桃の章

「はあ・・・」


もう、彼女の声を聞こえない。

地中深くに埋めたから。


これで、また危険分子は取り除かれた。



額を片手で拭う。

独特の緊張感が未だ離れなかった。


これで次のステップに進める。

ハズだった。


「はあ・・・、はあ・・・」


私の目の前に現れたのは息を乱した、


“英雄”だった。




「まさか・・・、キミが・・・」


私はその状況下で、具体的な感情を表現することが出来なかった。


「アライさんをどうしたの・・・」



「・・・地中に埋めました」


「・・・・なんでそんなことを!」


「だって、彼女は・・・、“英雄”だから」


「意味がわからないよ」


冷たい声でそう言う。




「あなたも、“英雄”なのよ」


私はシャベルを持って彼女に殴り掛かった。


「うわおっ!!」


避けた。流石英雄だ。


「こんなことして・・・、タダで済むと思ってんの?」


「“芽”は摘んでおかないと・・・、危ないじゃない・・・」


私はシャベルを持ったまま、彼女を追いかける。


「ハァッ・・・、ハァッ・・・」


ここの所運動不足だ。

アライさんを探す時に脚力を使い過ぎた。


(こうなったら・・・、野生解放っ)


残りの体力を振り絞り、野生解放する。

この場から逃げ切らなければ。

そして、真実を伝えなければ。


「逃げきれると思うの・・・?こっちだって・・・」


野生解放する。




(死ぬものか・・・ッ、ここで死んだらっ・・・)



「...アッ!!」




「ちょっと、運が悪かったみたいですね・・・」


「やめっ!!」


私は転んだフェネックに対し、躊躇することなく手を伸ばす。


「うあっ、ぐっ、うるしい・・・ッ!」


「死んで」


「があっ、あっ、あら・・・、い・・・、さ・・・」


首に掛けている両手の力を強めた。


「くあっ・・・」












「先生!大変です!!」


私は寝起きの先生に声を掛けた。

この頃執筆が徹夜することが多く、朝遅くに起きる。

行動パターンも把握している。


「どうしたぁ、アミメキリン・・・」


「夜、アライさんが出て行くのを偶々見たんです!

そ、そして、後を付けたら・・・、も、森で・・・!」


「もしや・・・、んなまさか!!」


「とにかく来てください!!」


「ああ!」


書置きを残し、慌ててキリンと共に図書館を出た。






ここから結構歩いた所、森の開けた場所・・・


「先生・・・、これ・・・」


アミメキリンが指を指した場所、そこには・・・


キィイイイ・・・、キィイイイ・・・


風に揺られ、軋む音を立てる。


私が見たのは、首を吊って死んでいる・・・


フェネックだった。




「どういう事なんだ・・・」


隣のキリンに私は尋ねた。


「昨日の夜、物音がして様子を見たらアライさんが一人でどこかに行ったので、

こっそり後を付いていったら・・・」


“フェネックがアライさんを殺したんです・・・”


その言葉で驚愕した。


「は・・・?嘘だろ・・・」


「でも、ちゃんとこの目でその場を見ました。

身の危険を感じて私は急いで逃げたんです!」


「・・・」


私は左手で肘を、右の手で顎を押さえた。



(何でフェネックはアライさんを殺すんだ・・・?

キリンの事は信じたいが・・・)


「きっとフェネックは連続殺人の犯人なんですよ!!

自分の責任から自殺したんじゃないんですか?」


「推測だけで判断するのは迂闊な気がする・・・

冷静になって考えるべきだ」


「そうかもしれませんが・・・、今あるこの状況では

そう判断するしか・・・」


(作家としての想像力が試されるな・・・)





「タイリクさん!」


その声で私は振り返った。


「かばん!」


「書置き見たよ!!」


かばんとサーバルが来てくれたのは助かった。

この事件の事をある程度追っている。


「私と協力して事件を解決してくれ・・・」


「僕はいいですけど・・・、もしかして、ここで何か・・・」


「ますます悪い事態が起きた」


私は一旦息を吐き、かばんに状況を見せた。


「フェネックさん・・・」


「うぇぇ...」


サーバルが嫌そうな声を出した。


「取りあえず、降ろすのを手伝って下さい・・・。かわいそうですから・・・」


「ああ」


私は、かばんと共にフェネックを降ろした。



「どういう事の成り行きですか・・・」


フェネックを見つめながらかばんは言った。


「昨日の夜、アライさん出て行くのを見かけたんで、

後を付いていったんです。そしたら、フェネックがアライさんを・・・、殺してたんです」


「・・・・」


「そんなはずないよ!あんなに二人仲良かったのに!」


サーバルが声を張った。

私も、かばんに耳打ちした。


「それなんだよ・・・。アライさんを殺す理由がわからない」


「まあ、状況を調べてみましょう」


かばんはしゃがみ、フェネックを再度見つめた。

首には縄の跡。


(アレ・・・?)


