弐の日と参の日

弐の日

彼の言う聖域、それは素朴な一軒家だった。

男一人の家に女が乗り込むなど社会倫理的に言語道断だろうが身寄りのない私にゃ関係ない。安定した生活を送ることこそ最低限かつ最大目標である。

デジャヴ。どこか、目覚めた家も同じ家具配置だったような気がしたが、気のせいかもしくは似ているものなのだろう。勝手に納得した。

参の日

畑を耕して、魚を釣って、生ける命を断ち自らの糧とする。そんな当たり前に思える連鎖システムが、何処か遠い物に思えてならなかった。けれどこの生活を始めてからは自然の恵みと淘汰が身に染みて迫って来てしまって、生きようとしなければ幾ばくもなくこの世からさよならになる現実をゆっくり受け止めていった。楽して衣食住足り得る万歳生活は幻想郷もかくやというものであった。

私は充分に、満たされていた。となりに自分の片割れとも言うべき彼がいてくれたから。

「ラヴィさん。私はあなたで」

ただ二人以外、人は誰ひとりとして見ることがなかった。どうして私達以外に人がいないのか。それを聞くことは禁忌の業に違いない。不安として込み上げるものは口に出さないでおこう。きっとそれでいい。今を生きていくことが、私に今出来る精一杯の足掻きだから。

「自分は君で」

私達は気が合った。あらゆることにおいて息がピッタリ。牙の鋭く生えた獣に脅かされた時も瞬く間に死んだフリという選択肢を選べるくらいには瓜二つであった。気持ち悪い程に似ている私達が、深い関係になるのにそう時間はかからなかった。

その日は初めて彼に髪の毛を結ってもらった。三つ編みというらしい。なんだかその結び方が、とても好きだった。

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