第二十三話 非通知の相手は……

 軽食会は九時ぐらいに終わった。入浴を終え、就寝してから二時間が経った。全ての階級ランクの生徒は寝静まり、ホテルの客室エリアの通路では、少しの明かりと月光の光が優しく照らされていた。

 ベットルームにてそれぞれのダブルベットで、シュテルとカリーヌ、マイケルとエリーで寝ることになる。


 美しく引き締まった上半身を裸にして寝ていたシュテルは、目を覚ますと喉が渇いていたので水分を補給するためベッドを抜け出した。

 何気なく隣のダブルベットを見ると、エリーは寝ているがマイケルが居なかったのだ。

 二人を起こさないよう、リビングにある冷蔵庫へ向かった。


 冷蔵庫を開けてお茶のペットボトルを取り出し、コップに注いで静かに飲み干す。

 一息吐くとベランダからマイケルが静かに手招きする。

「マイケル、起きていたのかい?」

「えぇ、貴方が起きる十五分前に目が覚めまして、ベランダでちょっと月を見てから、寝ようかなと思いまして」

「そうか……それにしても、マイケル。君の体は、僕の体と同じく引き締まっているね」

「えぇ、こんな美しい姿になってからは、筋トレで体を鍛えてますからね」


 彼の上半身は、体毛が無く白く透き通った肌、細いながらしっかりと筋肉がついて引き締まった腕と脚と身体。さらに、はっきりと浮かんでいる腹筋が色気を感じさせる。

 魅入るようにマイケルの腹筋を見ていると……

「シュテルさん、座ってお茶でも飲みませんか? そんなに僕の腹筋を見ていないで」

「あぁ、そうだね。では」


 二人は、客室のベランダに置いてある椅子に座り、マイケルが、テーブルの上にある冷や茶の大きなペットボトルから、それぞれシュテルと自分の紙コップに注いだ。

 軽く乾杯し、椅子にもたれて茶を飲み、寛ぎながら満月を見る。


「今日は、綺麗な満月ですね」

「あぁ、そうだな」

「こんな良い気分になれるなんて、では、絶対に無理です」

「そういや、君とカリーヌが、この姿になる前は、どんなものだい?」

「それは、貴方と同じですよ」

 マイケルはに関することを話してくれた。

 その時は、シュテルと同じ生活、考えをしていた。何も努力せず自堕落な生活を送り、アーサーラウンズへ入れると思っていた。

 しかし、卒業二週間前にいじめられた同級生から査定書を渡され、雑用係として配属されることになる。自分らが、どんなに甘い生活を送ってきたのかを今になって知ったという。

 しかし、泣いている自分らを着物姿の若い女性とジャージー姿のオカマとの出会いにより、今の姿になったということだ。



「そんなことがあったんだ」

「はい、この姿になって心に決めたのです。『チャンスを無駄にしてはならない』と」

「僕もそう思ったよ。そんなことをしたら宝の持ち腐れだからな」

 二人がそのような会話をしていると、テーブルに置いていたシュテルのスマホから非通知の着信音が流れる。  

「ん? この非通知は、僕らを変身させた彼らの電話番号に当てはまらないですね」

「ホントか?」

「えぇ、どうします? 出ますか?」

 シュテルは、とりあえず非通知に恐る恐る出ることにする。

 

「……もしもし」

「シュテル・アルフォードか?」

「そうだが、君は?」

CSMOシスモの志村だ」

「シュテルさん? どうかしたんですか?」

CSMOシスモの志村と名乗る男からだ」

CSMOシスモからですか? どうしてシュテルさんの電話番号を知っているのですか?」

 とはいえ、電話の相手がホントにCSMOシスモの人間かどうかは、分からない。もしかしたら、偽名を使い組織の名を借りたパパラッチ、若しくは、あの聖女の騎士団の手先かも知れない。


「何の用だい? 先に言うが、僕らは脱税や闇取引はしてないからな。それに、貴方がホントにCSMOシスモの人間なのか分からないからな」

「そんな返事が来ると思ったよ。それもそうだ、非通知からいきなりそう言われても信じる訳がないよな」

「当たり前だろ」

「じゃ、その組織のメンバーだと証明してやる。このホテルの近くに、『小森骨董店』という小さな店があるだろ? とりあえず、外を見てくれ」


 その店の位置を確認してみる。確かに、ホテルの敷地内から出て道路を横断すると、高級住宅地エリアの入り口近くに、小さな店があった。


「僕の視界に入っているあの店か?」

「表向きは高めの置物が販売されている。しかし、裏では地下に超高レートのカジノと滅多に出回らない物を販売する店が存在する。多くの財閥階級プラチナランクのお金持ちさえ存在が知られていない。それを知っているのはごくわずかだ」

「それにしても、なぜ接触する」

「君がだからだ」

「なっ!」

 シュテルが動揺した声を聞くと鼻で笑われる


「さて、話を続けるぞ。入り方だが、店主に『壺は、売れてるか?』と聞くんだ。そしたら、『微妙な感じに売れた』と返事が返る」

「そして?」

「こう答えるんだ。『明日は、晴れるように売れると良いな』とな。そうすれば、裏カジノへの道を開いてくれる」

「分かった。それでいつ行けば良い?」

「明日の朝十時に待ち合わせだ。俺は、黒のスーツにグレーの線が入った帽子を被っている。そこで信用するか考えてくれ。もちろん、信用しなくても構わない。俺は、他のところを探すだけだ」

「それは、無理だな。志村」

「明日は、一日中の訓練があるのだろう? 心配するな、明日は絶対に中止になるから安心しろ」

「え? 何故、そう言い切れるんだ!? って、ちょっと! ……電話を勝手に切ったな」

 シュテルは、スマホをテーブルの上に置く。


「明日の朝十時に『小森骨董店』で待ち合わせすることになった」

「『小森骨董店』?」

「あぁ。そこの地下には、超高レートの裏カジノと滅多に出回らない商品を売っているショップがあるらしい」

「軽井沢に裏カジノがあるなんて……しかし、僕らは合宿で来ているのですよ? 無理なのでは?」

「彼が言うには『明日は絶対に中止になるから安心しろ』と言っていた」

「何故言い切れるのでしょう?」

「分からない。オマケにも知ってるらしい」

 それを聞くとマイケルは、彼に正体を知られていると思っていなかったのか、非常に驚いていた。

 その時、二人がいないのに気付いたカリーヌとエリーは目を覚まし、ベランダにいるシュテルとマイケルを見つける。


「どうしたの? 二人揃ってお茶でも飲んで」 

「ちょうど良かった。お二人さんに大事な話が」

「大事な話?」

「それが……」

「マイケル、僕が説明する」

 シュテルは、志村とのやりとりを二人に話す。


「それって、まずいんじゃ!?」

「嫌よ! せっかく手に入れたのを早々に失うのは!」

「落ち着いて、二人とも」

 焦る二人を落ち着かせる。

「シュテルさん、どうします? 待ち合わせに向かいますか?」 

「私たちの親の力でそいつを何とかする? そしたら、さすがにびびって」

「カリーヌ、彼を無視するのは悪手な気がする。それに、今の発言は聞き捨てならないな」

「ごめんなさい」

 シュテルに頭を下げて謝罪した。


「シュテルさん、こうなったら」 

「あぁ、行くしかない。僕らについてリークさせないためには、彼を会うしかないね」

「シュテル、大丈夫なの?」

「エリー、今の状況で僕たちの選択肢は一つしかない。とにかく、寝よう。疲れが残っては話にならない」

 四人は明日に備えて眠りについた。




 



 







 

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