第二十一話 変身

 三人はレストランを出た後、エレベーターで七階まで上がり、七〇〇五号室へと着いた。

 シュテルが『待って』と辺りを見渡す。周りに怪しまれてないかつ誰かにつけられてないことを確認すると、二人と部屋に入る。

 

 財閥階級プラチナランク専用の客室は、大型テレビ、三台のソファー、その中央に高級果物の入った籠が置いてあるテーブル。寝室には四人分の最高級のベッドがある。

 それだけではなく、超ハイテクのトレーニングマシンや、ビリヤード、ダーツといった遊び道具。大理石で出来たキッチン、超一流の家電メーカーの最新家電、食器棚、酒とアイスと飲料が入った専用の冷蔵庫もある。まるで別荘と見違えるほど。

 さらに、二十四時間対応電話で受付係に欲しいドリンクの種類、個数を言えばホテルマンが、直接無料納品してくれるなどの専用のサービスがある。

(凄すぎて、言葉が出ないな)

 シュテルが息を飲んでいると、真ん中のソファーに座っている平民階級ペーパーランクの女子生徒の後ろ姿が目に入る。

「一時間早いけど、お待たせ」

「カリーヌさん! 気にしないでいいよ! いつでも準備は、出来てますから」

 カリーヌに声を掛けられて彼女は、シュテル達に振り向いた。おたふくのような顔と体型をした女だった。


「カリーヌ、彼女がそうかい?」

「そうよ、彼女よ。平民階級ペーパーランクの出身で、名は秋山奈々。先週の水曜日に、私達を変身させた彼らの仲間である黒スーツ姿の中年に『変身するにふさわしい』と言われたらしいわ」

「そうか、でもどうやって、その中年の人は接触してきた?」

「いじめから救ってくれたからよ。彼女が道端で歩いていたとき、その中年はチンピラにいじめられたの。その時、彼女が勇気を出して救ってくれて、『お礼に良い人生を送ってやる』と言われたそうよ」

「でも、怪しいと思わなかったのかい?」

「最初は怪しいと思いました。でも、その人の話を聞いていると本当だと考え、こうして今に至ったのです」


 それを聞いたシュテルは、自分の変身する前を思い出した。どうして、疑わずに受け入れたのだろうと。しかし、結界オーライだったので良しとした。


「ところで、君達の本名を聞いていなかったな……カリーヌ、君の本名を聞かせてくれないかい?」

「まず、君の本名を名乗るのが礼儀じゃない?」

 カリーヌは、首をちょこっと傾げて言った。


「ごめん。僕の本名は、中山隆って言うのだ」

「中山隆って言うんだ。分かったわ。じゃぁ、言うね! 私の本名は、田中愛」

「田中愛。そして、マイケル。君の本名は?」

「はい、僕の本名は山内正と言います」

「山内正か」

「はい。あ! もちろん、我々の正体は内緒ですよ?」

 マイケルは、左手の人差し指を立てながら口に当ててシュテルに向けてウィンクした。


「もちろんだ」

「さて、秋山ちゃん。君を今から変身させるのだけど、心の準備は?」

「はい。ですが、変身した後、他の生徒達に不審に思われないでしょうか?」

「大丈夫よ! 変身すると、生徒には生まれ変わった君とグループ会社の存在が生まれ、君に関する記憶が書き換えられるから大丈夫だよ」

「そうですか! なら、安心しました!」

 秋山が安心して笑顔を見せると、ベランダからシュテルを変身させた男が現れた。


「貴方! どこから入って!」

「良いじゃないか、シュテル君。どこから入ったって、問題ないだろう?」

「いや、問題あると思う」 

 シュテルはツッコミを入れたが無視された。男は秋山へ近づいていく。


「君が秋山奈々君かね?」

「はい。それと、あの中年の方は?」

「彼なら、アーサー島のカジノへ稼ぎ行ったよ」

「カジノ?」

「そうだよ、シュテル君。彼はかなりのギャンブラーでなかなか止められないんだよ。全く、困ったもんだ」

「そいつ、かなりのギャンブル依存症ね」

「あぁ、カリーヌ君。近いうちには、カジノに出入り禁止にして貰うようにお願いする予定だ」

 青スーツの男は呆れているような顔を見せた。  


「今から、彼女を変身させるんだね?」

「そうだが?」

「要するに、『契約』ってことだね?」

「そう言うことだ」

「貴方、それでは何故僕達を選んだ? そして、貴方達の正体と目的は?」

「……その質問は、彼女を変身させてから、ゆっくりソファーに掛けて君の質問に答えてあげるよ。安心しろ。男に二言は無い」


 男は秋山に近づき下着姿になるように指示した。次にカリーヌに部屋の入り口のドアロック、マイケルとシュテルには、全ての窓をロックし、カーテンを閉める指示を出した。

 全ての確認を終え、秋山に目をやる。

 彼女の体型は、ブヨブヨの脂肪がまとわりつき、お腹、二の腕などが、はみ出ていた。 

「でも、下着姿はダメじゃないか? なんか可哀そうだし」

「そうだね。でも、彼女に変身したという実感を味わってほしいんだ。とにかく、例の薬を」

(貴方が下着姿を見たいからじゃないか?)


 シュテルは、バックから液体が入った注射器を取り出し、彼女の二の腕に刺した。青スーツの男に聞いてみると、この薬は促進剤らしい。

 そして、男が中山をシュテルに変身させた時と同じように唱え始めた。


「あーー!」 

 すると、秋山は苦しみながら前かがみになる。

「シュテル君、私とマイケルもあんな感じだったんだよ?」

「僕も分かるよ。カリーヌ」


 すると、彼女の体から黄色のオーラを立ち上って変化し始めた。

 脂肪が付きまくった体はみるみる痩せていき、括れが出現。太い腕と脚は華奢なものに変わり、豚のような手足の指は細くなる。

 さらに、ある程度の余分の脂肪は尻と胸に集まり、胸はカリーヌに負けないほどの大きさになる。 

 顔も美人になっていき、声はカリーヌと互角ぐらい可愛らしくなり、髪の毛は栗色に変色。カリーヌと同じ髪型になった。

 変身が終わると、黄色のオーラが消えて、秋山は息切れした。

「秋山君、大丈夫かね?」

「だ、だ、大丈夫です」

 シュテルは秋山を支えながら、鏡の前へ立たせる。

 すると、生まれ変わった姿に大いに喜び、特に胸を触りながら幸せの表情に浮かべた。

 

 男は、彼女に三つの《設定》を教えた。

 一つ目は、名前がエリー・キャロルという名前で、アミューズメント業界の大金持ちという存在し無いはずのご令嬢であること。

 二つ目は、シュテルに説明したときと同じ。

 三つ目は、シュテルら三人と幼なじみで、マイケルが彼氏。周りの人から信頼されている。さらに知能と身体能力を格段に上げて、精神と性格を元気かつ意地悪な部分があるものに変えたということだ。


「エリー、おめでとう。これからよろしくね」

「エリー、女同士仲良くしよね」

「エリーさん、彼氏として貴方を守りますのでよろしくお願いします」

「皆、ありがとう!」

 笑いながら涙を流して三人の顔を見た。

「さぁ、貴方。約束通り話してもらうよ」

「もちろんだ。君たち、座りたまえ」

 男とシュテルたちはソファーに座った。 








 

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