第二十六話 仕掛け

 シュテル達が志村と接触している頃、森本は準備中のバー『マルクス』のカウンター席に座っていた。

 隣から、ある人物に睨まれている。

 彼の名は生活指導教諭の田村。時代錯誤の指導が有名で階級ランクに関係無く体罰を与え、生徒から警戒される存在。

 一部の住民から森本がスーツ姿の女性たちと会話しているという目撃証言を得たらしい。

 CSMOシスモの斉藤が死んだ夜。田村は尾行した末にたどり着いた酒場で会話の内容こそ聞き取れ無かったが、何やら企んでいるのに感づいたらしい。

「おどれ、未成年のうえに店開いてへんのに、なんでおるんや? 合宿でおらんはずやろ?」

が経営する店でしてね。店長から『改装を手伝ってほしい』と頼まれたので、休みをいただいたのですよ」

「そんな、理由で休めるはずがないやろ! おどれがスーツ姿の六人の女と話しているのを見てるんや!」

「知りませんね」

 バカにした返答に、田村は森本の胸ぐらを掴む。


「どうやら舐めとんらしいのぅ。街頭カメラを調べれば分かるんやぞ? おぉ? ワシは、カメラの映像を調べる権限を持ってるからな」

(相変わらず、うるさいな。 どうせ、嘘だろ)

「一週間、竹刀で気合い入れの叩き二百回で勘弁したるわ。正直に言え。あいつらは、何者や?」

「……分かりましたよ。とりあえず、先生。胸ぐらを離してくれませんか?」

「離されへんのぅ」

 拒否されると、森本は舌打ちをした。


「彼女たちは、投資家なんですよ。一儲けしたくってアドバイザーを探していたところ、偶然にも会いましてね。そこで、酒場なら生徒が入れないうえに、貴重な情報を教えていただいているのですよ」

「違法な株取引とか? 悪いとは思わんのか?」

「悪いと……思っています」


 田村は彼を離し、商品棚に置かれているワイン瓶を割った。 

「森本、気が変わった! 両手を出せや。わしが割った二つのビンでおどれの両手に一分間刺しとく。それで手打ちにしようや」

(よし、実験体になってもらうか)

 森本は、人差し指で頬を軽く叩いた。

「先生、先に酒の愛好家へ謝罪すべきでは?」

「あぁん?」


 顎で指す方向へ振り向くと、田村は銃を持ったサファイアとシトリンから腹を数発撃たれた。

 うめき声を上げる田村に三人は軽蔑の眼差しを向ける。

 

「人の仕事を邪魔するのは良くないですよ」

「お、おどれらは、あ、あ、あの晩の」

「サファイア、あれを投与してくれ」

 ポケットからピンク色の液体が入った容器を取り出し、銃に似た物へ入れた。

 シトリンと森本は彼の体を押さえると、サファイアが注入口を田村の首筋に付けた。


「な、な、何を……する気……じゃ?」

「マリアヴィーナス」

「なんや、そ、それは?」

「先生は知らなくていいです。彼女たちのになるだけですよ?」

「ようこそ、我が騎士団へ」

 サファイアが囁くと液体が田村の体内に入る。


「ギャーー! キモチイィ! キモチイィワァーーー!」

(すごいなぁ! 俺好みになるなぁ!?) 


 息を荒くし、目をピンク色に光りながら彼の体が変化していく様子を眺める。

 声が高く細くなっていき、骨格も丸みを帯びていく。胸と尻がムクムクと大きくなり、髪が伸び始め、顔が変化。

 変身が終わると、胸がGぐらいがあるグラマラスな体になった田村かのじょがいた。立ち上がるとサファイアに跪く。


「サファイア様、ありがとうございます」

「分かればよろしい。それでは、青いスーツを着てアクアマリンから任務を受けなさい」

「分かりました」

 着替えると早い足どりで店を出っていた。

 

「別人に変わるとは凄いな!」

「えぇ。パソコンで今の結果を研究者に伝えなさい」

「分かった。後でデートに誘うか。これで一歩前進ってか?」

「そう捉えてもかまいません。完成する頃にはが起き、『生命の泉』を見つけられるでしょう。それが、聖女あの方のご所望ですから」

「森本、サファイア。私、失礼するね」

「シトリン、ありがとうございました」

 シトリンが店を出ると、森本はカウンター席に座り直す。


「どうしましたか? 随分疲れてますね?」

「いや、ルビーから『サファイアが俺に『いい妹を持ったわ』と発言している姿が目撃された』と言われてな」

「彼女は疑り深いところがありますからね。嘘だと気づかないとは、愚かですね」

「そうだな。俺は帰るぜ」

 立ち上がると、店を後にした。


 


 森本は中流シルバーランク公園前に着くと、近くの公衆電話へ入って、に掛けた。

「もしもし、あれから考えたがを頼む。……ありがとう。楽しみにしているぜ」

 受話器を置くと、不気味な笑みを浮かべながらガッツポーズをとった。

 




 




 











 










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