信が湧いてきますね」
「皆様、喜んでいるところ悪いですが、もう一つも使ってください」
「これは、どういった能力だ?」
「だから、読んでください。シュテル様」
本当だと確信すると、嫌みを含んだ彼の言葉を気にせず、『アーサーの眼』について書かれた説明書を読んだ。どうやら、それぞれ特殊能力が使えるらしい。
四人はもう一つ注射器を持って、自分の右腕に注入した。すると、彼らの瞳がより濃くなり、透き通ったものに変わった。
「なんか、人を超えちゃた感じね」
「そうだね。手にした力で『聖女の騎士団』の野望を阻止できるかも」
「貴方、さっきから思っていたけど、どうして僕の名前を……あれ?」
後ろを振り返ると、彼の姿は消えていた。
「どこに消えたのだ?」
「まぁ、いいじゃないの。本当だと分かったから」
「そ、そうだな。それで……!」
シュテルが入口のドアに視線を向けた。
「どうしたの?」
「カリーヌ、静かに」
三人はシュテルの指示に従う。すると、部屋の外から近づいてくる足音が聞こえてきたのだ。
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