第22話 『ピアノ協奏曲』 ナタナエル・べリ

 ナタナエル・ベリ先生(1879~1957)は、スウェーデンの作曲家。


 この曲は、傑作です。


 大変厳しい精神に裏打ちされた、なかなか緊張感溢れる音楽。


 作曲家さまは、新しいピアノ協奏曲などを書こうとすると、その始まりをどうすのかで、相当苦悩するものだそうであります。


 ここも、さんざん考え抜いた末に創り出したものじゃあないかと思うのです。


 弦楽合奏が、長~~い攻撃的な音を続ける中で、やがてファンファーレが現れ、フル・オーケストラの強奏となり、一瞬止まったところから、独奏ピアノが現れます。


 大変シリアスで、なにかに抗するかのように高い志をけっしてくずしません。


 全5楽章の、割と大きな構成です。


 第1楽章の後半部分に至って聴かれる、激しくも高揚した音楽は、とても感動的です。


 二つのアンダンテをはさんで、終楽章になるのですが、ロマンティックであることは、確かにそうなんですが、いささか、そこで輝くお星さまの姿も、かちっと凍り付いてしまったような面持があり、あまり、じゅわじゅわ音楽ではありません。


 でも、これはまた、不思議と魅力的。


 そうなんですよね、『おわ~、すごい~!』という感じの強力な旋律が現れるわけではないけれど、それ以上に、強くせまってくるものがとても大きくて、ぐぐっと追い込まれてしまいます。


 やはりこれは、傑作でしょう。


 第4楽章のお終いの方に現れるカデンツァに当たる部分なんですが、なんだか、べー先生の第9交響曲の歓喜の歌をもじって、短調にアレンジしたみたいなものが出て来ます。


 これは、いったいなんだろう?


 作曲されたのは、1931年。1929年にニューヨークで株価の大暴落。1931年、満州事変。1933年、ヒットラーが首相就任。


 なんだか、暗雲が世界を包み込む時期です。


 この緊張感は、そこらあたりと関係があるのかどうかは、わかりません。


 終楽章の最後は、まるで、まるで小さな竜巻が細かく回る様に、くるくるっとして、突然消えてしまいます。前半の盛り上がりから言っても、なんだか変。


 まだまだ、聞きどころ満載のなかなか奥の深い曲と見ました。


 * CDは、スウェーデンのスターリングから、CDS-1019-2です。

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