スカートのポケットの部分が膨らんでいる事に気づいた


かばんはその中身を取り出す。


「これは・・・」


「それって・・・!」


「キノコ?」


僕は朝のやり取りを思い出す。

助手が博士を殺したのはフェネックだと言っていた。

もちろん彼女は否定をしていた。


彼女が博士を殺す理由が無いから。


だけど、彼女のポケットに入っていたのは・・・


博士の死因になった“キノコ”だ。


しかし、博士が残したダイイングメッセージと矛盾する。


「これは博士さんの死因になったキノコと、恐らく同じものだと思います。

ですが・・・、大きな矛盾が生まれます。もし、フェネックさんが博士さんを殺した犯人だとするなら、

博士さんが書いたダイイングメッセージの“き”。これと辻褄が合いません」


「本でみたことあるけど、フェネックは確か、“キツネ”の仲間じゃないか?」


私はそれを指摘した。


「タイリクオオカミ、でもさ、私だったら、“ふ”って書くな~。

だって、わかりにくいじゃん」


意外にもサーバルがそう私の意見に反論した。


「サーバルちゃんの言う通り、“わかりにくい”

フレンズが何人も殺されてる状況に置いて、あの博士さんがそんな事をするでしょうか?」


「・・・それもそうかもしれない」


「犯人は、恐らく・・・、フェネックをこの一連の事件の犯人にしようと・・・、考えた」


私と、かばん、そしてサーバルは、不意に彼女の方に視線を向けた。


「・・・な、何ですか!今度は私が犯人とでも?」


「アミメキリンさん・・・、気になるんですよ。

何であなたは、“フェネックがアライさん”を殺したって言ったのか。

喧嘩はするかもしれない・・・、けど心の底から殺したいだなんて思うはずありません。

それに、“アライさんは殺された後、どこに行ったんですか”」


「あっ!!」


サーバルは声を上げた。


「・・・死体が無い」


私も小さく呟く。


「実を言うと、今、僕は気づいたんですけどね、

フェネックさんは穴を掘るのが得意です。

アライさんを殺した後、穴を掘って、投げ込む。

そして土をかぶせた後、自分は自殺する。

フェネックさんが犯行に及ぶことは可能です。

ですけどね...」


かばんは歩いて、一面緑の中、一か所だけ土が露わになっている場所まで

移動し、そこを指さした。



「見てください、この穴、“フェネックさんが掘るには不自然”なんですよ」


「どういう事だ?」


「穴が綺麗すぎるんです」


かばんはそう言った。


「ここの穴の所、切り取られたように、綺麗じゃありませんか?」


「確かに・・・、そうだな」


私はそっと肯いた。


「それに、サーバルちゃん」


「な、なに?」


急に指名されたサーバルはビクッとした。


「フェネックさんが穴を掘るとしたら、どうやって掘る?」


「えっ、地面の土を掘って...」


「どのくらいまで?」


「奥深く・・・?」


「じゃあ本人はどうやって、深く掘った穴から出るの?」


「ああっ!!出る用の穴が必要だね!」


「そう、出る用の穴がないといけないんだよ」


かばんは腕を組んだ。


「それが無いということは人為的に掘られたという事・・・

それにアミメキリンさん...」


帽子を人差し指でちょいと上げた。


「あなたの名前に“き”が入っているじゃないですか」


「それに・・・、フェネックは悪い子じゃないもん・・・」


「サーバルちゃんの言う通り、

フェネックさんは虫も殺せない優しい人物です・・・」


私は内心ドキリとした。

そんなまさか、彼女が・・・


「せ、先生!!」


アミメキリンは私の脚に縋った。


「私はっ・・・、誰も殺してません!信じてください!

先生ならきっと・・・!!信じてくれますよね!私の事っ・・・」


「・・・・」


アミメキリンがそんな事をするはず・・・


「かばん、サーバル・・・。この事件の犯人はキリンじゃない!

きっと本当の犯人がいるはずだ。私がそれを証明して見せる。

キリンは無罪だ・・・」


私はアミメキリンを信じた。

いや、たとえ、彼女が“はい、やりました”と言ったとしても、

私はキリンはやってないと主張したはずだ。


「せっ、先生・・・!!」


「タイリクさん・・・」


かばんは弱弱しく私の名を呟いた。


「アミメキリン、一度図書館に戻って考え直そう」


「あっ、ありがとうございます!!」


私はアミメキリンと共に、図書館へ引き返した。


「どうするの・・・、かばんちゃん」


僕も正直言ってわからない。


「とりあえず、フェネックさんがかわいそうだから、

アライさんと一緒に・・・、してあげよう」


その提案にサーバルはそっと肯くのであった。

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