黒の章

平和なジャパリパーク。

ここでは、静に時が流れている。


僕は図書館でサーバルと共に平穏な人生を送っていた。



しかし、この時なぜか僕は不穏な風を感じた。




「た、た、大変です!博士ッ!!いや誰でもいいです!!」


慌てて図書館に飛び込んで来たのは、セルリアンハンターのリカオンであった。


「どうしたんですか・・・?」


その時最初に応答したのは僕だった。


(そう言えば、博士さん達は羽を休めるとかっていって、暫くは雪山に行ってるって言ってたなぁ)


「かばんさん!!あぁ....、えっと....、と、ともかく、聞いてください!

ヒグマ先輩がいないんですよ」


「いない?」


「ええ...。あの人が断りも無くでどこか行くなんて珍しいことで...

朝からキンシコウさんと探してるんですけど・・・」


「僕も、手伝います」


「なになに、どうしたの?」


遅れてサーバルが後ろから、声を掛けた。


「ヒグマさんが居なくなったって・・・」


「そうなの!?大変だね、探すの手伝うよ!!」


「あぁ、ありがとうございます!!」




僕は、サーバルとリカオンと共に、周辺を捜索した。

だけど、僕たちが見つける事は出来なかった。

日が傾き始めたころ、リカオンたちが拠点としていた場所に戻ると、

リカオンの同僚である、キンシコウが座っていた。


しかし、様子が妙に感じた。


「キンシコウさん、ヒグマ先輩見つかりましたか?」

リカオンが問いかけると、キンシコウは溜め息を吐いた。


「見つかったわ...」


「見つかった!?でも、なんで連れてこないんですか?」


「・・・、付いて来て」


キンシコウは立ち上がり、僕たちをその場所へと案内した。

小一時間程歩いて、足を止めた。


辺りは山の麓、崖の下だった。

右側は崖になっている。


「・・・ほら」


「えっ・・・」


その場にいる全員が絶句した。


「せ、せ、先輩・・・!?」


うつ伏せになり倒れているヒグマをリカオンは必死に揺すった。

しかし、彼女が起き上がる事は無い。


「いっ、一体何が!!」


「リカオンさん、落ち着いてください」


僕はそうリカオンに言った。


そして、ヒグマを見る。

頭から血が出ている。


間違いない。これは・・・


「ヒグマさんは・・・、残念ですが、死んでますね」


僕がこんな事を言う時が来るとは思わなかった。


「死ぬってなーに?」


サーバルがとても難しい質問をする。


「もう動かないって事だよ」


ザックリと言った。


「えっ!?ええっ!?何とかならないの!?」


「人間は一度死んだら、動かないって本に書いてあったから・・・」


「どうしてこうなったんですか!!キンシコウさん!!」


動転したリカオンはキンシコウに迫る。


「ちょ、ちょっと・・・、私も知らない・・・」


困惑するのも無理もない。


「皆さん、落ち着いてください。一旦落ち着くことが肝心です」


僕がこの場を静める。


「状況を察するに、ヒグマさんは、あの山の崖ら落ちたと考えられます。

・・・今日は暗いので一度戻りましょう。明日、僕が調べます」


一旦、ハンターの拠点へと戻った。


僕は、図書館にあった“推理小説”に最近ハマっていた。

ある程度の単語や意味は頭に入っている。


平穏なパークで発生した、この事件を解決する。


その為には・・・


僕の相棒、サーバルが必要だ。






≪翌朝≫


昨日の夜は全員ぐっすりと眠れなかっただろう。

僕も実際そうだ。


最初に、“聞き込み”を行う。


「改めて聞きたいんですけど、ヒグマさんを最後に見たのはいつですか?」


「多分おとといの夜です。昨日の朝には居なくなってましたから」


リカオンが答えた。


「誰も、何か物音とか聞いて無いんですか?」


「ええ・・・」


キンシコウが申し訳なさそうに言う。


「最後に、ヒグマさんがあった人物とかは・・・?」


「いや、わからないですね・・・」


「私も・・・」


二人は首をかしげる。


「基本3人で動いていましたから・・・、誰かに別に話しかけるなんてこと、ねえ・・・」


「分かりました・・・、サーバルちゃん」


「なに!?」


「犯人を見つけるよ」


僕はサーバルを連れて、昨日ヒグマを見つけた場所に行った。





改めて、ヒグマの元へ来た。


「えっ・・・」


なんと元の姿に戻ってる。黒い毛の塊と化していた。


(死んじゃうとフレンズじゃなくなっちゃうのかぁ・・・、厄介だなぁ)


ポリポリと後ろの頭を掻いた。


(・・・ヒグマさん、犯人は絶対に僕が見つけますよ)


そう心で誓った。


僕が気になったのは頭の傷口だ。


(何かで殴られた・・・か、石にぶつかったか・・・)


