第十九話 一人の少年

 シュテル達が、訓練を再開しようとしているその頃、ルビーとシトリンに見守られながら、ベッドの上で下着姿のアメジストが至る所に包帯を巻かれて横になっている。

 この学園都市のから入れるアジトで、彼女たちは今後の方針等を決める。


 中でも、この部屋は幹部専用のリビングで、構成員は絶対に入ることが許されない。の遊びとくつろぎの場所で、高級な家具と家電、棚に大量に並べられたお酒、ダーツとビリヤードが置かれている。

 今、この組織に雇われている女の医者がアメジストの治療を終えたところである。

 アーサーから任務で出ていたサファイア、エメラルド、アクアマリンは、アメジストが重傷を負ったと知り、任務を終わらせ早急に駆けつけている

 

 四十分後、サファイアら三人が到着し、勢いよく扉を開ける。

「アメジストが、やられたと聞きましたが!?」 

「えぇ、そうよ。アメジストが、手始めに財閥プラチナの二人を暗殺しようと仕掛けたけど、返り討ちされたのよ!」

「そ、そんな! ……その二人! 許せないね!」

 エメラルドが、手に力を込めて怒りを露わにした。


 アクアマリンが、その女医者にアメジストの容態を尋ねる。


「先生、彼女の容態は?」

「脚に受けた弾の除去と腹の刺し傷を治療して消毒し、多めに包帯を巻いておきました。しかし、槍が刺さった腹の傷が思いの外深く、完治するには二週間かかるのでしょう。しばらく安静にしておく必要があります。」

「そうか」

「アメジスト、貴方が殺そうした財閥プラチナは、どんな奴らですか?」

「わたくしが、殺そうとしたのは、黒髪に緑の瞳の生徒と銀髪で青の瞳をした生徒ですわ」

「そうですか。その二人ですね、分かりました」

彼女達が、こうやって話していると…


「ただいまー!」

「あら!? 幸樹! お帰りなさい!」

シトリンが笑顔で、幸樹と呼ばれた少年に言った。


 幸樹と呼ばれた彼は、小学二年生の少年で、九州にある孤児院にて彼女達が引き取り、育て上げている。

 彼を不幸にさせない為に、構成員とを親役として戸籍を偽造した。

 すると、幸樹がアメジストを見て驚き彼女の元へ向かう。


「アメジスト姉さん! どうしたの!? その怪我!?」

「ご、ごめんね……姉さん、ある二人をやっつけようとしたけど、返り討ちにされちゃった」

 アメジストは優しい表情で、心配そうな顔をしている幸樹の頭を穏やかに撫でた。


「そ、そんな……可哀想に。アメジスト姉さんをいじめた、その二人、僕がやっつけてやるよ!」

「ウフフ……そう、ありがとう」

「で? その二人ってどんな奴なの?」

 幸樹の問いにルビーがしゃがんで、幸樹に答える。

「黒髪に緑の瞳の奴と銀髪で青の瞳にした奴にアメジストは、やられたのよ」

「え!? もしかして!?」 

「ん? 「もしかして!?」って何ですか? 間違っても良いので言ってください」

「うん」

 幸樹は、サファイアの問いに、自分が思ったことを言った。

「アメジスト姉さん、その緑の瞳の奴って敬語で言わなかった?」

「え? そうだけど?」

「それと、その青の瞳の奴って、王子様みたいな風貌じゃなかった?」

「え? それも、そうだけど?」

「幸樹、君は、何かその二人のことを知っているの?」

「うん、エメラルド姉さん。多分だけど……」


 幸樹は、その思いつく二人の名前を言った。


「僕の間違いが無ければ緑の瞳の奴は、マイケル・ルインでワイン製造業を中心としたルイン家の御曹司。青の瞳の奴は、シュテル・アルフォードで私立騎士育成学園の創設者の曾孫だと思う」


 彼の発言にサファイア達は、真剣な表情になる。 


「マイケルですか……確か、そいつは、敬語しか話せない奴で天然な性格の持ち主でしたね」

「オマケに、シュテル・アルフォードの名前は、聞いたことがある。特に財閥プラチナの女子の奴らが、「創業者の曾孫のイケメンが来た」とかで、キャーキャーっと黄色い声をしていたのを聞いたことがあるな」

