第十八話 騎士庁の黒い噂

 一人の騎士が鐘を鳴らし訓練合宿がスタートする。

 午前は、正確射撃訓練。五十メートル離れたところに現れる標的へ次々と当てていき、制限時間三分でより多くかつ正確に射撃していく。

 現れた敵を瞬時に判断し、撃たれる前に迅速に倒す癖をつけ、どの敵を優先して倒すのかという瞬間判断力を身につけられる。


 三分ごとにそれぞれの生徒に付いている騎士達が評価して、一ラウンド三分ごとにスコア表へ記入する。

 正しい姿勢、射撃速度、優先する敵を間違って無いかがそれぞれ十点、撃破した数が二十点の、計五十点満点で採点をする。 

 騎士達は、担当している生徒が三ラウンドを終えると改善すべき点の手本を見せ、生徒達がそれを意識しながらやる仕組みになっている。


 財閥階級プラチナランクの平均点は三十八点。谷村は四十六点だったが、カリーヌとマイケルとシュテルは、ほぼ満点の四十九点であった。彼らを担当している騎士三人は、あまりの好成績に驚きを隠せなかった。


「凄いよ! シュテル君! こんな成績を築くなんて! 君、大したもんだ!」

「アハハ、ありがとうございます!」

(まぁ、これは、奴からの力だけどね……)


 カリーヌ君! もう、言葉が出ないよ! これほどの力を怠らずに、積み上げていけば、君の聖石せいせきは、格段と偉大な物になるよ!」

「まぁね! 頑張ってみるわ!」

 カリーヌが、鼻を高くしているのを見たシュテルは、(あんまり油断するなよ)と心の中で思った。


「マイケル君、この好成績が君を含めて三人も出るとはな……長い間教えてきたが、こんな展開は初めてだよ」

「ありがとうございます」

 マイケルが、静かに礼をしながら言った。

 

 他の生徒は、シュテルら三人を羨望の眼差しで見ていた。

「すげぇー! まじかよ!?」

「カリーヌちゃん! さっすが!」

「シュテル君! マイケル君! 素敵ー!」

「くそ! 俺の実力と交換してくれないかな?」

 賞賛する彼らにラウンズワンは、「こら! 集中しろ!」と一喝し、訓練を再開させた。


 一方で、平均点が四十五点と好成績の谷村は、賞賛されないどころか、無視されている。

 彼は、思わず舌打ちする。


「けっ! あいつらだけを褒めるのかよ! ここの連中は」

「まぁまぁ! 谷村君、落ち着きなさい。確かに悔しいかもしれんが、こんなことを気にしたら訓練にならないよ? さぁ、気を取り直して!」

「はいはい!」

 谷村に着いている騎士は、彼を慰めて訓練に集中させた。


 騎士達は七十五分経つと生徒に銃器の安全確認をやらせて、休憩にとらせる。


 休憩に入り、生徒達はそれぞれ、外の空気を吸っている者、クラスメートと談笑する者、ジュースで一息つく者、一人でスマホいじっている者に分かれた。

 シュテル、カリーヌ、マイケルは、ベンチに座り会話をしていた。


「やれやれ、この訓練は、凄く精神を使うな」

「そうね、こんなの休憩無しでやってたら、倒れちゃうわ」

「そうですね」

 三人が、そうやって会話していると、谷村が近づいてきた。

 