「サーバルちゃん、“石”を探して」


「ふぇっ、石?」


基本ボケーっとしてる彼女を連れてきたのは正解だろう。

死体を見ても動揺してないのはこっち側からしたらありがたい。


「うん、この周辺で、出来る限り集めてほしいんだけど・・・」


「いいよー」


サッサッサッと、石を探し始めた。


僕は崖を見つめた。

この崖から誤って転落した。というのが第一の推測だが、

何故ヒグマは一人でこの山に登ったのだろうか。


それがわからない。


基本3人で行くのに、何故今回は1人で行動したのか。



(・・・待てよ、崖から最終的にこの姿勢のまま落ちたとしたら)


僕は思いその頭を持ち上げた。

顔面を確認する。


(ヒグマってこんな顔だったんだ・・・、いや・・・、そんな事より、何か変・・・)


僕が思っていたよりも、顔から出血が無いという事だ。

かすれたような傷ならあるが・・・。


おかしい。

崖から落ちたのなら、顔面に石が当たってそこから血が流れてって感じだと思うけど、

何故か後ろ側に殴られた後がある。


「やっぱり、誰かに・・・」


僕の考えてることはこうだ。

誰かに呼び出されたヒグマは、この山へ行く。

そして、石で殴られ、この崖から落とされた。


落とされるのが先か後かは微妙だが・・・


「かばんちゃん!!石拾って来たよ!!」


両腕に抱えた石をその地面に置いた。


「サーバルちゃん、“赤い物”が付いていないか、一個一個確認して」


「こんなにたくさん!?」


「いいから、ヒグマさんの為だよ」


地道な一個一個石を確認していく作業が始まった。

しかし、血の付いた痕のような物はない。


「ない・・・、そっちは?」


「ないよ~」


サーバルは退屈そうな声を出した。


(もう一つ可能性があるとしたら・・・)


「サーバルちゃん、あの山に登るよ」


僕は指を指した。


「えぇ~!?」




サーバルを連れて山に登った。

結構入り口を探すのに時間が掛かった。


歩き始めてからもさらに時間が掛かった。


「ここか・・・」


崖下を覗くと、現場を見下ろす事が出来る。


「あっ、かばんちゃん!!」


サーバルの声で後ろを振り向いた。


「ん、なに?」


「これ!!」


サーバルが指を指したのは鋭く尖った岩だった。

中振りで、持つことも容易いサイズだ。


僕はその岩を拾い上げる。


「お手柄だよ・・・、サーバルちゃん」


岩には赤いはねた様な血が付いている。

これが“凶器”に間違いない。


犯人はここまでヒグマを呼び出して、この岩で後頭部を殴ってから、

崖下へヒグマを投げ捨てた。


しかし、まだ事件は解決したわけじゃない。

小説で読んだ。犯人逮捕に必要なのは“動機”


なにか犯人がヒグマさんを殺す理由を考えなければいけない。


だが、わからない。


“誰か”が関わっていたのは間違いないが・・・


指紋鑑定とかすればいいと思うが、

このパークには指紋を取る道具が無いし、技術もない。


山の頂上で、サーバルと共に休憩することにした。


「サーバルちゃん・・・」


「なに?」


彼女にこんな事を聞くことは野暮だろうか。


「動物ってどうしたら、他人を傷つける?」


「・・・・」


彼女の知能では、ちょっと難しかったか...


「襲われたときとか・・・、襲われそうになったとき?」


「・・・襲われそうになった時?」


僕はふと彼女との“狩りごっこ”のシーンを脳内再生する。


襲われた時、僕は腰が抜けて何もできなかった。

だが、ある程度の、ライオンやヘラジカの様な元々強い動物なら

強く抵抗することはあるだろう。


襲われそうになった時というのは、自らに何か危機が訪れると判断して、

予め対処するという事だろうか。


温厚で優しく正義感の強いヒグマさんがセルリアン以外を襲うハズが無い。

道具を使ったという事は、フレンズによる犯行で間違いは無い。


犯人は“ヒグマは何か危ない事をしでかす”と感じ殺した。


そう考えない限り、のほほんとした雰囲気が流れるこの島で殺そうという物騒な思考は生まれない。

しかし、何故“ヒグマが危険だと判断した”のだろうか?


何か、“きっかけ”が無いと無理だ。

皆とでも隔てなくフレンドリーに接することが出来るのがフレンズ達だ。

お互いに認め合い、互いを傷つけあう事は無い。


“誰かにヒグマが危険だと吹き込まれた?”


そう推理するならば・・・。










グサッ



「うぐぁっ・・・、お、お前・・・、何で・・・」



バタッ...



サーッ、サーッ、サーッ・・・。


バシャンッ!!

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る