第十四話 謎の男からの任務

  朝日が間もなく差し込む頃に目覚まし時計が鳴り響く。

「うーん……起きるか」

  洗面台へ向かい顔を洗い身だしなみを整えた後、最後に鏡を見て確認すると、この脱衣場を出た。


 リビングに戻ると、玄関のインターホンが鳴る。扉を少し開けて見てみると、準備が整ったマイケルがいた。

「マイケルさん。おはようございます。いよいよ、射撃特別訓練合宿ですね」

「そうですね……何せこの島を出て軽井沢にある騎士庁専用射撃訓練場で数日のトレーニングをしますからね」

 射撃特別訓練合宿とは、毎年五月の行事である。ここでは、騎士庁のアーサーラウンズのメンバーの中から二人が選出され、その二人が率いる騎士達が生徒に射撃を指導する。

「あの、シュテルさん」

「ん?」

「敬語は、やめませんか? こうやって折角友達になれたのに、僕に対してタメ口で言ってください。僕は、元々敬語口調でしか喋れませんが……もう、柔らかくしましょう」

「……これで、良いのか? マイケル?」

「そうです! それ! 貴方らしいよりクールな印象を感じとれます!」

「アハハ! そうか、ありがとう!」


 その時、シュテルのスマホから電話の着信が鳴る。画面を見てみると『非通知』と表示されていた。それを見たとき誰なのか察知し、目を細くした。

「あら? シュテル、貴方の電話が鳴ってますよ?」

「あぁ! それ、多分新しく入った僕の傘下にあたる中流階級シルバーランクの生徒だよ!」

「あ、そうなんですか! しかし、こんな朝に何のようでしょうか?」

「すまない、マイケル。脱衣室で電話するからここで待ってくれないか?」

「はい、まだ一時間半ぐらい余裕がありますから、どうぞ」

 上手くごまかし脱衣場に入った。

 

 脱衣場に入ったシュテルは、ドアを完全に閉めて、電話に出る。

「もしもし」

〈やぁ、生まれ変わった人生を味わう気分は〉   

 非通知の電話相手は、彼をシュテル・アルフォードというイケメンに変身させてくれた謎の男だ。

「貴方か。まぁね、いろんな女の子からモテモテだし、同性からも信頼されているからな。オマケに、僕をいじめたカリーヌと楽しくお付き合いしているけどね」

〈アハハ! そりゃ良かった! 私の

「ん?」

〈いや、こっちの話だ〉

「そうか」

 シュテルは、単に様子を聞きたいだけだと思い、電話を切ろうする。すると……

〈ちょっと待て! まだ話がある。実は、君には褒美と私からのがある〉

「え? 褒美は、ともかく……とは、何だ?」

〈うむ、まず褒美だ。中山……いや、シュテル。バスタオルと入浴剤などが入っている棚があるだろ? その真ん中の引き出しを引いてくれ〉

 謎の男の指示に従って中段を開けると、銀色のアタッシュケースが置かれていて、中を見ると五千万円が入っていた。

「貴方! 一体、どうやってこんな大金を入れたのだ!?」

「シュテル? どうかしたのですか?」

「マイケル! 少し説教しただけだ」

「あ、そうですか」

 とっさの機転でマイケルをごまかし、シュテルは謎の男にもう一度尋ねた。

「貴方! 一体どうやってこんな大金を?」

〈昨日の夜、君が入浴している最中に私がこっそり忍び込んで入れて置いたのだよ〉

「人の部屋に勝手に侵入して入れたのかい?」 

〈そうだよ、アハハ!〉

 シュテルは、犯罪行為ともいえる行動する謎の男に思わずため息をついた。

 本来なら通報するのだが、生の現金を手にして見られたので黙っておくことにした。

「貴方、それなら僕に直接渡してくれたら良いじゃないか。別にこそこそしなくても」

〈そうもいかないんだよ。覚えてないか? について教えただろ? ちょっと完全じゃない人がいるって! 谷村寛二がな〉

「そうか! 確かに! 僕のことをホントにお金持ちか? 初めてのデートの日に玄関ホールで聞かれたからな」


 確かにそうだ。谷村寛二は、完全に影響を受けていないため、シュテルをホントに財閥階級プラチナランクの人間かつ創業者の曾孫なのかと疑っていた。

 もし、仮に二人が直接会って金を受け取る瞬間を谷村に見られたら、彼はシュテルとの関係、そして謎の男の事を調べられて、自分の正体を見破られる可能性がある。

 そうなると、は、出来ない。


 褒美についでの受け渡しと説明をした謎の男は、本題のについて説明することに。

〈では、早速本題に入るぞ〉

「あぁ、どんな内容だ?」

〈下段を開けたまえ〉

 シュテルは、下段の引き出しを開けると中に黄色の液体が入った注射器がある小さな箱と小さな茶色い紙袋があった。

 これを見た時、謎の男に向けて低い声でこう言った。

「……何だ、これは? まさか僕に殺しをやれでも言うのかい?」

〈ハハハ! 違うさ!〉

「じゃ、何だ?」

〈それはな、とある人物をさせてやすくして欲しい〉

 シュテルは、このの言葉を聞いた瞬間、の内容を理解した。

 すると、シュテルが焦りながらこんな疑問をぶつけた。

「ちょ、ちょっと待て! じゃ、僕をこんな美しい姿に変えるんなら、これで充分じゃないか! 何であんな事をしたのだ?」

〈君、話を聞いていなかったのかね? 私は『変身させやすくして欲しい』と言ったのだ。別にこの薬を使って変身させろとは言ってない〉

「そうか、すまなかった」

 シュテルが謝ると、さらにこんな疑問をぶつけてみた。

「それにどうして、その人物がを結ぶ必要がある? 何か理由があるのか?」

〈それは今日の夜、から説明を受けることになるよ?〉

「は?」

〈まぁ、とにかくその人物とは、その日の晩に泊まる財閥階級プラチナランク専用の客室七〇〇五号室に待ち合わせになっている。時刻は、二十時だ。遅れるなよ?〉

「そうか……って! だったら、僕の時に薬を使わなかったのだ? それに! おい! 返事……勝手に切ったな」

 シュテルは薬とについて聞こうとするが、謎の男が勝手に切ってしまった。 

 謎の男からのを任されたシュテルは、注射器と写真を取り出すと、ポケットに隠して出る。ちなみに大金については、という名目でそのままに置いておくことにした。


 脱衣場を出たシュテルは、平然を装って玄関で待っているマイケルに話し掛けることに。

「マイケル、待たせてごめんね」

「いえいえ! それにしても、長電話でしたね?」

「まぁな。物わかりが悪い奴だからさ。理解させるのに苦労したよ」

「そうですか、少しトイレを借りますよ」

「あぁ」

 彼がトイレに行った隙にシュテルは、ポケットから自分のバックに注射器と写真を入れ、何も不自然なところをないか確認し待った。

 マイケルがトイレを済ませ、二人は数日分の荷物が入った合宿バックを持った。

「さて、行きますか!」

「あぁ!」

 二人は、期待を胸に込めて外へと出た。

 







 









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