第二話 突きつけられた現実
「はぁ……だるいな」
中山は体に鞭を打って、早歩きで学校へ向かう。
ちなみに、彼が住んでいるのは、ペーパーと呼ばれる社会的階級の中で一番下の平民階級が住むエリアである。小屋のような住居が建ち並び、それぞれの部屋には隙間があったりガラスにヒビが入っていたり台所が古臭かったりなど、住むにはふさわしくない環境だった。
そのため、それぞれの生徒は、段ボールや新聞紙などで隙間を塞ぐなどの対策をしている。それに、無数のカラスが屋根の上で鳴いている。
「それにしても、カラスはうるさいな! ゴミが散乱しているし、糞も落ちている……ったく!」
不満を口に出しながら出入口になっている階段を上り、共通エリアに入った。
共通エリアとは、全ての階級が進入可能なエリアとして整備され、つねに清潔にされており、ショップが建ち並んでいる。しかし、ある特定以上の階級の人しか入れない店がほとんどのため、
そのため、店に入れない生徒たちはランクエリアにある質の悪い店を利用するしかない。長距離移動魔術は存在するのだが、
中山は、共通エリアの北東部に位置する私立騎士団育成学園アルフォードに着き、玄関を通って、自分の教室に向かおうとすると……
「おい! デブ!」
「何のご用ですか? カリーヌさん?」
声のした方向へ振り向くと、赤ツインテールにピンクの瞳の巨乳美少女が目に映ると少しため息を吐いた。
彼女の名は、カリーヌ・マルース。名門財閥のマルース家のご令嬢で俺をいじめる大嫌いな生徒だ。
「あんた、何処に行こうとしているのよ? そっちは、あたしのような綺麗かつ知能の高い貴族様が入るプラチナスクール。どうして、勝手に入ろうとしているのよ?」
「間違えただけだよ! 悪いかぁ!?」
カリーヌの上から目線の発言に、眉を吊り上げて激怒した。
「なに、キレているのよ? あんた、周りから笑われていることが、分からないの?」
「なんだと!?」
「あーあ! 怖い怖い! これだから
「てめぇー!」
中山は、怒りに身を任せて、こいつの顔面を殴ろとするが……
「いいの? 私のお父様は、学園関係者だよ? 問題を起こせば、あんたの人生はおしまい。それとも、汚い水でも飲ませてやろうか?」
入学当初から彼女に汚い水を飲まされたり、火の魔術でバーベキューにされそうになるなど散々な目に遭ってきた。しかも、彼女の父は、学園関係者。問題を起こせば、負けるのは目に見えている。
忠告を聞いた中山は、殴りたい気持ちを抑え、正しい教室へと向かう。
「おはよう、みんな」
授業中のクラスルームに入ると、クラスメイトからの白い目を向けられていた。席に着くと、先生から質問を投げかけられる。
「中山、お前謝るつもりはないのか?」
「えっ? どうしてですか? 別に問題を起こしてないでしょう?」
彼の返答に拳を震わせながら先生は、
「なかやまぁ! お前は、廊下に立ってろ!」
先生によって、廊下に立たされ、今じゃ古い、水が入ったバケツを持たされるはめになった。
学園では、体内に埋め込まれた聖石を育てて自らを強くし、かつテクニックを学ぶ
一時間目のスタートは、八時十分。一日の授業数は七つで、一つの授業時間は七十分。授業の間に十分の時間がとってあり、昼休み一時間目を含めて終了が夜の六時十分となる。
「あーあ! つまんねぇーの。卒業まで後二週。グヘヘ! 騎士庁でトップクラスのランクであるアーサーラウンズの一員としてつけるかもな」
放課後、期待を胸に抱きながら自分が住んでいるエリアへ向かっていると……
「残念だけど、そうはいきませーん!」
「おい、カリーヌ! 何しに来たんだ!」
帰る道先に居たのは、中山への騎士庁配属査定書を持った、侮辱の笑みが浮かぶカリーヌだった。
「これから、あんたが配属される騎士庁の部署の知らせを持ってきて上げたのよ。このカリーヌ様が」
「あぁん!?」
中山は、カリーヌから乱暴に取って査定書の内容を見た。
査定書とは、四年間の成績に応じて、騎士庁のどの部署に配属されるか、本人に卒業の二週間前の時点で通達する書類。騎士庁とは、警察よりも高い捜査権限を持ち、警察に命令できる治安組織である。
ちなみに、アーサーラウンズとは、騎士庁の八人で構成されるナンバー2集団。警察の人事を行えたり、政治の介入へしたりなどが出来る、第三者からしたら絶対に許されない役職である。
査定書の内容を見ると、【中山隆殿、最悪な成績により騎士庁雑用係を命じる。】であった。
カリーヌは、彼の絶望の表情を見て笑いながら、書類を取り上げられた左手を近くの水道で洗うという差別行為をしていた。
「残念でした! ちなみに私は、アーサーラウンズの一員として入ることになるわ! あんたは、何のために四年間やっていたの? まぁ、金でしょうけど? せいぜい頑張りなさい」
カリーヌは、笑いながら自分が住んでる財閥階級のランクエリアに帰っていく。
確かに彼女の言うとおりだ。金が沢山貰えるという甘い考えで騎士に憧れ、だらだらと自堕落な学園生活を四年間やってきたのだ。絶対にアーサーラウンズという偉い地位に就けるわけが無い。そんなことに気づかず卒業二週間前になってから、やっと自覚するという哀れな末路だった。
絶望に襲われた中山は、四つんばいになって涙を流した。
「どうして、俺はこんな甘い考えをしていたかな? そうだな……こんな才能が無い醜い
泣いているとそこに誰かがやってきた。見上げると靴に青いスラックス、白いシャツに青いネクタイを締め、ベストを着て帽子をかぶった四十代の男性だった。
「君、結構泣いているね」
「そりゃそうだろ! 見て分からないか!?」
「では、君に最高の
「えぇ?」
「今日の深夜、この場所で待っている」
男は、待ち合わせ場所の書かれた地図を渡して立ち去った。
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