第八話 酒場の美女たち
夕方六時、森本たちはアクアマリンにあるコインロッカールーム前の廊下に着くと、掃除していた中年太りの清掃作業中の男性に森本がこんなことを尋ねる。
「お前の私服は、いくら入れた?」
「あぁ、青を五枚入れたよ」
「分かった。お前たち、帰っていいぞ」
「「「「「はい」」」」」
男の言葉を聞くと、五人の生徒を帰らせた。
ここのコインロッカールームは、赤、青、黄、緑、オレンジの5つのブロックに分かれている。各ブロックに千のロッカーがあり、
ロッカーの中を覗くと、一枚の紙とバーの紹介状があった。そこには、こう書かれていた。
『今夜七時、バー『マルクス』に紹介状を持っておいでください。そこで、貴方の報告を聞きます。サファイアより』
「さて、俺らの
五十分かけて、バー『マルクス』に到着した。早速店内に入ろうとすると、店員に呼び止められた。彼はシュテル、カリーヌと同じ十六歳だからだ。紹介状を見せ、サファイアが座っているカウンターに案内された。
「来ましたね。森本」
「あぁ、紙を見たのは、六時だから急いで来ないと思ってな。サファイア、あんたのような美女を待たせる訳にはいかないからな」
サファイアは、青い瞳に腰まで届く青の長髪、スタイル抜群で青いスーツを着た何処か冷たく感じられる美女だ。
「そうですか」
「で、他の五人は来るのか?」
「えぇ、『あの老猿を始末したからすぐ向かう』と二時間前に連絡が来ましたので、すぐに来るでしょう」
「そうか、こそこそやって無ければ、助かるのに…」
「森本。それより報告は?」
「あぁ」
茶色の封筒を開け資料を取り出し、サファイアに渡した。
「なるほど、私の読み通りでしたね」
「あぁ、まさかこんな害虫が紛れ込んでいたとはな……驚いたよ。どうする? サファイア?」
サファイアに尋ねると、誰かに肩を叩かれる。
「それ、私達にも見せてくれるかな?」
「!?……ったく! エメラルドか……驚かすなよ。それにルビーとシトリン、アメジスト、アクアマリンまで。敵に回したら俺は、殺されているだろな」
突如、森本の背後から現れた五人の美女。
森本の肩を叩いたエメラルドは、緑のシニヨンヘアーと瞳をしており、緑色のスーツを着ている。赤い長髪と瞳に赤のスーツは、ルビー。黄色の瞳とポニーテールヘアをしていて、黄色のスーツを着こなしているのがシトリン。
アメジストは、紫色のツインテールと瞳、紫色のスーツがシンボル。
最後にアクアマリンは、水色のハーフアップと瞳、水色のスーツが特徴だ。
エメラルドたちは、カウンター席に座った。
残りの五人に資料を渡している間、サファイアに尋ねる。
「で、そいつをどうするんだ? 始末するのか?」
「少し待って下さい」
左手の人差し指で額を触り、誰かと交信する。
「サファイアです。私が睨んだ人物の件ですが……森本が調べた結果、読み通りで、黒でした。どうしましょうか? はい、分かりました」
交信をやめると、一呼吸する。
(終わったな。人が死ぬ瞬間が見れるな)
森本は、下衆な笑みを浮かべていると、資料を見たルビーが言った。
「しかし、サファイア。よく気づいたわね。奴が害虫だと」
「何で教えてくれないの? 教えてくれば、私達が手伝って問題が早く消えたのに」
「アメジスト、全員に疑いがかかれば、奴が尻尾出さないでしょう。それなら、森本に内密に調べさせれば油断させられますから」
「
「ルビー、信用出来ないと言いましたか?」
その様子を見てシトリンが仲裁に入る。
「まぁまぁ! サファイア、ルビー。喧嘩しないで!今は、そんな事をしている場合じゃないでしょ」
「ふん!」
「アクアマリン」
サファイアに呼ばれたアクアマリンは、部下と思われる人物と交信する。
「アクアマリンだ。トラップ魔術を仕掛けろ。……あぁそうだ。三十秒でやれ」
アクアマリンは、電話を切ると、エメラルドが気配を察知する。
「おや? 来たのかな?」
「すみません店長! 遅くなって!」
「気にして無いよ。今日は、暇だからさ」
店に入って来たのは、バー『マルクス』のバイトである斉藤だ。四十歳の男性で七時に仕事を始めるのだが、親の体調不良で遅れることになった。
「どうだい? 親御さんは?」
「重症では無いですが、とりあえず処方箋を渡されて『一週間安静にして下さい』と言われました」
「そうかい。それは、よかった」
「斉藤」
サファイアが人差し指で机を軽く叩いた。
「分かってます。サファイア様」
斉藤は、森本と同じ色の封筒を彼女に渡した。それは、とある組織に入るメンバーの名簿だった。
「なるほど、五百名ですか」
「えぇ、それに三ページの七行目の人物。超一流大学を卒業したエリート中のエリートでしてね。最重要警戒人物です。もしかしたら、壊滅させる獅子になる恐れがあります」
「それは、一刻も早く消さなくてはならないね」
「えぇ、エメラルド様」
「良くやったぞ。斉藤」
「ありがとうございます。アクアマリン様」
「斉藤、約束の報酬よ」
シトリンは、報酬として日本円で500万円の現金が入った封筒を渡した。
「確認させて貰いますよ」
「勝手にしなさい」
「ルビー様、そんな言い方しなくても…」
(なんだろう。こいつのお金を数える顔がすごく面白いな)
森本は、封筒に入っている金額を確かめる彼を見て、ニヤニヤしていた。
「確かに五百万ありますね」
「斉藤、スクリュードライバーをお願いします」
「分かりました」
「あたしは、ラム」
と五名それぞれが頼んだ酒をグラスに注いだ。
七時半、店の外では雨が降り始める。何かの終わりを告げるように……
「そうですか、森本様。それは、よかったですね」
「あぁ、プラス三万だがな」
斉藤は、グラスを洗いながら次の仕事についてルビーに尋ねる。
「サファイア様、次の仕事は何でしょう?」
「次の仕事ですか?」
「えぇ、次の仕事を事前に知っておかないと。で? 次の仕事は何ですか? また、名簿ですか? それか、ブツの取引ですか?」
サファイアに仕事について尋ねる。すると、ルビーがこんな事を言った。
「じゃ、あたしから特別な仕事を頼もうかしら」
「はい、ルビー様。何でしょう?」
「実は、あたしらの組織の事を調べて潜伏している害虫がいてね、そいつを始末して欲しいんだけど、やってくれるかしら?」
斉藤に威圧感がある赤い瞳で見つめる。
「そ、そうですか。分かりました。お任せ下さい。で? その害虫の情報は、あるのですか?」
「えぇ、分かってることがあってね。性別は男性、四十代で、三か月前から入り込んだしか分かってないわ」
「そうですか。全くそいつは、とんだ野郎ですね。分かりました。判明次第始末します」
「ちゃんとあたしらに報告するのよ」
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