「それに、そのシュテルって奴? 確か、副学園長の娘のカリーヌと付き合っているって奴らの中では、有名になっているそうよ」

「さらに、シュテルとマイケルは、時々遊びに行ったりして親友関係になってるしね」

「森本の奴、何でシュテルの特徴を教えなかったのよ?」

 

 すると、それを聞いたアメジストが不気味な笑みを浮かべて起き上がる。

 幸樹と女医者は、まだ「動いたらダメ」と注意するが、アメジストは、「激しく動かないから」と言い返す。


「まさか、ワイン製造業の御曹司と創業者の曾孫だったとはね……その二人、中々の強さだと聞いてたわ……まさか、わたくしが狙っていたその二人に当たるとは、もっと本気出したら良かったわ」

「サファイア、因みにだけど、そいつらは、今どこにいる?」

「さぁ?」

「わたくしの記憶に間違い無ければ、大きな道具などが入ったバッグを掛けていたわ」

「サファイア、この五月に大きなバックということは!?」

「軽井沢で行われる射撃特別訓練合宿ですね」


 それを聞いたルビーは、扉のほうに向かうが、エメラルドが慌てて止めに入る。


「ちょっと! 何処に行くの!?」

「決まってるんじゃない! アメジストをこんな目に遭わせた二人にをしに行くのよ!」

「だからって! あいつらは、まだまだ始めたばっかりだから、すぐには逃げないよ!」

「何だとぉ!? エメラルド! 仲間が重傷になってるのに、許すのかぁぁ!?」

「落ち着いて! 君は、この島で、有名企業と徹夜ので疲れているんでしょう!? 今、そんな疲れた状態じゃ返り討ちにされるよ!」

「……」


 ルビーは、エメラルドの言葉を聞き落ち着いた。

 確かに、スポーツの試合でも同じで、勝利するにはコンディションを整えるのが社会人としての基本。

 悪いコンディションのままで試合に臨めば、失敗するのが目に見えている。

 落ち着いたルビーは、エメラルドに謝罪した。


「ごめん、熱くなりすぎたわ」

「うんうん、気にしないで! 分かってくれて嬉しいよ! とりあえず、明日の9時から出発しよう。それで、私と共に仕返しすれば良いよ! いいよね? サファイア」

「構いません、ルビー、エメラルド。明日、軽井沢に行き、その二人にを下しなさい」

「ありがとう、サファイア」

「オマケに、その二人は影響力が強いからね。特に、創業者の曾孫を消せば一気に加速するわ」


 ルビーが興奮しているとき、シトリンは幸樹にこんなことを言った。


「幸樹、テストは、どうだった?」

「うん! 中々良かったよ!」

 幸樹はカバンからテスト用紙を取り出してアメジストとシトリンに見せた。

「あら! 凄いわ!」

「中々、大したもんよ!」

 百点満点だった幸樹を、二人は大いに褒めた。

 すると、シトリンが幸樹の顔に近づけこんなことを囁いた。

「よし、満点取った幸樹には、私とアクアマリンが褒美を上げるわ!」

 それを聞いた幸樹は、顔を赤くして唾を飲み込む。彼には、何の事か分かっているようだ。


「幸樹、何の事か分かっているな?」

「き、き、きききき! だよね?」

「そうよ? こんなスタイル抜群の姉さん二人から男の幸樹にとって、よ」

「さぁ、例の部屋に行くか」

「う、うううん!」

 

 アクアマリンとシトリンは、幸樹を連れてをするためへ向かう。

 そして、この部屋を出る時、ルビーが……


「幸樹、あたしとエメラルドが仕事終わったら、今度は、あたしら二人がしてあげるから。そして、アメジストが完治したら最後にサファイアとアメジストがことしてあげるから」

「うん!」

 彼女達は、顔を赤める幸樹を見て、微笑んだ。

 

「エメラルド姉さん! ルビー姉さん! そいつらをやっつけてね!」

「もちろんよ! あたしとエメラルドに任せなさい!」

 自信満々の表情を浮かべるルビーは、幸樹を見送った後、シュテルとマイケルに復讐するための準備を始めた。

 

 

 







 

 



 








 

 

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