第十七話 訓練開始

 長い時間バスに揺れながら、海底トンネルを出ると目的地に到着した。財閥階級プラチナランクの生徒が降りると、数台のバスは彼らが宿泊するホテルへと向かう。

 必要な道具等を抜き出した荷物は全て、ホテルのスタッフがそれぞれの生徒達が泊まる部屋に運んでくれる。それを三時間以内に完了させなければならない。

 早速、生徒は男女に分かれて服を着替え、射撃訓練室へ向かう。


「ここが、騎士庁のエリートさんが腕を磨いているところか」

「そうみたいですね。やっぱり、何だか格が違いますね」

 このルームは、同時に百人まで射撃を行うことが可能で、高性能の的、一流のメンテナンス道具、銃などの品々をしっかり管理し、また清掃が行き届いている。

 生徒、担任と引率の教師達が待っていると、アーサーラウンズの二人とその部下達が騎士庁のメンバー専用の扉から姿を現す。


 一人は筋肉が盛り上がった茶髪の男性、もう一人が少し小柄な男性だ。

「どうも、俺は合宿中にお前達を教えるアーサーラウンズの一人、ラウンズワンという者だ。残念ながら本名は言えないがよろしく頼む。……おい!」

 ラウンズワンが、ボーッとしていたもう一人の男性の肩を叩くと、彼はようやく気付いた。

「おい、大丈夫なのかよ? あいつ?」

「よくアーサーラウンズになれたな」

 生徒達のヒソヒソ言われながらも、彼は自己紹介をする。

「す、すまない! 僕は、ラウンズツーと言う。一日早く一人前の騎士として育てる手伝いをするので、よろしく」

 二人が自己紹介した後、羽川が今日のスケジュールを説明する。


「さて、皆さん! 今日のスケジュールですが、午前中は標的に素早く当てる正確射撃訓練で、休憩を挟みながら。そして昼を挟んでからは、物陰を利用して効率の良いテクニックを身につける銃撃戦術向上訓練となっております! そして午後五時で、今日の日程は終了となります!」

「それでは、早速皆さん! 訓練を始めますので一組はここ。そして、二組は、右隣へ行って下さい! それでは、銃器を素早くスタンバイして下さい!」

 彼らが、早速訓練を始めようとすると……


「おい! 待てよ!」

 突然の怒号に彼らが声がした先を見てみると、入り口のところに数人の平民階級ペーパーランクがいた。 


 それを見た羽川は、不思議そうに彼らに話しかける。

「あら? ここは、貴方達の訓練でしたか? こんなところに居たら担任に怒られますよ?」

「羽川、喧嘩売ってるのか? 俺らのところを何とかして欲しいと思って代表して言いに来たんだよ!」

「はて? 別にそんなに悪い環境にした覚えは無いはずですけどねぇ? 貴方達を教える方達は、別に問題ない筈ですが?」

 羽川の返事に「だから、何だ? 自分さえ良ければどうでも良い! お前達が、どうなっても関係ない」と言いたいのだとそう彼らは感じたようだ。

 怒号をあげた平民階級ペーパーランクの生徒は、不満を羽川にぶつける!

「何が、「問題ない」だ? 問題だろうが! 銃器は、非常に壊れやすいものしか置いてねぇし、俺らのトレーニングは、ゴミが舞い上がるし、オマケにアンタが言ったその先生達、何か不自然かつおかしい教え方してんだぞ? そいつらに「ホントに騎士庁の人ですか?」と聞いたら、学園側が雇った日雇いの何も知らないド素人だと言ってたぞ!」

