蘇生の実験

ジロはリーダー格の男に心の精霊による《麻痺束縛シナプスパラライズ》と呼ばれる魔法を使い、足下半身だけを麻痺させる。男はクニャッと地面にへたり込んだ。


 そう言えば、この前エリカにこいつを喰らったなっとジロは頬を綻ばせる。


(油断していたとはいえ、半分人間じゃなくなった俺にあれだけの効果を発揮できたんだ、あいつも日々、魔法研鑽を続けているんだなぁ)


 ジロはウンウンとうなずきながら、教師じみた感慨が湧いてきた。


 リーダー格の男は突然足が使い物にならなくなった事に驚いた。


「な、何をした!?」

「うん? 《麻痺束縛シナプスパラライズ》をかけただけだ」

「う、嘘をつくな!? こんな部分的にかけられる《麻痺束縛》などあるものか!? お、お前は一体何者だ!!」

 そう言いながら、上半身の力で、結構な速さでジロから遠ざかろうとしている。


「なぜ火球が消えた!? 喰ったのか!?」

「火を喰えるか。どんな胃袋でどんな栄養だ、馬鹿野郎。火の精霊自身に食べさせただけだ」


「な、何を言っている!?」


「だからな? 火球を形成する火の精霊が俺にぶつかって威力を発揮する前に、火の精霊達に働きかけて、火球そのものを精霊達に喰わせたんだ。お前らの魔力ででかくなった火球はさぞかし火の精霊達にとって美味だったことだろうよ」


「何を言っている!? せ、精霊!? 概念の話をしてるのではなく、どうやったと聞いている!!」

 男の逃げ足というか、逃げ手がますます速くなった。


「まぁ、待てよ。お客さん」


 そう言ってジロはさらに《麻痺束縛シナプスパラライズ》を両手にかけて、これ以上の逃亡を防いだ。


 いよいよ芋虫のような身じろぎしかできなくなったリーダー格の男は、躊躇ちゅうちょする事なく、舌をかみ切った。


 これだから正真正銘の暗殺者って奴は……っとジロは頭をガシガシ掻きながら毒づき、男が舌を喉に詰まらせて死んでいくのを見守った。


(どうせなら、死んでから治してみよう。死にたてならば俺でもなんとかなるはずだ)


 とジロは考えた。


 十分後、男は窒息して死んだように思えた。

 一応近づいて心臓の鼓動を確認した。

 完全に鼓動は止まっている。


(確かサラは俺が死んだ時、脳を保存したとか言ってたな)


 そう思い出して、自分が使うべき魔法を検索にかけ、とりあえず《停滞スタニャピロレチドス》という信仰魔法だと信じられている魔法を、時の精霊を中心に据え、この場にある全ての精霊をごった煮にするように集めて行使した。


 ジロ自身、集めすぎかなとも思ったが、初の試みだったので一回目で失敗はしたくなかった。


 その緩やかに死んでいった自決によるジロ、あるいは自分、はたまた世間を恨んで死んでいったからか、この場に劇的に増えた『邪の精霊』を使い《治癒キュアー》をかける。


 さすがに普段から邪な暗殺者なだけはあり、瞬時に邪の精霊を受け入れ、死体の傷がグングンと癒えていく。


 さらに死んだ体に《放電エレクトリカ》とサラが呼び、ジロの目の前で生き返らせて見せた秘者の事を思い出しながら、記憶の中のサラがやっていたように本来微弱な雷の魔法の出力を上げ、心臓に向かって断続的にかけ続け、(失敗したかな?)とジロが思い始めた頃に、男が血溜まりを咳き込みながら吐き出した。


 記憶通りになったと自分の魔法の使い方にホッとした。すぐにジロは《停滞スタニャピオレチドス》を破棄する。


(まぁ違いがあるとすれば、サラはあの後、その秘者を無造作にまた殺したんだが……サラの奴、一体なんの為にあの秘者を生き返らせたんだろうか?)


 魔界での事を考え出しそうになった自分を、今はそんな場合ではないと叱咤する。

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