拾と弐の日

屋根のてっぺんで、遠くを見晴らしていた時だった。

自分自身がわからなくなって泣き明かした次の朝。

「小鳥も牛も、木も自分も君も変わらず生きている。生きてさえいりゃあ、大抵のことはなんとかなる。自分はこの空に行くのが夢なんだ。どうだ」

その言葉には一切の戸惑いもなかった。彼と共にいるのは、この地にまた命を灯す。それが互いの共通目標であったが故・・・・・・という自分への言い訳も、この時使えなくなった。彼に魅せられていたのは、この世界だけではなかったらしい。

だから、私はそんな彼に憧れに近いものを抱いた。

「決めた。私の名前は、『アイ』がいいな」

「はは、一人称だ」

それは彼の一人称が、『自分』だった事にも影響されたのだが、その事にきっと彼は気付かない。

「ラヴの化身に笑われた、もうお嫁にいけない」

十分ほど四つん這いになってうずくまるラヴの化身。相変わらず後悔先に立たず、だ。

「ね、ラヴィさん。青空のむこうには、なにがあるんだろうね」

天高い場所へ手を伸ばす。

もちろん脳内のだれもかれもが不鮮明だとか何も無いだとか勝手な事を吐き散らしてくれる。でも私にとっては意味が乏しい。この目でしかと見るまでは信じるもんか。証明する人は誰一人としていないのだから。

この壮大な蒼に、一縷の希望を伝えたい。空の向こうにある景色は、きっと青を超えた美しさで満ち満ちている。イメージもないし、単なる望郷であり理想の白紙だけど、それを美しいとおもうのだから、やはり人は空を目指すように作られているんだ。その空の一端を担う大きな存在、それがこの地なのだと親身に感じる。

二人だけじゃなく、もっと多くの可能性に巡り会えたら、どれ程喜ばしいことか。彼と一緒に、この地の代表として触れ合うのも悪くない。

だから、願わくば―――

「この向こう側に、私たちの祈りを」

それが私の夢だった気がした。

また、一日が終わる。

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