「よぉ」

「……寛二君か、どうかしたのかい?」

は、気になるが……まぁ、良い。俺と談笑しないか?」

「僕は構わないが、カリーヌとマイケルは?」

「別に構わないわ」

「問題ありません、多く居れば会話も楽しくなりますので」

「そうか、ありがとうな」

 谷村は、彼らが座っているベンチの向かい側にあるベンチに相対するように座った。


 シュテルが口を開いた。


「しかし、あのアーサーラウンズのトップ2は、凄く教え方が上手かったな」

「そりゃ、そうだろう。あいつらだって、コネを使ってのし上がって来たんじゃない。実力があってこそ、あの地位に就いたんだ」

「え? 寛二はあの二人に会ったことがあるの?」

「まぁな、俺の親父が宝石の取引をしたときに、あの二人が客としてやってきた。それに、俺が小さい頃に会ってるからな」

「へぇ……じゃ、二人の本名は、知ってるのですか?」


 マイケルの問いに、谷村は、周りを見渡して確認をすると、三人に至近まで近づいて、小声で言った。


「あの二人から、「名前は漏らすな」って言われてるんだが、お前ら、絶対言いふらすなよ?」

「もちろんだよ」

「安心しなさい。約束は、守るから」

「そんなに、心配しなくても大丈夫ですよ」


 谷村は、それを聞いて安心し、二人の本名を言うことに。


「まず、ラウンズワンの本名は、有馬慎二と言ってな、この学校で首席で卒業したエリートだ」

「エリート!? 凄いわね!」

「まぁな。毎年首席で卒業した奴らは、おおかたラウンズツー以下の役職に就いている。首席でラウンズワンに就いたのは、彼が始めてだ」

「そうですか……。でも、過去の首席の人達は、何でラウンズワンに就けなかったのですか?」

 マイケルの問いに、谷村は、もう1回辺りを見渡しこう答えた。


「……志願らしい」

「え? 志願!? 自らでお願いしたのですか?」 

「あぁ。最初、奴らはラウンズワンに就く気満々でだったらしいが、仕事ぶりを間近で見ていると、ラウンズワンの仕事は難しく、自分の実力に全く合わないと気付いて、トップにラウンズツー以下の役職を志願するのだそうだ」

「ラウンズワンの仕事って、そんなに厳しいのかい?」

「まぁ、2とも言える役職だからな、他のアーサーラウンズを束ねたり、騎士達を徹底的に管理するなど、かなり忙しいらしい」

「首席で、卒業したからって良い思いするわけでは、無いのね」

「ふっ、そんなの何処だって同じさ」

 谷村は、少し微笑んで言った。


「それに、騎士庁にはがあるからな」

「ん? ?」

「あぁ、それはな」

 谷村が、口を開いた。


「お前ら、『聖女の騎士団』という犯罪組織を聞いたことがあるか?」

「いや、知らないな」

「そいつら、世界で暗躍する組織でな。構成員は全員若い女性で、CSMOシスモと始めとする秘密警察などが追っているが、それでも何も分かってない」

「ふーん……で? そいつらの目的は、何なの?」

「さぁな、そこのところは知らない」

「そう」


 続いてマイケルが、騎士庁と『聖女の騎士団』との繋がりについて尋ねる。

「寛二さん、早速何ですが、その騎士庁と組織との関係があるのですか?」

「あるさ、実は騎士庁が、そいつらに情報を流しているらしい」

「え!?」

「情報を流しているだと!? それは、大事件だぞ!?」

「人の平和を守る組織が、こんなことをするなんて」

 3人は、衝撃の余りに唖然としていた。


「その噂が立った理由というのが、CSMOシスモと騎士庁が、奴らのシノギを壊滅する作戦に打って出るのだが、何故か騎士庁の騎士がCSMOシスモに執拗に話しかけて来てな、仲間同士だから詳しい作戦情報を話すのだが、何故かシノギが消えていて必ず失敗するんだ」

「必ず失敗なら……これは、どう考えても情報を流しているとしか考えようが無いわね」

「そう、思うだろう? カリーヌ。しかも、で捜査しているんだぞ!? それなら、全ての作戦情報を知っている筈なのに、執拗に作戦情報について話しかけるなんておかしくないか?」

「確かに、それは、おかしいですね。もし、この噂が本当なら、彼らは彼女らに、確定した情報を与えるために、それが本当という確信を手に入れるために、執拗に話しかけたということになりますね」


 すると、シュテルがアーサーラウンズとの関連について尋ねる。

 

「今、この場所にいる二人を含めてアーサーラウンズも関与しているのか?」

「充分、関与していると見て間違い無いだろう。何せ、壊滅作戦の指揮官には、CSMOシスモの長官と騎士庁のラウンズワンが担当しているからな、ほぼ確実ともいえるだろう」

「はい! 休憩時間終了です! 訓練に素早く戻って下さい!」

 ラウンズツーが休憩終了の指示を出し、生徒達が訓練に戻る。

「ちっ! どうやら訓練再開するみたいだな。お前らと話して楽しかったよ。ありがとうな。あっ! 忘れるところだった。ラウンズツーの本名は、神崎透だ。」

「そうか。それと、こちらこそありがとう。とっても楽しかったよ」

「興味深い話を聞けたし良かったよ」

「ありがとうごさいました」

 互いに礼を言うと素早く訓練に戻った。


 

 








 



 




 



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