緑の章

ヒグマさんを弔った後、僕とサーバルは一度図書館に戻る。

今回起きた“事件”は長引きそうだ。


科学の知識や道具のないこのパークでは犯人を特定するのは容易いことじゃない。


図書館に戻ると、博士達がいた。

いつの間にか帰って来ていた。


「あっ、博士さん帰って来てたんですね」


「図書館を留守にするとは何を考えてるのですか、全く」


僕は博士にお咎めを受けてしまった。


「すみません、事情があって・・・」


それを説明しようとした時にまた来客があった。


「ハァハァ・・・、ハカセさん大変でありますっ!!」


湖畔に住むプレーリードックだ。

慌てた様子で、息を乱している。


僕はその尋常じゃない様子を見て、嫌な予感がした。


「どうしたのです」


「湖に・・・、何か浮いてるでありまして・・・」


「浮いてる?」


(まさか・・・)


「行きましょう、サーバルちゃん、博士さん、あと、助手さんも・・・」


僕はサーバルと博士達と共に“こはんちほー”へと向かった。






「こ、これは・・・」


「なんなのですか!?」


博士と助手は驚いた様子だった。


湖面に浮いているのは黒い毛に、白い角...

見覚えがある。間違いなくあの“フレンズ”の特徴を持っている。


「・・・ヘラジカさん」


「あっ、博士さん達、それにかばんさんも・・・」


僕たちの方へ寄って来たのはアルマジロであった。


「あの・・・、状況がよくわからないんですけど、何があったか教えてくれますか」


「ヘラジカさんが朝居なかったんです。暫く待ったんですけど、全然来なくて、

ここまで探す範囲を伸ばしたら、アレを見つけて、近くに住むプレーリーさん達に

相談したんですよ。ところで、アレはヘラジカさんじゃないですよ・・・ね?」


「・・・・」


その答えに僕は言葉が詰まる。


「引き上げてみれば、わかるのでは...」


助手がそう言った。


「やりますか?」


博士は隣の助手に目を合わせた。


「僕は泳げないので・・・、お願いします」


「・・・、この借りはちゃんと返すですよ。かばん」


「・・・、倍にして返すのです」











「そんな...」


ヘラジカの部下達はみんな恐ろしい顔をしていた。


「ま、まさか・・・」


「これは・・・、非常事態ですね・・・」


博士達も困惑している。


「間違いないですね。残念ながら、ヘラジカさんです」


下に俯きつつ答えた。


「野生の姿に戻ってる・・・」


サーバルも声を微かに震わせた。


「あっ」


その姿を見て僕は声を上げた。


「刺さってる・・・」


僕が見つけたのは腹部に刺さっている細長い物。


「これはどういう事なのです、かばん」


「“殺人事件”です」


博士の問いに、僕はそう答えた。


「さ、さつじん・・・?」


ヤマアラシは目に涙を浮かべながら呟いた。


「じ、事件・・・」


シロサイは明らかに動揺していた。


「はい・・・、ヘラジカさんは誰かに殺されたんです」


「な、何でそんなに詳しいのですか・・・」


博士が突っ込んだ所はそこだった。


「推理小説を読んで覚えました。それより・・・」


(ヒグマさんと同じだ。夜中に殺された・・・。

もしかして、同一犯...?)


「これ、抜いていいですかね」


僕はヘラジカに刺さっているそれを抜いていいか一応確認を取る。


「我々はこんな状況初めてなのです・・・」


「慣れているならさっさとやっていいのです・・・」



僕は、ヘラジカの腹に刺さっていたそれをゆっくり抜いた。


「これって・・・」


「それは・・・、刀」


ずっと黙っていたハシビロコウが小さい声で答えた。


「ヘラジカさんが・・・・、大切に持っていた・・・」


(ヘラジカさんが大切に持っていた物?自分の物で自分が刺された・・・)


「サーバルちゃん」


「なに!?」


「何か・・・、地面に擦ったあととか、血の跡とか、木の傷とか、

些細な痕跡が無いか見つけてほしいんだ」


「えーっと、変だなーって思うヤツでいい?」


「まあ、うん。そんな感じで」


「わかった」


サーバルは肯き、辺りを探し始めた。


「因みに、どなたか、ヘラジカさんが誰かに会っていたか知っていたりしませんか?」


部下のフレンズは全員沈黙したまま何も答えない。


「しかし、何故ヘラジカはそんな大切な物を持って出かけたりしたのですか・・・」


博士が疑問を口にした。


「それです。僕もそれがわかりません。いくら何でも警戒心が・・・」


(待てよ・・・。仮に犯人がヘラジカにその刀で合戦をしてみないかと言えば・・・)


ヘラジカの性格から考えて、“そうかそうか”と言って本当にやって来そうだ。

もしかしたら、本人は刀が人を殺せるような性能は持ち合わせているとは思っていなかったかもしれない。


「かばんちゃん!!ちょっと来て!!」


サーバルに呼ばれて、僕はそちらへと向かった。


「ほらここ!」


指さしたのはとある一本の木の根元。


「地面になんか跡があるよ!」


「そうだね・・・。これは・・・」


引きずられた跡だろう。

恐らく、この場所で殺されて、引きずられて湖に投げ捨てられた。


ヒグマと同じだ。

殺された後、投げ捨てられた。


(同一犯で間違いないだろうな・・・)


「昨日起きたヒグマさんが殺された事件と関係があるかもしれません。

一回図書館に戻って、考えてもいいですか」


「ヒグマも殺されたのですか!?」


博士は驚いた声出した。

そうだ。僕はそのことを言っていなかった。


「そうなんです。殺され方の手法が似ているので、同じ人物が

ヘラジカさんも殺害したと思うんです」


「・・・どうも、我々が“踏み込んではいけない領域”にかばんは踏み込んだようですね」


博士は溜め息を混じらせながらそう言った。


「・・・我々には手に負えないのです。そう言った事件は、初めてなので」


助手も博士と似たような言い方だった。


「一回、図書館に戻りましょう。部下の皆さん、どうか、ヘラジカさんの

お墓を立ててあげてください」


「・・・・」


ヘラジカの部下達に簡単にレクチャーし、僕たちは図書館へ戻ったのだった。


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