「はて? 日雇いなんて、そんなことをしませんけどねぇ?」

「なぁ、羽川よ」

「ん?」


 彼らは、羽川のところへと財閥階級プラチナランクの生徒達を押しのけながら、近づいた。


 財閥階級プラチナランクの生徒達は、触られた部分を櫛で払い流す。

 この光景を見たシュテルは怒りを覚えて殴ろうと思ったが、暴行罪になるため手を強く握ってグッと堪える。

 平民階級ペーパーランクの彼は、羽川に睨みつける。

「アンタ、そんなに平民俺らが、活躍されると嫌なのか?」

「どうして、嫌となるのですか? 別に、貴方達にも一人前の騎士なってほしいのですよ? 平等にしているのに、それを文句言うのは、おかしいのでは?」

「そうだ! そうだ!」

「いい加減、やめろ! 平民ペーパー!」

「とっとと、自分達のところに戻りなさいよ!」

 財閥階級プラチナランクの生徒達が、次々と羽川を擁護したり、彼らを非難する声が上がっていた。


 その時、我慢の限界に達した平民ペーパーは、近くに机に置いてある財閥階級プラチナランク専用の銃を取って、銃口を羽川の額に向ける。

 財閥階級プラチナランクの女子生徒が悲鳴を上げ、騎士庁の騎士達は、銃を構えて彼に向ける!

「あんまり、調子に乗るなよ! はがわぁ!」

「別に、調子に乗ってないのですが?」

「あぁ、そうかい! いいか? 俺達を何も抵抗出来ない連中だと思っているようだが、俺達の背後には、が付いてる! いざ、やろうと思えば貴様らは、悲劇が降りかかるからな!」

「……」

 羽川の涼しい顔に、彼は腹を立て引き金を引こうとするが、カリーヌが彼に警告する。

「あんた、辞めた方が良いと思うよ? 羽川先生を殺したら現行犯逮捕。そして、アンタ達の仲間も逮捕されるよ? それでも、良いの?」

 カリーヌの言葉に、ラウンズワンが続けて言う。

「君、今ここで殺害すれば君の人生は台無しになるどころか、家族にも迷惑がかかる。それに、もし兄弟、姉妹がいたらどうなる? 「殺人者の身内」などと言われイジメに遭うぞ? だから、ここは冷静になったらどうだ?」


 ラウンズワンの言葉に平民階級ペーパーランクの彼は、銃口を下げ元の場所へ置いた。

「お前達、武器を下ろせ」

「「「はい」」」

 ラウンズワンの命令に従い部下達は、武器を下ろした。 


 すると、平民階級ペーパーランクの彼は、最後に羽川を見ながらこう言った。

「羽川、良かったな! ラウンズ様に助けられて! 今回は、俺達が悪かった。だが、これだけは、覚えておけ。人を甘く見ないほうがいい。人っていうのは、いざとなったら、何するか分からないからな」 

 そう言ったあと、彼らは無言で立ち去っていく。 


「何、あいつら?」

「単に、文句言っただけ?」

「結局、何がしたいのだ?」

「挙げ句の果てに、先生に銃口を向けやがって」


 財閥階級プラチナランクの生徒は、平民階級ペーパーランクの悪口を次々と言った。それを羽川が黙らせる。

「はいはい! もう、静かにして! 終わったことだから! あの生徒さん達のことは忘れて、それぞれの組は、それぞれのシューティングルームに行きなさい!」

「では、皆さん! 今日一日を大事にしてしっかりと経験を身につけましょう! そうすることで、皆さんの体内に埋め込まれた聖石せいせきが育ち強くなるので頑張りましょう!」

 羽川とラウンズツーが、生徒に訓練開始の指示を出す。


 聖石せいせきとは、神聖な力が宿る鉱物のことで、入学式の直後に行われる『騎士の誓い』と呼ばれる儀式において、大勢の騎士庁の高位司祭によって、生徒の心臓に極秘の魔術で埋め込まれる。

 戦闘や訓練などを経験すると、埋め込まれた石が成長していき、能力の強化や新しい能力を得ることができる。さらに強化された若しくは得た能力を使い更に経験を積んでいくと聖石せいせきが更に成長してゆく。


 これを繰り返しすることによって、どんどん強くなっていく。

 ちなみに、この聖石せいせきは、にて、発掘されているのだが、正確な場所は騎士庁の極秘事項となっており、全く知られていない。

 さらに、これは本当かどうか分からないが、どんどん育て限界を超えると『覚醒』となり、不老になるという伝説が残されている。

 

 

 早速、財閥階級プラチナランクの生徒達は、それぞれのシューティングルームに入る。ちなみに、シュテル達は、一組のため、このシューティングルームで訓練を行う。

 今、この瞬間から大切な経験を積むことが出来る数日の射撃特別訓練合宿が始まった。


 

 

 

 




 

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