第8話 『交響曲 画家マティス』 ヒンデミット

 これは、アンリ・マティスさまのことではなくて、16世紀に活躍したドイツの画家さんのことだとか。


 この作品をめぐっては、大指揮者フルトヴェングラー様と当時のベルリンフィルが初演し、大変好評だったのにもかかわらず、ヒンデミットさんは、ユダヤ人音楽家とも仲良くしているとか、この音楽(本体は歌劇)も、反体制的、と見做したナチスさんが、ヒンデミットさんの排斥を行おうとし、それに断固反対したフルヴェンさまといざこざとなった『ヒンデミット事件』が起こりました。


 権力が芸術分野に直接介入した、たぶん代表例です。


 まあ、ドイツまで行かなくとも、足元のこの国でも、あったようですが。


 ただ、その時の芸術家、その他の人たちの対応は、かならずしも簡単に、いま批判だけして、はい、お終いというのは、どうか、という意見だってたくさんあると思います。


 うっかり抵抗したら、自分だけではなく、家族だって命が危なかった時代に、いったい他に、どういう方法があったのか?


 超・超有名人だった、フルヴェン先生でさえ、一歩間違えば危なかったはずです。


 事実上、抵抗した人も、いたでしょう。

 殺された方も。

 脱出した方も。

 脱出したくても、出来なかった方も。


 抵抗できなかった人も、きっとたくさんいたでしょう。

 これが、一番、多かったのではないかと。


 進んで協力した方も、あったのでしょう。


 なかなか、難しい問題があるようなのです。


 フルヴェンさまも、その事件後、国際的な評判も気にして妥協してきたナチス側と和解策をとって、演奏活動を続けましたが、(フルヴェンさまだから出来たのです・・・)一方では、ナチスに対する抵抗活動も行っていたようです(音楽家の亡命を手助けしたり・・)。戦後、こうしたことは大きな議論になりました。フルヴェンさまは、ナチスの協力者だったのか?という問題です。


 戦後しばらく活動が出来なくなったフルヴェン先生が、活動再開できた後に、短い期間で亡くなってしまったのは、世界にとって、大きな打撃だったと思います。


 長生きしてくださっていたら、もっと歴史の様々な事実も明らかになったでしょうし、なにより、大きな、もう二度と現れないような、音楽的遺産が失われたのですから、残念でたまりません。


 この方の指揮姿は、前にも書いたような気がしますが、相当異様なのですが、出てくる音楽がすごかったことは、録音が証明しています。


 ヒンデミット先生も、辞職やら休職やらを余儀なくされ、トルコに移り、のちスイスからアメリカに渡っています。


 まあ、このあたりは、すでに壊れかけのやましんには、知識も少なく、またも逃げを打ってここまでにしますが、こうした芸術・芸能関係に対する、ときの権力側の弾圧ということは、まったく無かった時代の方が多分珍しいわけで、今後もないと言えるかどうかは、いささか、心配です。 ですよね?


 それはともかくも、これがまた、いい、音楽なのですねぇ。


 日本人にとっても、きっと、非常になじみやすい音楽です。


 作曲家としても、演奏家としても多彩な才能を持っていたヒンデ先生のことで、実によく出来ていて、まったく聞き手を退屈させません。


 いくらか、別府の地獄めぐりをしているような、ちょっと危ない雰囲気も格別ですし、一方で、気品というものも、ちゃんと備えています。


 おまけに、この時代の音楽としては、とっても聞きやすいものです。


 特に第1楽章は、なんとなく、盆踊りとか、NHKの『なんとか紀行』のテーマ音楽に近親性があるようにも聞こえるのは、日本人の感性からくるのでしょうけれども、けっこう、じゅわっときます。


 『歌劇』の方は、やましんも見たこともなく、ネットで調べて見ても、CDなどはあまり出ていない現状のようですが、『交響曲』は、人気もあると見えて、かなりたくさん出ております。


 実際、なかなか乗る音楽です。


 聞いてない方は、歴史の方はともかくとして、是非音楽を、どうぞ。




 


 


 










 


 

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