第15話 『弦楽四重奏曲「親しい声」』 シベリウス

 シベ先生は、プロデビューする前には、かなりたくさんの室内楽を書いておりますが、プロとして独立して以降は、あまりこの方向には向きませんでした。


 そのなかで、『シベリウス印』が付くようになった以降に書いた、ほぼ唯一の室内楽での大物が、この作品です。伝統的な作品番号は56です。


 冒頭の第1ヴァイオリンとチェロが呼び交わす音型が、この名称の由来になっているようです。


 最近出たばかりの、神部 智さま著の「シベリウス」(2017、音楽の友社)でも、この作品を「世紀転換点のそれを代表する重要な作品」と位置付けて、高く評価なさっています。


 この対話は、冒頭から8小節続き、9小節目からは全楽器による合奏になります。


 全体は5楽章構成で、なかなか大規模で、しかし、いかにもシベ先生らしい凝縮された濃密な世界を描きだしております。


 やましんは、高校生時代に、図書館で『巌本真理弦楽四重奏団』の演奏をLPで聞いて感動しました。とくに第4楽章の盛り上がり方が大好きで、ものすごい迫力と気合いと気迫に満ちております。

 何となく冷めた最近の世の中では、あまり見なくなった情熱です。

 

 これに勝る録音は、今日まで聞いたことがありません。(主観です)


 ところが、このレコード自体、学生時代に買いそびれて以来、なかなか手に入らなくなってしまい、CD発売時も、気が付いて注文した時には、すでに売り切れだったのか、運が良くなかったのか入手できず、その後も雑誌の広告でみつけても、あまりに高額で、うっかり手が出せなかったりと、なにか、いじいじ状態が続きましたので、ありますのですが、55歳もとっくに超えようと言うころになって、やっとこさCDとLPをほぼ同時期に見つけ出して(もちろん中古)買い入れました。


 なんだか、30年は探し回った挙句のことで、また体調がおかしくなる時期と重なってきたこともあり、「やたー!もう思い残すことはない・・・この世に未練なんかないわ~・・」とか、逆に切れてしまった感じもありましたけれども。


 しかし、他の演奏ならば、入手は簡単だったのか? というと、意外とそうでもなくて、この曲の新品CDなどが、すいすと手に入る世になったのは、やはり、ネット通販が活発になった後くらいからです。


 それまでは、大方、中古店さまのお世話になっておりました。


 つまり、世間的には、あまり需要がなかったということだったのでしょう。


 しかし!


 いつも申しますが、それでは、あまりにも、勿体ない。


 よい音楽なのです。


 ドビュ先生やラヴェル先生の「弦楽四重奏曲」に勝るとも劣らない、名曲であります。


 もう少し、有名になって欲しいなあ、とも、思うのです。


 ただ、シベ先生のこの音楽は、あまり大衆的な受けを狙ったアピールはしないので、いくらか北欧的に地味ではありますが、内部で燃え上がる情熱は熱い!


 機会を見て、ぜひどうぞ。






 



 



  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る