第36話 『交響曲第1番・第2番』 メユール

 フランス革命期には、芸術音楽はいささか停滞気味だったらしいフランスですが、そんな中で気を吐いていたのがメユールさま。(1763~1809)


 もともと、貧困家庭から身を起こしたと言う方ですが、まずこの『第1交響曲』は、突然上司に呼ばれたその瞬間から、大声で怒鳴り付けられたような衝撃が走る音楽。


 なぜ、自分に向かってこのような怒りが炸裂しているのか、まったく理解さえできないような状況です。


 この猛烈な激情は、モーツアルト先生の二つある『ト短調交響曲』などの影響と言うよりは、べートーヴェン先生の、権力者に突き付けた人民の怒りに通じるもののような、感じがします(あくまで感じですから、感じ!)


 実際、第4楽章には、例の『じゃじゃじゃじゃーん』のモティ-フがしつこく現れます。


 ただし、メユール先生が、べー先生の『第5交響曲』を、すでに知っていたのかどうかはわかりません。


 この『第1番』は、1808年から09年に掛けて作曲されたらしくて、一方べー先生の『第5番』は、1805年から08年に掛けて作曲され、1808年の12月22日に初演されています。


 知っていた可能性もあります。


 しかしながら、そうは言っても、次の『第2番』もそうですが、このメユール様の個性はおそらく独自のもので、聴いてる側を、なんだかものすごく真剣にさせます。


 音楽が中だるみにならず、最後まで緊張感を維持し続けます。


 これは、なかなかすごいことです。


 ただ、ベルリオーズ様の『幻想交響曲』(1830)につながる流れではなくて、むしろ、スウェーデン孤高の作曲家、フランツ・ベルワルドさま(1796~1868)の、当時異端の交響曲を思わせるものがあります。


 特にフランス的というわけではなく、すぐに大衆的人気を博する音楽ではないかも知れないけど、捨て置けない、すぐれた遺産だと思います。 はい。


 上司の顔は、あまり思い出したくないとしても。

 






 


 


 



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