第279話 詰め所

 パラゴの後をついて行くと、途中から道を外れ小さな獣道に足を踏み入れる。

 それからしばらく行くと果たして森の中に一軒家が見えてきた。

 

「多分、あれが奴らの詰め所だ。水と食い物くらいあるだろうからあそこで休憩していこう。中に残党が残っているかも知れないから、ほらアンタの出番だぜ」


 パラゴは顎をしゃくってマーロに促す。

 マーロは渋い顔をしながらも剣を抜き、小屋に向かっていく。

 その背にパラゴが追加の言葉を投げかけた。

 

「ああ、待て待て。一応言っておくがここは迷宮じゃない。非戦闘員は殺すなよ」


 その指示にマーロは立ち止まったものの、振り返りもせずに再び歩き出した。

 

「なんでここに詰め所があるって解ったの?」


 取り残された僕は手持ちぶさたも手伝い、パラゴに聞いた。

 

「山の中で長時間滞在するのはつらいもんだ。水や食料、寝泊まり出来る施設がなきゃ通行人を襲うどころか自分たちがくたばる方が早え。で、そういう見当を付ければ山賊が歩いてきた痕跡を逆にたどるだけだ。返り討ちに会うなんて考えてもいなかったんだろうな。隠す気もなくてわかりやすかったぜ」


 言われて周囲を見回したのだけど、人が歩いた痕跡なんて僕には見つけられなかった。

 やはり盗賊という職能で達人になった事はダテじゃないのだろう。

 

「で、実は食い物とかどうでもよくて、誰かいりゃあ儲けものくらいの探索なんだ」


 と、小屋の中から悲鳴が響いた。女のものだ。

 続いて物が壊れる音が激しく響きわたる。


「落ち着きなさい、私は怪しい者ではない!」


 小屋からうろたえながら出てきたのはマーロだった。

 それを追いかけて出てくるのは顔を真っ赤にした中年女性が一人。

 手には長い包丁を持ち今にもマーロに襲いかかりそうだ。

 飯炊き女房かな?

 そりゃあ、山賊と言えば男所帯と相場が決まっているものだけれどねぐらまで男で統一する必要性はない。

 家事をこなす為に雑役婦を置いてもいいし、それを妻にやらせてもいい。

 さらにいえば、彼らのような連中は捉えた女を脅し、無理矢理に働かせる事もあるだろう。

 いつの間にか情が通じ、正式な妻に納まる者も出てくるものか。

 まあ、関係無いけどね。


『眠れ!』


 僕の魔法が興奮した女の意識を飛ばした。

 リュックから縄を取り出してマーロに投げやる。

 マーロはすぐに意図を理解したらしく、女を引き倒して手足を縛った。

 

「なるほど、中にまだ誰か残っていればいいね」


 僕はようやくパラゴが欲することを理解出来た。

 山賊の一味ではない、誰かが囚われていることを期待しているのだ。

 おそらく、僕たちと同じように麓の村でダマされて山道を登らされた愚か者。

 そしてその者達はきっと僕たちと同じ方角に進みたかったはずだ。

 マーロに代わって建物を覗くと、剣を握った男が斬り捨てられて倒れていた。

 その向こうで振るえている小柄な人影が二つ。

 いずれも首と両手を鎖で縛られており、鎖の先は壁の輪に繋がっている。

 どう見ても山賊一味ではない。

 さて、しかし存外に広い建物だ。二階まである建物の中で他に人はいないだろうか。

 これが迷宮の中で、彼らが魔物なら捜すまでもなく居場所をつかめるのだけど、地上の一般人が相手だと一号謹製の魔力感知器官もほとんど用をなさない。

 

「コルネリ、人を捜して」


 僕が背を撫でながらお願いすると、コルネリは快諾して廊下の奥へ飛び出していった。

 言語感覚が異なるので、彼が考えた事をそのまま理解出来る訳ではないのだけど、それでも感情の動きくらいは互いに通じている。

 彼の鋭敏な感覚が何かを見つければそれだけで人がいる参考にはなるだろう。

 すると、二階で数人の気配を掴んだらしい。

 とにかく、全員を確認してみよう。僕はため息を付きながら階段を上った。


 ※


 ノラ隊との冒険の後、ステアと結婚する事になったのを、三日がかりの説得のすえにルガムは許してくれた。多少は痛かったけど。

 当然、心からの納得ではないのだけれどステアに対してもルガムが友情を感じていたのが決め手になった。

 様々な条件はついたし、話し合いに同席したシグもあきれ顔を浮かべていたけど、とにかくルガムは認めたのだ。

 それから、ステアと小雨の脱退、分派設立の件ではローム先生とも話し合いをした。

 激しい反対を受けるかと思ったのだけど、最近一層老け込んだ老婆は、ステアと小雨に決心の固さを尋ね、気が変わらない事を確認するとため息と供に認めてくれた。


「二度とこちらの……いえ、余計な話はやめましょう。これからは家族ではなく隣人として付き合うことになります。これまでのようには手を貸せませんがどうかお幸せに」


 それだけ呟くとローム先生は早々に引っ込んでしまった。

 

 僕はいろいろと忙しく、そうこうしているうちに借金は清算されて正式な都市市民となった。

 市民戸籍取得の祝いにご主人からも祝い金を貰ったのは驚いたのだけど、とにかく僕は奴隷ではなくなり、それに伴っていろいろと義務も権利も調整される。

 お腹の膨らみだしたルガムもその頃には心の折り合いを付けてくれたらしく、奴隷からの解放については素直に祝福してくれた。

 恒例の面会で子供を製作途中の一号にも報告した。

 お腹を大きくした彼女は手を取って喜んでくれ、子供も順調なようで僕も嬉しかったのだけどその帰り、ブラントから呼び出しを受けたのだった。

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